8.月のない夜に
月のない夜、出会った少女は?
月のない真っ暗な夜の日でした。
タオとショウくんは、バスケットボール部の試合で帰りが遅くなりました。駅を降りた後、いつもの森のある公園を歩いていました。すると、向こうから、ぼわんと白く光るものが近づいてきました。
「なんだろう、まさか幽霊じゃないよね」
ショウくんが不安そうに言いました。
「いいや、違うと思うよ。ちゃんと足があるからね」
タオが、落ち着いた声で言いました。
よく見ると、白いワンピースを着た女の子でした。流れるように、スカートを揺らしています。そして、しなやかに跳ねるように歩いてくるのでした。
「ねえ君、こんなところで一人で大丈夫かい?」
タオが話しかけます。すると、女の子は、ちょっとびっくりして言いました。
「ええ、暗い夜は、空気もひんやりしていて気持ちがいいのよ。あなたたちも、お散歩しているの?」
「いいや、ちょっと帰りが遅くなっただけだよ。今から家に帰るんだ」
タオが答えると、女の子は少し微笑んで二人を見ています。女の子は、小柄で、顔も手足も、白く輝いていました。
「女の子ひとりで暗い森にいるなんて、あぶなくないのかな」
ショウくんが、小さな声で呟きました。
「あら、大丈夫よ。私のお家はすぐそばだもの。それに、暗い夜でないと、人が多くて出られないのよ。でも、あなたたちなら、大丈夫そうね」
女の子が言いました。
そして、両手を胸の前に上げて手首をチョコンと折り曲げ、左に跳ねてピョン、右に跳ねてピョン、くるっと回って正面でピョン。
ピョンピョン、くるり、ピョン。ピョンピョン、くるり、ピョン…。何度も何度も繰り返します。月のない夜に、白く浮かぶ女の子の踊りが続きます。
「不思議な踊りだね」
ショウくんがポツリと言いました。タオとショウくんの二人は、魅せられたように、女の子の踊りを見ています。
どのくらいの時間がたったのでしょうか、気がつくと女の子の姿が消えていました。そして、いつの間にか小さな白い生き物がいてこちらを見ていました。
「今日は、ありがとう。楽しかったわ」
そう言い残すと、しなやかに振り返り、闇の中に消えていきました。
ショウくんとタオは、顔を見合わせた後、静かに家の方に向かって歩き出しました。
不思議な踊り、女の子は何者なのか。