28.とある噂
年末に近づき、寒さが厳しくなって来た頃。
放課後の教室で、数人の男女が噂話に花を咲かせていた。
「みんな、集まってくれてありがとう。本日の議題は『高橋が紺野さんと別れたという噂』だ。これついて話していこうと思う』
「なに真面目な雰囲気出してんだよ。はよ話せ」
「それな」
「いつもそんな雰囲気じゃないでしょこの集まり」
俺達は殆どが晴樹の小学生から、或いは中学からの友人である。スポーツ推薦の晴樹とは違い、普通科の普通の生徒なので、今現在は深い関わりは無いが。だが、関わりはなくともみんな晴樹のことを憎からず思っているのは確かだ。
「辛辣ねお前ら!?俺はただ親友(自称)の高橋の為を思って「で、何があったって?」
「聞けよ!……まぁ良い。俺さ、ある日の昼休み、すげー眠かったから午後の授業フケようかと思って部室にいたんだけどよ」
「何堂々とサボり公言してんだコイツ」
「それな」
「単位落とせば良いのに」
「今そこはどうでも良いだろ!?と、とにかく、高橋が紺野さんを呼び出したらしいんだ。んで別れ話を始めたんだよ。野球に集中したいとか、そんな事を言ってたと思う」
「そこは聞いちゃダメなやつじゃ……」
「確かに。人の別れ話に聞き耳立てるとか、最低ね。見損なったわ」
めっちゃ冷ややかな目で見られる。そんな話をしたいんじゃないの、俺は!
「まだ話に続きがあんだよ。…………おい、例の話頼む」
さっきまで『それな』しか言わなかった男子生徒。名前を土屋と言う。あまり主張したり積極的に話したりはしないが、友人思いな所が高橋と合うのか、仲がいい。
「……多分その別れ話があった直後か数日後。いずれにしても1週間は経たない頃。……隣町で、紺野を見かけた。…他校の男子と歩いていた。多分星道の制服」
「なんか変なのか?まぁちょっと切り替えはえーなとは思うけどよ」
「まぁ、女はドライだっていうしね。私もすぐ切り替えちゃうタイプだし」
驚くほどの話ではないと思われているらしく、反応は芳しくない。
「………そう言う次元の話じゃない。やたらと親しげだった上に、聞き捨てならないことを言っていた。………恐らくは」
土屋が語った内容。それは、彼女らが二人して高橋を貶すような発言をしていた事実。
『野球だけじゃなく彼女も取られた負け犬』
『努力ばかりしても結果が出なきゃ無意味』
『自分への時間を多く取ってくれるのにそれでいて結果も出せる方が良い』
『別れ話の時ちょっと悲しそうな演技してみたら、後悔したような顔してて笑っちゃいそうだったわ』
どう見ても出逢って1日2日のような親密さではない事。そしてこれらの発言。彼等も気付いたようだ。
「なんだよ、それ……もしかして……」
「二股されてたの……?紺野さんに?高橋君が?」
あいつらが仲の良いカップルだったのは皆が知っている事だった。それ故に、驚きも大きい。
「多分、あいつそれに気付いてると思う。だってあいつは自分の好きな物を、自分を捨てても大切にする奴だ。幾つもあるなら、全部掴もうとする。どっちかの為にどっちかを切るなんて、するはずがない」
あいつが一層と頑張り出した理由も知っている俺には、尚更信じられなかった。
「けど……気付いてるなら、直接言えば良いんじゃないか!?高橋に落ち度は無いんだから、堂々とすれば」
「きっと、最後の情けと言うか……非情に接し切れなかったんじゃないのかな。彼、優しすぎるもの。ずーっと一緒だった大好きな幼馴染みよ?まだどこかで信じたい気持ちや、傷付ける勇気が出なかったのかもね」
本人に聞いたわけではないから、確かな事は言えない。でも、あいつならそれはあり得なくない話だ。
「だけど、それじゃ高橋があんまり過ぎるだろ!紺野は事実も知らずすっぱり別れて間男とよろしくやって万々歳かも知れねえけどさ。でも、下手したら一方的に勝手な別れを告げた奴なんて噂流される可能性だってあるんだぜ」
「あいつは優しすぎるせいか自分に対する悪意に鈍い部分があるからな……。人徳的に噂を信じる奴は少ないだろうが、もしそんな話が出るようなら、俺達で打ち消してやらないと。最悪は、この件を暴露してでも止める。………高橋が望んでなさそうな事だから、あまりやりたくはないが」
「…………情報収集は任せろ。高橋には世話になった。協力は惜しまない」
「それじゃ、私も友達にそれとなく聞き込みとかしてみようかな。そんな女、許せないし」
俺達は高橋とそこまで親密な仲ではない。でも、彼に対する友情は本物だと思っている。優しすぎるあいつが割りを食うなんて間違ってるし、そんな所が高橋の良い所だ。それによって不利益を被る事があるなら、俺達がカバーしてやる。そう決意を固める俺達だった……………。
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最近、何故だか分からないがクラスメイト達、特に昔から付き合いのあった奴等にやたらと励ましの声を投げかけられることが増えた。
『落ち込んじゃダメよ、高橋君!』
『気にすんなよ、俺らは応援してるからな!』
『…………何かあったら相談しろ。手助けする』
『ねぇねぇ、私と放課後お茶でもしない?愚痴とか、聞いてあげるよ?』
『高橋君って、今気になってる子とかいないの?』
何か一部おかしい気もするが、こんな風に声を掛けてくれるのは、嬉しいな。もしかして、秋季大会を見に来てくれた人とかが居るのかな?
って事は、俺が打たれて負けたのが知れ渡ってるんだろうか。ちょっと恥ずかしいな。それで、夏に向けて頑張れよって応援してくれてるのかな?そうだとしたら、情けない所見せないように頑張らないといけないな。
実際、本当に秋季大会を見て応援している人もいる。惚れさせたら一途で、優しく大事にしてくれる事を知っている為、何かがあった事を目敏く察知して狙いに来た女子もいた。真実を知っており、助けになれるように優しい目で見守る友人達も。
それらに一切気付いていない本人は、何故だか分からないが応援してくれてる。頑張ろう。そんな事を考えているのであった……………。
友人がどんなことを思っているのか。都合良く見えるかも知れませんが、こんな友人が近くにいて欲しいなと思いました。




