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0001:白い部屋

「あ、気が付きましたか?」


 知らない人、それだけでも警戒するに値する。

知らない場所、更に警戒するべきだ。

わからない状況、早急に状況を把握するべきだ。

ただただ白い空間に男性1人と女性1人男はいくら警戒してもし足りない。


「(場所は不明、敵味方不明1……昨日は確か、会社の同僚に飲みに誘われて……)」


「回想ですか?いいですよ?待ちますので」


女性はニコニコとしながらお互い手を伸ばしても届かない距離を保って右手で頭を押さえている男性を見つめている。


「(近づいて欲しくない事を見透かされている様で気に食わないが、いや、実際そうなのだろうが……。

ありがたく記憶を遡らせてもらおう)」


------


「ねぇ、ちょっと、今日の夜飲みに行かない?」


女性社員2人が男の席を囲いながら声をかける。

男性を誘っている風を装っているがどう見ても強制だろう。

その証拠に声に含まれている怒気を隠そうともしていない。


「(推定敵性2人と言ったところだ。周りに助けてくれそうな人も居ない。仕方ないか……)」


「えぇ、仕事が終わった後で良ければいいですよ」


「じゃあ、9時にビルの前ね」


そう言い残して自席(じせき)へ帰って行った。


「(どうせあの事だろう。

俺は深いため息をつきつつエナジードリンクをソースコードへと変換していく。

人間の相手は厄介だ。機械相手なら仕様通り、ソースコード通り動いてくれて楽なのに……)」



 仕事の後、魚が美味しい居酒屋へと連れてこられた。


「生3つお願いしまーす!」


「で、なんで呼ばれたのか分かってるわよね?」


「どうせ彩花(あやか)になにか言われたんだろ?」


「そうよ、あんた何で彼女の彩花をクリスマスに誘わないわけ?」


「それは仕事「仕事はあんたが橋本のをわざわざ変わってあげたからでしょうが」」


「はぁ、別に関係ないだろ?」


男性はもううんざりだとでも言うようにため息をつきお通しをつつき始める。


「彩花泣いてたわよ?彼氏のくせに何なの?」


「(どうせこうなるだろうと思っていた。思った上でやったのだから仕方がない。受け入れなければならない)」


「生3つおまたせしました〜!」


「(生ビールか。俺は酒は飲めないんだが。これは、なぜクリスマスに誘わなかったか言わないと終わらないだろうな。話すには……酒の力がいるか)」


男性は好きでもない酒を煽る。


「ほら、キリキリ吐く!」


「そうよ、彩花が可愛そうだとか思わなかったの?」


「0回だ」


男性は早くも酒が回ってきたのかそれとも恥ずかしいのか顔を真っ赤にして俯いたまま呟いた。


「「は?」」


「だから0回だよ。俺と彩花が付き合ってから2人ででかけた回数だ。手を繋いだ回数でもいい」


「いや、そんなわけ無いでしょ?あんた達付き合って何年よ?3年よ?」


「嘘ばっか言ってるんじゃないわよ!もしそうだとしてもあんたがいつも仕事だからって逃げてるだけじゃないの?」


「(女は仲間意識がとても強い。こういう時になると一致団結して攻め立ててくる)」


男性は眉間にシワを寄せる。


「去年のクリスマスはネズミランドとホテルを用意してた。さぁ、彩花はどこに居たと思う?」


「は?一緒にネズミランド行ったんじゃないの?」


「お前らとカラオケ行ってたよ。ツイッターで見た。俺には急用が入ったって行ってたな。とった写真でも確認してみるといい。一昨年はレストランとホテルを予約してたんだが、それも急用だったそうだ。3時間雪の中待ってたんだけどな。その時もお前らと焼き肉パーティしてたと思うぞ」


「そ、そんなわけ……」


女性社員達はスマホを確認してバツが悪そうにお互い目を合わせている。


「デートに誘った回数は100回くらいだと思う。その中で2割は断られた。4割はドタキャン。残りの3割は他の友人がついてきた。お前らとかな……。更に残りの1割は俺が知らない奴がついてきたよ。そこまで2人っきりになりたくないらしい。手をつなごうとしても避けられる始末だ。俺らはもう終わってんだろうな」


「えっと……」


さすがの女性社員達も擁護しきれない様で目を泳がせている。


「もう疲れたんだよ。俺は……」


「ちょ……大……」


男性はもう女達の声が聞こえていなかったようだ。


------


「(あの後の記憶がない。つまりあの後、俺は気を失うなりしてここに運ばれたのか……?)」


「あの後あなたはアルコールの飲み過ぎで気を失ったのですよ。弱いにもほどがありますね。そして床に倒れこんだ時タイミングと体勢が悪すぎて店員さんに頭を蹴られ頚椎骨折でご臨終です。なーむー」


