9.夏の終わりのコンサート
夏の終わり、不思議なコンサートが開催される
とても静かな夜でした。
タオとショウくんは、「サマースクール」にきていました。
「サマースクール」の一日のスケジュールは、午前六時に起床、六時半に準備体操、宿舎の散歩道を三周のランニング。七時に食堂で朝食。正午から午後一時の昼食休憩を除き、八時から午後五時に、涼しいミーティングルームで、国語・社会・理科・数学・英語の補習授業。その後、各自が復習や自習時間。夕食は六時、入浴は交代で七時から八時まで。九時半の消灯就寝までは、自由時間というものでした。
そんな自由時間に、タオとショウくんは、宿舎の外に散歩にでかけました。
「今日は、月がきれいだね」
ショウくんが、タオに話しかけます。
「うん。ずっと勉強ばかりだったから、月を見ていると、こころがすっきりするな」
どこかで、虫の声が聞こえます。
「虫も鳴いているし、もう夏も終わるのかな」
「そうだな、空気も少しひんやりしているからなあ。夏も終わりに近づいているのかもしれないな」
ショウくんの問いかけに、タオが答えながら散歩道を歩きます。散歩道は、街灯に照らされ、そこには光に誘われて虫も集まっていました。ショウくんとタオは、街灯の下のベンチに座って話はじめました。
「サマースクールが終わると、もう二学期がはじまるね」
「そうだな、あっと言う間の夏休みだったな」
二人は振り返るような目をしながら、過ぎ去った夏の日に思いをはせていました。
すると、小さな声が聞こえてきました。
「おい、今日は人がいるぞ。どうしよう、コンサートがひらけないぞ」
「ドウシヨウ」
「ドウシタライインダ?」
声のした方を見ると、ベンチの後ろで小さな虫たちがコソコソと話し合っているのでした。
「コンサートなら、やればいいじゃないか」
タオが、虫たちに話しかけました。
「あれ?人間が答えたぞ。俺たちの声が聞こえるのか?」
「ああ、聞こえるよ。君たちのコンサートなら、きっと素敵だろうから聞きたいよ。よかったら、僕たちのためにやってくれないか」
「人間のためのコンサートか…。どうしようか」
また、虫たちが集まって話し合っています。そうして、話がまとまったようで、一匹のキリギリスが、前に出てきて軽くお辞儀をして言いました。
「先ほどは失礼いたしました。今日は、一年で一度のコンサートの日なのです。日々、美しい音色に工夫をこらしてきた成果を、みんなで披露する日なのです。本来は、私たちだけで開催するのですが、今日はお二人にも聞いていただければと思います。ぜひ、お聞きください」
そう言って振り返ると、数百匹の虫たちがそれぞれの種類ごとに集まり、オーケストラのように集まっていました。キリギリスは、指揮者のようです。二本足で立ち、右手を上げると、一瞬、静かになりました。さあ、コンサートの開演です。キリギリスの指揮にあわせて、一斉に虫たちが鳴きはじめました。ちいさくか細い虫たちは、たくさん集まって一生懸命羽根を振るわせます。薄いきれいな羽根をもつ虫が、誇らしげに美しい音を奏でます。それぞれの虫が、それぞれの体を使って、一生懸命音をつむいでいきます。フィナーレでは、この世のものとは思えないほどの美しい虫たちのハーモニーが響きわたり、コンサートは終わりました。タオとショウくんは、惜しみない拍手を送りました。
再び、キリギリスがタオたちの方を振り返り、おじぎをしまして言いました。
「聞いていただいてありがとうございました。おかげさまでみんな、精一杯力を尽くしての演奏ができました」
「こちらこそ、ありがとう。とてもいい演奏だったよ」
「美しい音色で、感動しました。ありがとうございました」
タオが、そしてショウくんが少し涙ぐみながら言いました。
「そう言っていただけると、私たちもうれしいです」
キリギリスは、もう一度深く礼をして、たくさんいた虫たちとともに、草むらに消えていきました。
「ねえ、タオ。あれは、夢だったのかな」
宿舎にもどりながら、ショウくんがタオに言いました。
「違うよ。僕たちは、虫たちの夏の終わりの演奏会に参加したんだよ」
タオは、さっきのベンチのあたりをみながら、にっこり笑いました。
夏が終わると、二学期に…。また、物語は続く。