0002:スキルメイカー
頬を撫でる風。土の香り。草の香り。水の流れる音。
「っ痛ぅ……!」
男性は意識を取り戻すとともに飛び起き、周囲を警戒する。
「(周囲に人間は0、場所は……洞窟か?洞窟の奥だというのに細部が見渡せる程度には明るい。これは……まさか迷宮とかダンジョンとかそれ系か?)」
男性は身体についた土を払いながらさらに周囲に目を走らせる。
男性が寝ていた場所はゴツゴツとしていて人間が寝るのに適しているような場所ではないが、男性が体の痛みを感じる事は無かった。
「(これは……皮袋と……剣か?)」
足元に落ちている袋と腰についた剣の様な物を見つけ手始めに剣へ手を伸ばす。男は鞘から剣を抜き刃を見る。
「(剣は押し切るタイプの剣か……長さは、まぁそれなりだな。ちょっと短いが、若返ったせいで身長も低くなっているし、特に運動もして来なかった俺には重すぎるくらいか。)」
男は剣を軽く振り腰元の鞘へと戻す。
「(皮袋の中にはまた革袋……これは財布か?こっちもこっちも革袋……水と食料かこれは……身分証か?後は着替えか)」
男は警戒はしていたのだろうが不十分だった。
過去にいじめられた経験からか、男は無意識に回りにいる人間を敵、味方、不明、中立に分けていたがあくまでも『人間』に対する警戒だった。
「ガルゥッ」
「!?」
後ろから四足歩行の魔物に襲われ、躱し切れず、右の上腕に噛みつかれてしまう。
「がぁっ!?」
男は咄嗟に飛び退き逃げられる場所を探す。
「(思うように身体が動かないのは若返ったせいか?それにここは袋小路、つまり逃げるにはアイツ……犬(?)を超えた奥へ行かなければならない。傷は……多少血が出てるが手が動かないほどじゃないな)」
男は無事な左手で足元に有った革袋を掴むと中の革袋を投げつけ走り出す。
犬は反射的に革袋に噛み付くが、革袋が破裂し中の水が飛び出して怯んでしまった。
男はその隙を突き、一気に犬の横を通り過ぎ、袋小路から脱出して走る。
「(クソッ、どっちに行けばいいんだ)」
男は袋小路を出た後、勘で道を選びひたすら走る。男は犬から距離を取ることしか考えていなかった。
その犬が一匹しか居ないと確信が有る訳では無いにも関わらず男は走り回った。
男は息を荒くしながら腕を押さえつける。
日本に住んでいた男はいじめられたことが有るとはいえ、一応は先生が対応してくれていたため身体的に大きな怪我を負う様な事は無かった。
日本人の大多数がそうであるように痛みへの耐性が殆ど無いのだ。
革鎧のおかげで大したことがない傷も痛くて仕方がなかった。
「(クソ痛てぇ、夢じゃないのは確定だな……ポーションとか回復魔法とかなかったか?)」
犬を完全に撒いたところで男は腕を抑えながら革袋の中身をブチ撒ける。
「(金は今は意味がねぇ、洋服は……最悪切って止血に使うか。ゲームじゃないんだから食料食って回復なんてシステムじゃないだろうしな。スキルなんてものが有るらしいし、一応試してみるか?)」
男は眉間にシワを寄せながらパンらしきものを口へ運ぶ。
「硬い、まずい、パサパサする……」
男は唾液でふやかしながら無理やりパンを飲み込み傷を確認するが、当然のように残っていた。
男はため息をつきつつパンをしまう。
「(あとは身分証……生まれた時に神様から賜るらしいが……不思議技術でスキルとか書いてねぇか?)」
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名前 :カイ
種族 :人間族
性別 :男
年齢 :11歳
レベル:1
職業 :元アプリケーションエンジニア
スキル:魔導具作成
スキルメイカー
基本言語理解
アイテムボックス
簡易鑑定
加護 :イーリアの加護(小)
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「(カイ?これがこの世界での俺の名前か?職業が元アプリケーションエンジニアって……たしかにそうだがこの世界で通じるのか?あとは、スキルは書いてあったが……回復魔法はないか。スキルメーカーとやらで作れないか?)」
「スキルメイカー!」
カイが唐突に声を上げると男の頭の中に声が流れ込んでくる
