8.練習の日々
入学して1ヶ月あまり、野球部に入部した俺は練習漬けの日々を送っていた。
ピーッ!『そこまで!…よし、今日はこれで終わりだ。しっかりダウンして上がれ』
「ふはぁー……!やっと終わったぁ……さっさと帰って風呂入ろう……」
1年はまず身体作りからと言う事で、地獄の練習メニューに明け暮れる日々。100本連続のシャトルランや、1年全員でダイヤモンド全力ダッシュをコーチがいいと言うまで行ったり。遅れる奴がいたりすると回数リセットで最初から。そんなこんなで日が暮れれば室内で体幹トレーニングや素振り。そして翌朝早朝のランニングから1日が始まる。そんな生活がしばらくは続く。
「はあ……身体をいじめ抜いた後の風呂は最高だな………」
最初の頃は帰るたびにクタクタな上身体中の筋肉痛に苛まれ、風呂の中で落ちかけた事もしばしばだった。それも今となっては週末の美香とのデートと合わせて数少ない癒しの時間だった。
他所の伝統ある名門校、みたいな学校では1年は殆どボールも触らせてもらえず、練習に参加できるのは2年に近くなってから。そんな話もよく聞くが、本当に無意味な伝統だと思う。この学校でも1年生の夏までは野球自体の全体練習にはほぼ参加できないが、こちらはしっかりと科学的根拠に基づいて練習メニューが組まれている。俺としてもトレーニングは嫌いじゃないし、焦らずしっかりと土台を作った方が自分の将来にも繋がる。
俺も最初は仮にも中学でエースを務めていた自負もあり、高校でもエース目指して頑張るぜ!なんて意気込んでいた。だが、先輩達の練習風景を見て、中学とのレベルの違いを実感した。俺より小柄な選手が、どこからそのパワーが出るんだと言うくらい鋭い打球を飛ばす。かと思えば完璧に抜けた!と思える鋭い打球を、さも当然かの様にアウトにする。
そんな先輩達でも甲子園には未だ届いていない。まだまだ全国には凄い奴がわらわら居るんだと、ワクワクする。
「けど、焦りは禁物だよな。怪我したら選手生命に関わる事だってあるんだし、何より今俺は自分がどんどん成長してるのを実感してる。ここでなら俺は、上を目指せる……!」
あえて言葉に出すことで、自分の気持ちを鎮める。それに、もうすぐ夏の予選が始まる。それが終われば、秋からは新体制になり、俺達も全体練習に組み込まれる。そうなれば、苛烈なレギュラー争いの始まりだ。
「絶対にエースナンバーを物にしてやる……!」
そんな決意をしながら、布団に入った。
「そう言えば、最近美香と会えてないな………」
最初の頃は、練習を近くで見に来てくれていた。週末は毎週デートや練習もしていたのに、ここの所はほとんど会えてない。
「まぁ、美香も自分の勉強なんかで忙しいんだろうな………あいつも頑張ってるんだし、俺も頑張って良いとこ見せないとな。」