10.裏切られた思い
安直でごめんなさい。
バイトが終わる時間であろう美香を迎えに行こうと考えついた俺は、駅から少し離れた裏通りを歩いていた。
「詳しい場所とか店の名前聞きそびれたけど、確かこの辺の喫茶店って聞いたような………あっ、あれか?」
1件、小洒落た喫茶店が目に映る。この辺で喫茶店はあそこしか見当たらなかった。多分あそこだろう。違ったらまぁそれはそれという事で………っと、誰か出てきた!
驚いて、つい脇道に隠れてしまった。何から隠れてるんだ、俺は。気を取り直して陰からチラッと入り口を見ると、出てきたのは美香だった。やっぱりこの店で合ってたのか、良かった。とりあえず、声かけよう。
「おーい、美香ー…………っ!?」
俺は驚きのあまり、声を失った。美香に続いて店から出てきたのは……天城隼人だった。
しかも、美香の方から腕を組んで歩き始めた……っ!しまった、こっちに歩いてくる!
俺は咄嗟に、室外機と室外機の隙間に体を滑り込ませた。暗い中だし、こっちは見えないだろう。逆に、俺は隙間から様子を伺う。
「美香、今日もお疲れ様。楽しかったし、店員の制服、似合ってたよ。」
「ありがと、隼人♡そう言ってもらえて、嬉しい」
は…?何で天城に褒められてそんな風に頬を染めて微笑んでんだよ……?まさか…そう、なのか?
「って言っても、お客さんなんてほとんど来ないから実質お家デートみたいな物だったけどね」
「確かにね。でも、その方が隼人との時間が増えて嬉しいわ」
「店の息子としてはダメだけど、僕もそう思うよ。でも、良いの?彼氏…高橋君はこんな事、知らないんだろう?バレやすくなったり……」
知ったよ。たった今な。そう心の中で悪態をついてみても、事実は変わらない。
「大丈夫よ。晴樹は野球の方に打ち込んでるし、バイトだ、って話もしてあるもの。それに、大切に扱ってくれるのは良いんだけど過剰って言うか………私、多少は強引な方が好みなのよね」
過剰って…俺はただ、1番大切に思ってるから責任がある行動を取れる年齢になってから、雰囲気の良い所で…と思って……………これからもっと関係を進めたいって…そう思ってたのに……
「ふうん……強引って、こんな風に?」
そう言って天城は美香の腰に手を回して抱き寄せた。まさか……嘘だろ?やめてくれ………そんな思いも虚しく……
「隼人……あっ、んっ……」
美香の唇を奪った。しかも、美香はそれを受け入れ、蕩けた表情で…………
俺はショックのあまり呆然とし、奴等が腕を組んで歩き去ってからもしばらくの間動くことができなかった。




