16.伝えたかった言葉
「ごっ、ごめんね高橋君……!私が驚かせちゃったから…!終わる頃を見計らって声かけようと思って待ってたんだけど……背中、大丈夫?」
「大丈夫大丈夫、よそ見してた俺が悪いんだし。逆にこっちこそ、変な事口走って驚かせてごめんな」
バッティングセンターを出た俺達は、帰り道の途中にある公園のベンチで会話していた。
「ううん、そんな風に思ってもらえて、嬉しかった。私が努力してきた事は無駄じゃなかったんだって。………高橋君。ずっと伝えたかった事があるの。あの時、私を助けてくれて、ありがとう。貴方がいたから、私は変わることが出来たの。‥お礼も言わずに転校してしまって、ごめんなさい」
「どういたしまして。それに、謝る事なんてない。俺がしたのはいじめを止めるまでで、それ以外は全部四条が掴み取った結果だ。きっと、沢山沢山努力したんだろうな。諦めずに、前向きに………今の、俺とは違って」
そんな事を考えると、つい自嘲的な言葉が漏れてしまった。あの四条は、いじめの辛ささえ乗り越えて前に進み自分を変えた。なのに、俺は………
そんな雰囲気を察してか、四条が問いかけてくる。
「ねぇ、高橋君…?なにか、あったの?もし良かったら…聞かせて、もらえないかな。私にもなにか、恩返しをさせて欲しいの」
慈しむような、穏やかで優しい眼に惹かれ、俺は全てを話した。中学の最後の試合での事。美香への想いと、それを裏切るような出来事。失いかけてしまった野球への情熱。整理もされない支離滅裂な心情の吐露を、四条は最後まで聞いてくれた。
ふと、四条が立ち上がった。あぁ、あまりの醜態に幻滅されてしまったんだろうか。それも仕方ない。こんな有様では………と、思っていると彼女はワナワナと肩を震わせ…
「……なによそれ。ありえない!そんな事が、そんな酷いことが許されて良いの!?高橋君も高橋君だよ!そんな奴、ビンタの1発でも喰らわせて手酷く振ってやれば良かったのよ!大体、まだ高校生よ!?これからどんどん仲を深めていけば良いじゃない!不満があるなら、普通に別れれば良いだけなのに、態々こんな風に傷付けて!」
うがーっ!と口から火を吐かんばかりの勢いで激怒する四条に、俺はさっきまでの落ち込んだ感情すら吹き飛ぶほどに驚かざるを得なかった。いじめられていた時だって感情を表に出したりしなかった四条がここまで怒るなんて。感情豊かになったのは、喜ばしいことなのだろうが………そんな逃避的な思考に耽った。