17.今度は、私が
前半後半で視点が別れます。
ちょっと短いかな?と思うので、もう少しボリューム増やして行こうかと思います。
高橋君の様子が少し変な事には、すぐに気が付いた。後ろからバッティングを眺めている時。公園まで歩いている時。さっきまでの会話をしている時。私の知る彼は、野球に関わっている時はもちろん、普段の生活でも常に明るく周りを笑顔にできる人だった。
そんな彼が、時折悲しそうな、それでいて気持ちを押し殺すような雰囲気を出しているのは、見ていてとても心が痛んだ。だから、聞くことにした。彼に何があったのか。そうして告げられた真実は、予想を遥かに超える酷い物であった……。
「………許せない」
そんな呟きが漏れる。あの優しくて、周りを笑顔にしてくれた彼をよりにもよってそんな方法で傷付けて、なのに自分は新しい彼氏と楽しく過ごしている。高橋君は、心を痛めて大好きだった野球への情熱さえ、失いかけていると言うのに。
「見返そうよ!高橋君!そんな間男は野球でぶっ飛ばしてさ、プロに行って!私はこんな良い男を捨てたんだって、後悔させてやろうよ!」
あの時の感謝と謝罪は伝えることが出来た。でも本当は、もう一つ、伝えたかった想いがある。だけどそれは、今伝えるべきじゃない、そう思った。今の彼は、あの日私を救ってくれた、私の憧れだった彼じゃない。だから決意した。彼を支えよう!そうだ、この為に私は変わったんだと、そう思えた。
今度は私が彼を助ける番。そしていつか彼が自分を取り戻す事ができたなら、その時は………………
(きっと、沙織ちゃんはこういう流れになるって全部分かってて、あんな連絡をしてくれたんだね。私、頑張るよ。絶対に、高橋君の力になって見せる)
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『見返そうよ!高橋君!』
四条は俺にそう言った。ほとんど孤独で、辛く厳しかったであろういじめの傷を彼女は乗り越えたんだ。そんな彼女が、俺の為に怒り、俺を励してくれている。
それに対して今の俺はどうだ?四条に胸を張れるか?
当時の俺は、たしか美香と付き合い始めた直後で舞い上がっていた時期だったと思う。美香にカッコ悪い所を見せたくない一心で色んな物事に積極的に取り組み、揉め事やクラスの問題解決にも尽力した。そんな俺の姿を彼女は覚えてくれているのだろう。なのに、このままズルズルと後退して腐っていくようなら、それこそ四条を幻滅させてしまう。
そうだ、何をウジウジと悩んでいるんだ、俺は?いじめの苦しみに比べたら、俺の悩んでいる事なんてほんの些細な事じゃないか。そう思うと、頭の中のモヤが少しずつ晴れていくような、そんな気がした。
「ありがとう、四条。俺、頑張ってみるよ」
まだ心の痛みが完全に消えたわけじゃない。けど、前を向こう。まずは野球を、練習を楽しんで、あの優男もどきを完膚なきまでに打ちのめしてやろう。
よっしゃ、そうと決まれば明日からは早速練習の再開しねーとなぁ!せっかく買った参考書だって、使わなきゃ勿体無いもんな!
それに、混乱と疲れで頭が回らず気付けなかったが…今にして思えば、偶然訪れた店で四条と偶然再会して励まされるなんて、そんな都合の良い話がある訳がない。
きっと、あの日話を聞いた光が、気を使って手を回してくれたんだろう。幼馴染みで俺と同じ学校に通う清水に頼んで、今日この場所で傷付いた俺と四条を引き合わせるように仕組んだんだ。
(ははっ、そう言うことだったのか‥。大雑把に見えても、しっかり考えて手を回してくれる。野球だけじゃなくて、こういう方面にも気が回るんだな。ほんと頭が下がるよ、お前には…………)
実際の所、光達はそこまでの事は考えていない。なんかこう上手いこと運んでくれるでしょ。そんな雑な考えだった。だが結果的には最善の方向に話は進み、全てを見越して手回しをしてくれた親友。そんな風に過大評価されている事を、本人達は知る由もない………
沢山の感想やブックマークまでいただけて、とても感謝しております。
1話辺りの話が短いよ!逆にもっと短くても良いよ!いやいやこんなもんでしょ。そう言った点を書き込んでもらえると反省点が見つかってありがたく存じます。今後とも当作品をよろしくお願いします。