女性は手を合わせる。


「し、死んだ?」


「えぇ、死にましたね。享年28歳です。お若いのに……あ、夢でも走馬灯でもないですよ」


「(こいつが言ってることが本当かどうかはわからないが……俺が居なくなったらFFOの案件とかSAFの案件とかどうするんだよ)」


男性は絶賛稼働中の案件の名前をいくつも思い浮かべていく。どの案件もこの男性が今抜けると致命的になりかねない案件ばかりだ。属人化が進んでいるという面では会社の自業自得なわけだが。


「始めに考えることがご自身の行く末では無くお仕事の話とは……」


女性は、男性から目を外し洋服の裾で目を押さえる。


「あなたは誰でしょう?」


男性は警戒しながら唯一の情報源である女性に話しかける。

女性は金髪と胸部装甲を揺らしながらなるべく男性に近づかないように身振り手振りを加えながら答える。


「私ですか?私の名前はイーリアです。貴方が住んでるよりも高次の生命体とでも言いましょうか……?」


「イーリア様は神であるということでしょうか?」


警戒心を隠そうともしない男はいつでも逃げられるように周囲を見渡しながら質問を重ねる。


「(周りには何もないし誰も居ないか)」


「あなたの言うところの神の定義によりますね。全知全能だとか、世界を創造しただとかそういう意味であるなら違いますね。精神だけで肉体を保たない生物です。あぁ、世界の管理に似たことを行っているのでそういう意味では神ですね。世界の管理というのは、魂の個数だとか、分布だとかそういったことですね」


「イーリア様が私をここに()んだのですか?」


「そうですね。まぁ、漫画やアニメを愛している貴方には異世界転移や転生と言ったほうが早いでしょうか?」


男性はひとまずイーリアが現状敵ではないと判断したようで警戒を解いた。


「状況は分かりました。どんな世界へ行くんですか?使命は?」


「世界はいわゆる剣と魔法の世界ですね。スキルなども有るのでRPGとかのゲームを思い浮かべてもらえればよいかと。使命は……特段何かして欲しいってことはないですね。貴方を送ることが目的ですので」


イーリアはニッコリと笑いかけ、半歩ほど男性に近づく。


「俺を送ることが目的……ですか?」


「まぁ、いわゆる実験よね。今まで魂は同じ世界で循環させて居たんだけれど、他の世界へ入れたらどうなるのかっていう実験よ。貴方の場合は記憶を持たせたまま新しい世界へ送るとどうなるのかという実験ね。記憶を持たせないバージョンもやってるわよ?」


「つまり好きに生きていいと?」


「そういうことになるわね。貴方は『記憶を持ったまま向こうの世界へ若返って転移』って形になるわね。能力はこっちの人と同じようにランダムで決めさせてもらうわ。こっちの人よりちょっとレアが出やすいけどね。後はお約束の異世界転移基本セットってやつかしら?基本言語理解とアイテムボックス(インベントリ)、簡易鑑定ね。簡易鑑定は常識レベルの事しかわからないから気をつけてね。あ、ちゃんと身分証明書と当面の資金と最低限の装備も渡すわよ」


「なぜ俺なんですか?」


「ん?別に貴方じゃなくてもいいわよ?強いて理由を言うなら手近なところに居たからかしら?」


イーリアは何が言いたいのかよく理解できないと言った様子で続ける。


「貴方、アリの観察キットが2つ有って、片方からもう片方にアリを1匹移そうって時に明確な意志を持って選ぶ?近くに居たアリを適当にってならないかしら?」


「(つまり俺達はアリ扱いか……)」


「さて、このスロット的なマシーンで決めていくわね。まぁ、スロットの回転はただの演出で貴方が回し始めた時点で決まるのだけれど。さぁ、コインは入れてあるからキリキリやっちゃて!これ終わったら私の今年の仕事も終わりなんだから!」


「(ぶっちゃけ始めたな……こんなスロットマシーンさっきまで有ったか?)」


男性は今までそこに有ったかの様に存在しているスロットマシーンに手をかける。


ガコンッ……ガラガラガラガコンッ


男がスロットマシーンのレバーを引くとスロットマシーンが回転を初め……止まった。


「え〜と?『11歳、人間族、男、魔導具作成、スキルメイカー』あら?大当たりじゃない。じゃあ行ってらっしゃい!」


「ちょまっ」


男性の質問を聞くと業務時間が長くなるからかイーリアはいきなり男性を現世へ送り込んだ。


「さて、今日の業務終了!」


イーリアは真っ白な空間から消えていった。

明日も投稿します。

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