12.親友
翌朝。目が覚めた俺は顔を洗いに洗面所へ向かう。
「ははっ、すげー顔……」
寝不足による隈と、泣きはらしたまま寝たことによって腫れぼったくなった目で凄く不細工に見える。元からイケメンとは思ってないけどさ……。はぁ。何が天城に勝つ、だよ…試合には負けて彼女も取られて、顔でも負けてる。やる前からボロ負けだったって訳だ。何がライバルだよ……。駄目だ。じっとしてるとどうしたって嫌なことばっかり思い出してしまう。こんな時こそ、練習だろ。
俺は何かを頭から追い出そうとするかの様に、無心でトレーニングを始めた。
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やっぱりトレーニングは良い。体を動かしてる間は、余計な事を考えずに済む。部屋に戻ると、昨夜から放置しっぱなしの携帯に不在着信が入っていた。
「誰だ?わざわざ電話なんて………ん?光からの不在着信が……10件!?何だ?何か急ぎの用でもあったのか?」
真中光。中学校でバッテリーを組んでいた親友だ。走攻守揃った捕手で、セオリーに嵌らない攻撃的なリードでチームを引っ張って来た。俺は当然、同じ高校で甲子園を目指すものだと思っていたが、本気のお前と戦いたい。と言って星道に進学したはずだ。…ちなみに、野性味溢れる風貌でかなりモテる。
と、そんな事を考えてる間にまた電話がかかって来た。
「……もしもし?光か?何だよ急に電話なんて……」
『晴樹か!?久しぶりだなー!元気にやってるか?彼女とはどうだ?相変わらずラブラブか?』
‥‥ピンポイントでそこをついてくるか。悪気はない‥と言うか知らないんだから仕方ないが……
「まぁ……元気だよ。体は、な。」
『??何か含みのある言い方だな。それに、少し元気ないような感じするけど、何かあったのか?話ぐらいは聞くぜ?』
「そんなつもりはなかったが……よくそんな事に気付けるな」
『こちとらお前とずっとバッテリー組んでたんだぞ?それに投手の小さな変化に気づけなくちゃ捕手なんて務まらねえよ』
こいつの場合、打算とか関係なく素で人に気を使えるからモテるんだよな。一人で抱えるより、誰かに話した方が気が楽になるかもしれない。何より、こいつなら信用できる……話してみるか。
「実はさ………美香と別れようと思うんだ」
『はぁ!?嘘だろお前!何があった!?こないだまであんなにバカップルしてたじゃねぇかよ!それがどうしてそうなった?』
俺は、以前見かけた光景をかいつまんで伝えた。
『マジかよ………あの美香ちゃんが……冗談や見間違い……な訳ねぇよな。お前がそんな事言う奴じゃねえのは分かってる。俺も混乱してるよ。にしても…よりによってウチの天城とかよ………そりゃ、なんつーか…』
あぁ、そうか。衝撃受けすぎて気付いてなかったけど、光と天城は今同じチームだったのか。
「なんか、歯切れ悪いな。なんか知ってるのか?」
『あぁ、いや…あくまで噂なんだけどよ。あいつ、イケメンなのを良い事に色んな子に手を出してるらしいんだよな……。だから、もしかしたら美香ちゃんもその……』
なんだ、そんな事か。人の彼女に手を出すような奴だ。見た目通りの優男だなんて今更思っちゃいないよ。
「それに、どんな理由があったって裏切りには変わらねえよ。もう、俺の好きだったあいつは居ないんだよ。吊るし上げたりはしない。けど、きっちり別れは伝えるよ」
『そうか…お前の言う事ももっともだ。気にするな…なんて言うのは無責任だよな。よし!お前今部活休みだろ?週末ちょっと付き合えや』
「俺、そんな気分じゃねーよ。」
『良いから!第一、お前と戦うために星道来たんだぞ?そのお前が腑抜けてちゃこっちが困るんだよ。また連絡するから絶対だぞ!』
強引だな……おい。まぁ、あの豪快さが光のいい所でもあるんだけどさ。