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壁09

「金貨1000枚のお礼になるといいんですが……。」

「なるなる! 十分だよ。」

「良かったわね、ナクル。」

「うん、お姉ちゃん! マカベさんっていい人だね!」


 サップバットに大喜びするナクルさん。

 姉のアクアさんにも何かプレゼントしたいところだが、何がいいのか思いつかない。


「ポイント稼ぎ成功じゃの、真壁。」

「ちょっと何言ってるか分からない。」


 壁子さんは放っておこう。


「アクアさんは何か必要なものはありませんか?」

「いえ、私は……。」


 と答えかけて、アクアさんは遠慮するように振っていた手を止め、


「そうだ。1つお願いしてもいいですか?」

「なんでしょう?」






 アクアさんのお願いを聞くために、俺は冒険者ギルドの裏手、事務手続きの窓口へ向かった。

 ちなみに金貨1000枚は金庫――中空構造の壁に入れて、浮かせて運んでいる。素材は超々ジュラルミン。タングステンより頑丈ともいわれるアルミ合金だ。成分のほとんどがアルミなので、とても軽い。飛行機の機体にも使われている物質だが、なんと金属バットにも使われている。安いものなら4000円ぐらいで買える。仰々しい名前の割に、意外と身近な金属なのだ。


「まずはこちらで冒険者として登録してください。

 それで、私たちとパーティーを組んでほしいんです。」


 なんと……! 俺としては願ってもない事だが、女性にモテた事がない俺がこんな美女に仲間に誘われるなんて、裏がないか勘繰ってしまう。


「光栄ですが、どういうわけで?」

「理由はいくつかありますが、まず最低条件として強いこと。私たちが2人がかりで戦うアークブルを、マカベさんは1人で圧倒しました。相性のよさがあったかもしれませんが、まずは十分だと思います。」


 強さなら他の、たとえばAランク冒険者とかでもよさそうなものだ。だが周囲を見ると、単独で行動している冒険者は見当たらない。みんな仲間と一緒だ。Aランクになるような冒険者は、みんな仲間と一緒にAランクへ上り詰めたのだろう。当然それは命を預け合った仲間だ。絆の強さが半端ない。そっちをやめてこっちへ来いと誘っても、応じる人はいないだろう。

 パーティーの合併というのも、おそらくないはずだ。依頼を受けて仕事をするのが冒険者。ならば報酬は「1件の仕事」に対して支払われる。自分たちはパーティーメンバーが多いから多めに支払ってくれと言っても、そんなのは通用しないだろう。1人で挑むより効率が良く、報酬を山分けしても旨味がある。そのバランスが取れるところでパーティーの人数が決まるはずだ。だからパーティーが合併なんかすれば旨味がなくなってしまう。


「なるほど。それから?」

「2つめの理由は、能力の便利さです。

 食べ物や飲み物を出せて、家も簡単に作れる。つまり、飲料水・食糧・テントなどを運ぶ必要がなくなります。野宿することもある冒険者にとって、戦力にならない荷物を運ばなくて済むというのは、大きなアドバンテージです。」


 最初のほうでそのことを話していたな。異世界から来たから何も分からないという事を説明して、助けを求めた。そのとき壁子さんの事や、この能力のことを話したのだ。

 本当なら秘匿するべき情報だろうが、異世界から来たなんて荒唐無稽な話を信じてもらうためには、この世界ではできない事ができる、あるいはこの世界の人が知らないことを知っていて、それが真実だと証明する必要があった。そのぐらいしか、異世界から来たということを証明する方法が思いつかなかったのだ。俺は「この世界ではできないこと」が分からなかったから、色々と話した。

 どこか遠くの国から来たばかりだという設定でもよかったかもしれない。だが、地理的に「ここに来るまでに当然知っているべきこと」を知らないという矛盾が生じるおそれがあった。ここが国境から遠ければそうなる。そうなると怪しまれてしまい、情報が得られない可能性が高くなる。街へ行けば文化の違いからトラブルが発生する恐れもあったので、大勢から少しずつ情報を集めるというのも危険だと思った。だから秘密を知る人は少ないほうがいいという法則に従って、最小限の人数に秘密を開示することにしたのだ。


「なるほど。しかし、自分で作った壁なら、自由に消すこともできると話しましたよね?

 異性をパーティーに加えることに抵抗はないのですか?」


 できるかできないかで言えば、できる。

 野宿の最中、こっそり壁を消して侵入し、寝込みを襲う。空気の壁を作って内外に2分割し、隙間を広げれば、音を通さない真空の壁も作れる。夜這いは誰にも知られない。

 だが、やろうとは思わない。


「それが最大の理由です。

 マカベさんなら、それはしないだろうと思いました。」

「なぜですか?」


 そんな部分で信頼されるような事はした覚えがない。


「真壁にはそんな根性はないじゃろ。」

「壁子さん、ちょっと黙ろうか。」


 アイアンクロー。


「痛い痛い! ギブじゃ! すまんかったのじゃ!」


 美人姉妹がクスクス笑う。


「まあ、そういう言い方もできるよね。」

「私たちの胸を見ないようにしていましたから。」


 ああ……頑張って見ないように努力したな。

 そうか、聞いたことがある。女性は視線に敏感だと。マジだったのか。

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