『作成するスキルを思い浮かべてください』
「!?」
カイは警戒を強め誰が居るのかと周囲を見渡す。
しかし周囲に有るのは不気味に光る壁と石ころ程度のもの。
「(誰も居ない?これは……まさかスキルの効果なのか?)」
『作成するスキルを思い浮かべてください』
「(えっと、回復魔法、人間の怪我や病気を治す魔法)」
『回復魔法、世界に類似する魔法を発見しました。類似する魔法を作成可能です』
『致命的なエラーが発生しました。周囲に付与対象が存在しませんでした。スキルの発動に失敗します』
「(失敗……?は?何でだ?俺がいるだろうが!)」」
「スキルメイカー!」
カイはもう一度スキルメイカーを発動する。
『作成するスキルを思い浮かべてください』
「(名前は回復魔法、効果は人間の怪我や病気を治す魔法。付与対象は俺)」
『致命的なエラーが発生しました。スキル行使者には付与できません』
「(自分には使えないってどうしろってんだよ)」
カイは床に散乱した物を革袋に詰め直す。
「(誰か来る?)」
来た道から複数の足音が近づいてくる。
カイは隠れる場所を探すが、生憎ここは直線路の途中なのでどこにも隠れられるような場所はない。男は革袋を背負って声とは逆に向かって走っていく。
「(よし、T字路だ)」
カイは直線路が左折と直進で別れる所まで走ると、左折した側で息を潜めた。
「(ハァッハァッ、こんな荒い息だとすぐにバレる。落ち着け、俺)」
カイは深呼吸をして息を整えていく。
「やばいやばいやばい!ヘマしちゃった!」
カイが息を整えていると、女性の声が近づいてきた。
「「えっ?」」
赤髪の女性はT字路を左折して、カイが隠れていた場所へ突っ込んで来た。
当然カイは女性が曲がって来るなんて夢にも思って居なかったので避けきれず女性に押し倒される形になる。
「ちょっと!何でこんなところにいるのよ!」
カイは女性の話を聞かず、すぐに体勢を立て直し、奥へと走っていく。
「ちょっと待ちなさいよ!」
「おま!ふざけんなよ!こっち来るな!トレインしてんじゃねーよ!」
「トレインって何よ!」
「こうやって大量にモンスター引き連れて迷惑かけることだよ!ざっけんな!」
「あんたがあんなところに居たから近づかれちゃったじゃないの!」
女性も好き好んでしている訳ではなく、生き残るために仕方なくやっているのだがそこまでは考えが及ばないらしい。
「行き止まりか!」
「えぇ!?」
「(暫定味方1敵性5これは詰んでないか?)」
「迎え撃つわよ!手伝って!」
女性は反転して犬に剣を向ける。
「腕怪我してんだけど!」
カイは文句を言いつつ腰の剣を抜き放ち剣道の正眼の構えを取る。
「死ぬよかいいでしょ!無理しなさい!」
女性が3匹の犬を相手取る。1匹づつ相手にするために2匹をなるべく遠くに吹き飛ばす様に剣の腹で飛ばしていく。
カイの方には2匹の犬がやってくる。
カイは正眼に構えた剣を思いっきり振り下ろすが犬は難なく避けて噛み付いてくる。
「っくぁ!」
「ちょっと何やってるのよ!あっ!」
女性はカイの助けに入っているうちに残りの犬に体当りされてしまう。
女性は腕についたバックラーで犬の攻撃を弾き、その反動で後ろへ転がり体勢を立て直す。
「あんた冒険者じゃないの!?ハンド2匹くらいどうにかしてよ!」
「んなこと言われたって!こちとらここが何処なのかも分かってないんだよ!」
カイは女の真似をして剣の腹で犬をぶっ叩く。
「(くそ、何をすればいいんだ。剣術スキルなんてねぇよ……スキル?)」
「スキルメイカー!」
『作成するスキルを思い浮かべてください』
「(名前は火魔法、効果は魔法で火を出して攻撃等が可能、対象はあの女!)」
『火魔法、世界に類似する魔法を発見しました。類似する魔法を作成可能です。対象を確認しました。スキルを与えます』
「えっ!?火魔法!?」
女性が頓狂な声をあげる。
「あんたが何かしたの?良く分からないけどやるわよ!■■■■、■■■■ファイアボール!」
女性は今しがた使えるようになったファイアボールを犬達の真ん中へ叩き込む。
「あたってねぇじゃねーか!」
「これでいいのよ!」
犬達は火に驚いたのか尻尾を巻いて逃げ出していった。
明日も更新します(予定)