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月のきれいな夜に  作者: さやくん
2/11

2.宝湯物語

お風呂屋さんでであった、不思議なお話です

 7月にはいった夜でした。

タオの家のお風呂がこわれてしまいました。だから、しばらくは、お風呂屋さんにいくことになりました。ちかくにある『宝湯』です。

そのことを学校でショウくんに話すと、いっしょに行こうということになりました。だから、三時にまちあわせをして、いっしょにいくことにしました。

『宝湯』は、ちょっとレトロなお風呂屋さんです。お屋敷みたいな屋根のある玄関から入ると、昔ながらの木のカギのついている下駄箱シューズボックスがあります。木のカギのついているところは、どこも空いているから、好きなところにサンダルをいれるしくみです。タオは『い』、ショウくんは『と』と書かれた下駄箱にいれました。

男湯、女湯と書かれたのれんのうち、男湯の方をくぐり、引き戸を開けて中へ。番台でおじさんにお金を払い、脱衣所に向かいます。タオは、昨日おとうさんと来たから、お風呂屋さんのシステムはわかります。はじめてきたシヨウくんに教えてあげながら、服を脱いでかごにいれていきます。そして、脱衣所のロッカーにしまいました。カギはスチール製で、白いゴムがついています。ゴムを腕にはめて、お風呂に入っている間に落とさないようになっているのです。

洗面用具を洗面器に入れ、タオルを肩にひっかけてお風呂場へ入ります。前に来た時に、おとうさんが、

「いなせな男は、タオルは肩にかけとくもんだ。間違っても、前を隠したりするな」

と、言っていたからです。ショウくんにもそのことを話し、二人は肩にかけてお風呂場にはいりました。

 お風呂場は、壁側に体を洗うスペース。ドアの横は、水風呂。奥には、大きなお風呂があります。そして、大きなお風呂の奥の壁には、『宝船に乗った七福神の絵』が、タイルで書かれています。なかなか、いい風情です。

 まず、かかり湯をして、大きなお風呂にざっぶーんと入ります。まだ、早い時間のせいか、お客さんもいません。タイルには、『およがないでください』と、書かれています。でも、誰もいないから泳げそうです。広いお風呂は、タオとショウくんの二人だけです。立派な、『宝船の七福神の絵』を見ながら、のんびりとはいることができました。名前はよく知らないけれど、縁起のいい神様たちです。ちょうど7人、帆に宝と書いた船に乗っています。おめでたい感じがして、かっこいい絵です。

二人のからだもあたたまってきたので、いったん出て、体をあらうことにしました。せっかくだから、背中を洗いっこしもしました。シャンプーの泡で、髪をいろんな形にして、お互い見せ合ったりもしました。

体をあらったら、また、大きなお風呂へ。

ざっぶーんとお風呂に入ります。他にだれもいないから、少しくらいはめをはずしてもいいかな…。

 また、あたたまるまでゆっくり入ります。そして、今度は、水風呂へ。冷たいけれど、気持ちがいいです。どちらが、長くがまんできるか、ショウくんと競争しながら入ります。

そうして、また、大きなお風呂へ。

「え、あれ?誰かいるよ」

いつの間にか、大きなお風呂には、髪はないが、長いあごひげが真っ白なおじいさんが入っていました。目をつぶり、気持ちよさそうな顔をしています。どこかで見たことのあるおじいさんです。でも、二人ともどこのおじいさんだか思い出せません。

 二人は、さっきよりそ~っと、しぶきがかからないようにゆっくりと、大きなお風呂にはいりました。すると、そのおじいさんが話しかけてきました。

「さっきは、派手にやっていたのう。男の子は、元気なのがいちばんじゃ」

「ごめんなさい、ぼくたち少しさわぎすぎてしまって」

タオが、答えました。

「いやいや、いいんじゃよ。子どもの元気な声は、わしらにとってもうれしいからのう」

「おじいさんは、近くの人ですか?」

今度は、ショウくんが話しかけます。

「ああ、すぐ近くじゃ。今日は、わしが入る番なんじゃよ。ほんとうに、いい湯じゃわい」

そう言うと、また、目を閉じてしまいました。

 タオとショウくんは、さっきよりひそひそ声で、話し合いました。

「おじいさんが入ってきたの、気がつかなかったね」

「うん」

 何気なく、『宝船の七福神の絵』を見ると、6人しか乗っていませんでした。

「ねえ、1人たりないよ」

ショウくんが言います。

「そうだね、さっきまで、7人いたよね」

タオも答えます。

 すると、おじいさんが目をあけて、タオとショウくんにウインクしながら言いました。

「もう、あたたまったから、帰るとしようかのう」

 その声が終わると、おじいさんの姿が消えてしまいました。二人は、目をこすりながら、お風呂場を探しました。そして、壁の絵を指さしながら、ショウくんが言いました。

「見て、また宝船の神様が、7人になっているよ」

 『宝船の七福神の絵』を、もう一度見てみると、少し赤ら顔のおじいさんが増えています。白いあごひげの、さっきのおじいさんです。

「あのおじいさん、宝船の神様だったんだね」

 二人は、顔を見合わせながら笑いました。



さて、お風呂屋さんで、誰にであったのでしょうか?

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