壁05
美人姉妹の姉アクアさんと、妹ナクルさん。助けたのか余計な手出しだったのか微妙なところだが、2人は「助けてもらった」と言ってくれるので、その恩返しではないが、ちょっと相談に乗ってもらうことにした。
俺は壁の神「ぬりかべ」改め壁子さんから加護をもらい、壁を自由に生成できる能力を手に入れた。だがこれが地球世界の主神の反感を買って追放され、今は異世界に来ている。壁子さんは神通力を使えるが、消費すると休んでも回復しないらしい。回復するには信者を獲得する必要がある。つまり俺が活躍して布教活動をする必要があるわけだ。
日本に居たときには動画投稿サイトに載せてしまおうと思っていたが、それは主神の雷撃でスマホもろとも打ち砕かれた。こっちの世界ではどうやれば効率的なのだろうか?
「壁子様は神様でいらっしゃったのですね。」
姉のアクアさんは、口元に手を当てて驚いている。美人だ。美人だからか、その仕草がセクシーに見える。美人って得だな。
「って事は、マカベさんは神の使いってこと?」
妹のナクルさんは目を丸くして俺を見る。仕草はギャルっぽいけど美人だ。絵になる。美人って得だな。
「そういう事じゃな。」
のじゃロリ美少女の壁子さんが、無駄に偉そうにふんぞり返る。かわいい。
今や神通力を失って何もできないくせに。
「……なんじゃ、真壁? 何か文句でもあるのか?」
神通力がなくなって、今の壁子さんは心も読めない。
俺は肩をすくめて壁子さんの視線を躱す。
「で、どうやれば効率的か、分かりませんか?」
「それは……うーん……。」
妹のナクルさんがアゴに手をやって考え込む。……まあ、この人に頭脳労働は期待しちゃダメだろうな。
姉のアクアさんを見ると、
「冒険者になるのはどうでしょうか?」
私たちみたいに、と提案してくれた。
「あ、そうだね。私たちも結構名前が売れてるみたいだし、同じかそれ以上に強いマカベさんなら、すぐに有名になれるんじゃない?」
妹のナクルさんはそう言うが、俺はまだこの世界の「平均的な強さ」が分からない。
2人が強いから有名なのか、美人姉妹だから有名なのか……コンクリート並の強度の氷を作れるアクアさんと、推定2トン以上の巨大牛の突進を止められるナクルさんなら、おそらく両方じゃないかとは思うが。
「2人は、冒険者の中ではどのぐらい強いんですか?」
そう聞くと、アクアさんが冒険者の仕組みから教えてくれた。
冒険者になるには、冒険者ギルドという組織に登録する必要がある。冒険者ギルドは国際的な組織で、王侯貴族から一般人まで様々な人を客として依頼を受け、それを登録している人員、つまり冒険者に斡旋している。
ドブ掃除から国の危機まで、冒険者ギルドには様々な依頼が舞い込む。冒険者ギルドはそのほとんどを受注して冒険者に斡旋するが、殺人の依頼だけは絶対に受注しない。
「基本的に、冒険者の敵は魔物なんです。
人を殺したいという依頼は、傭兵ギルドや暗殺ギルドが請け負っています。」
「ドブ掃除にも魔物が関係するんですか?」
「たまに泥の中にスライムが居るんだよね。」
「滴型かの?」
「え?」
「ん?」
「滴型って?」
「スライムといったら滴型じゃろ?」
ああ、ドラ*エではそうだね。
「壁子様ってば、そんなわけないじゃん。」
「スライムは不定形の液体みたいな生物ですよ。」
はぐれの方か。
「洞窟などの天井や、湿地の泥の中などにいて、動きは遅いのですが落下してきたりうっかり踏んでしまったりすると捕まります。体全体が蜂蜜みたいにドロドロしていて振り払うことができず、液状なので切っても叩いても効果がありません。」
「捕まると生きたまま溶かされて、意識がなくなるまで激痛に襲われるから、仲間に助けてもらうか、さっさと自決したほうがいいよ。」
何それ、こわい……。
ドブ掃除にも命がけか。
「ナクルがうっかり踏んだときは大変でしたね。」
「しばらく足に火傷みたいな跡が残ったし、マジで最悪だったね。
お姉ちゃんが魔法で倒してくれたから助かったけど。」
「スライムは魔法に弱いんです。普通にたいまつの火とかでも効果があります。」
そこで壁子さんが、ぽんと俺の腰に手をついた。
見ると、本当なら肩を叩きたかったようだ。背が小さくて届かなかったんだな……。
「真壁よ……。」
「何、壁子さん?」
「短い付き合いじゃったの。」
「いや、死んでないし。」
「冒険者になるんじゃろ? ドブ掃除するんじゃろ? 死ぬじゃろ?」
そんなバカな……と言おうと思ったが、そういえば壁子さんは魔法なんか使えない。今は神通力も失っている。
俺の壁能力も……ん? 火を出すとか、できるんだろうか? 火の壁? 水の壁が出せるんだから、いけるんじゃないか? もし無理なら……
「……たいまつを持ってドブ掃除をするとか……?」
「いえ、動きが遅いので普通に距離をとれば大丈夫です。
泥を取り除いた所を踏むようにするか、ドブの中に足をおろさないようにすれば襲われません。」
「なるほど。」
ちょっと安心した。




