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壁03

「あ、そうじゃ、真壁よ。」

「何、壁子さん?」

「布教活動も忘れてはならんのじゃ。いつまでも人の居ない草原に居続けるでないぞ。」

「え?」

「え? じゃない。布教活動をするのじゃ。」

「ええ~……。」

「ええ~じゃない。布教活動を――」

「めんどくさい……。」


 いいじゃん。食うにも飲むにも困らないんだから、ここでのんびり暮らそうよ。誰も居ないなら危険もないって。だいたいこの世界に人間がいるかどうか分からないんだし、居ても言葉が通じるのか?


「あー……確かに言葉の壁という問題はあるのぅ。

 仕方ない。最後の神通力を使うのじゃ。壁破壊。」


 バリン、と何かが壊れたような気がした。

 体を確認したが、何も異常はなかった。


「……何をしたんだ?」

「言葉の壁を破壊したのじゃ。これで言葉が通じるじゃろ。」


 いくらか疲れた様子で、壁子さんが答える。


「え? 何それ? 凄くない?」

「わらわは壁の神じゃからな。

 とはいえ、もう神通力は残りカスまで使い切ったのじゃ。もはやそなたの心を読むことさえできぬ。

 力を取り戻すには信仰心を集めねばならぬ。」


 言葉の壁を破壊する。意味が分からないが、できてしまうのが神様というものなんだろう。

 予想もしない方法であっさりと問題が解決した事は喜ばしいが、同時に将来また同じように困ることがあるかもしれないと気づかされた。そのとき、壁子さんの神通力がなければ、どうなるか……。

 言葉の壁も、悪くすれば喧嘩になったり逮捕されたりという事があるだろう。今後も安全に生きていくには、壁子さんの力を取り戻すほうがいいようだ。


「しょうがないな……。

 でも、とりあえずどっちへ進んでいいのか……。」

「うむ。真壁よ、床を作るのじゃ。

 それに乗って、床を動かせばよい。上へ動かせば高い場所から見渡せるじゃろ。」

「なるほど。」


 あまり小さい床では怖いな。大きめに作ろう。

 この壁を生成する力だが、壁子さんの説明によると、体積に応じて魔力を消費するらしい。ラノベやアニメでよくある設定の、あの魔力だ。ゲームでいうMP。地球人には存在しないものだが、神通力によって俺に「MP」という項目が追加されたらしい。神通力と違って、消費しても休めば回復し、使い続ければ鍛えられて増えるという。

 一方で、壁を動かすには精神力が必要だ。強く願えば、その分スピードやパワーが出る。ただし「動かす」といっても操り人形やロボットみたいに動かせるわけではない。単に移動させるだけだ。だから壁子さんのレプリカを作っても、それは単なる人形で、動かない。


「おお! 雲に触ってる!」


 上空1~2km。眼下に広がる大草原。そして俺の手元には、空に浮かんでいる雲がある。

 ぶっちゃけ加湿器の湯気が出てるところへ手をかざした程度の感触なんだが、この上空の風景の中で触ると感慨深いものがある。地面がないから、登山で雲の中に突っ込むのとは違った気分だ。


「見よ、真壁! 街があるのじゃ!」


 言われて振り向くと、壁子さんの指さす方向に街が見えた。

 建物だけが密集していて、その周囲に農地が広がっているらしい。ヨーロッパ式の街作りだな。日本だったら住宅と農地が混在している。

 近づいて上空から観察してみようかな。双眼鏡とか欲しいな。たしかレンズ2枚だけでも作れるはずだ。両手に持って位置を調整すれば、ちゃんと見える。像が反転するが。虫眼鏡2個でそんな事をやった覚えがある。レンズを作るには、ガラスの壁を凸面に生成すればいいだけだ。


「あっ! おい、真壁。あそこに誰かおるようじゃ。降りて話を聞いてみるのじゃ。」


 言われて街より手前を見ると、人間らしきものが2つ見えた。それと、大きな牛のような生物がいる。戦っているように見えるが……。


「ほれ、早う行かぬか。」

「押すな! 落ちる! 落ちるって! 行くから!」


 くそっ、なんて奴だ。壁子め。俺に布教させようって奴が、俺を殺そうとするのかよ。






 牛というやつは、背中と頭の高さが同じぐらいだ。だから牛の「体高」というのは地面から背中までの高さである。種類にもよるが、たとえば乳牛として知られる白と黒のまだら模様の牛、ホルスタイン種というのだが、あれの平均的な体高が150cmぐらいだ。

 俺は地方の農村の出身だ。小学生の頃にはまだ近所に牛を飼っている家があって、トウモロコシの芯をやったらボリボリ食べていたのを覚えている。ちなみに、トウモロコシの実は俺が食べた。

 で、だ。俺たちが見つけた巨大な牛。近寄ってみると、こいつの体高が3mもある。まさに見上げるような巨体だ。体重どんだけあるんだろう? 1トンじゃきかないよな。

 驚く事に、そんな巨大牛と戦っている2人組がいた。さらに驚くことに、どちらも美女だった。


「モォォォ!」


 巨大牛が突進。

 身軽そうな服装の美女がプロレスラーみたいに両手を広げて前に出ると、その突進を正面から受け止める。だが彼女は決してプロレスラーみたいな体格ではなかった。モデル体型というほど細くはないが、健康的なグラビア体型だ。胸部を凝視してはいけない。眼福だが。紳士たるもの。見てはいけない。


「んいいいいっ! とりゃあっ!」


 受け止めるだけでなく、横へ投げ飛ばして巨大牛を転がした。決して筋肉質には見えない体のどこにそんなパワーがあるのだろうか。

 巨大牛が身をよじって起き上がろうとする。


「ウォーターキャノン!」


 ローブ姿の美女が杖を掲げると、青い光が現れて魔方陣を描き、そこから大量の水が噴出した。

 こっちの美女はローブを着ていて体型が分かりにくいが、顔は少し痩せ型、おそらくモデル体型だろう。なのに胸の部分だけ立派に盛り上がっている。……おっと、いけない。紳士、紳士。見るべき場所は、むしろ魔法だろう。魔法、あるんだな。マジで異世界じゃないか。

 魔方陣から噴出した水は、巨大牛に命中して全身水浸しにするだけでなく、瞬時に凍り付いて巨大牛の動きを封じた。


「今っ……!」


 身軽そうな服装の美女が、拳を構えて巨大牛に飛び掛かる。

 だが巨大牛のパワーもさるもの。氷の強度はちょっと足りなかったようで、巨大牛は暴れて氷を破壊した。

 その蹄が、飛び掛かった美女に迫り――


「壁ッ!」


 俺は思わず手をかざしていた。

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