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23/25

壁23

 俺は美人姉妹と結婚することにした。元貴族であるため、ある程度の貴族社会の知識があり、最も気心の知れた異性でもある。他の女性では代わりにならないメリットだ。そして俺と結婚することで美人姉妹が貴族の地位を取り戻せる。他の貴族に嫁いでも同じだが、美人姉妹が俺に求婚する以上、これは俺にしかできない事だ。


「結婚式は領地を発展させてからにしようか。そんなに時間はかからないだろうし。」


 計画はある。

 第1段階は、邪魔な魔物の討伐だ。この領地の最大の問題を取り除く。

 第2段階は、インフラ整備。隣国との物流を本格化させられるだけの幹線道路を作る。

 第3段階は、物流の中継地点としての機能を強化し、街を発展させる。

 ここまでは俺の能力を使って、資金無限チートのまねごとができる。結婚式はこのタイミングがいいだろう。ただし領地開発計画には、まだ続きがある。

 第4段階は、発展した状態を維持できるようにする。資金無限チートなしで、という意味だ。これには時間がかかるだろう。しかし俺が年老いて動けなくなる前に完了すればいいから猶予はある。安全な老後のために、これは何としても成し遂げなくてはならない。


「というわけで、魔物の討伐を始めよう。」

「普通なら部隊を出撃させたり、冒険者に依頼したりするものですが……。」

「私たちなら自分でできるもんね。」

「死体を売れば収入にもなるというわけじゃな。」


 小さな農村が1つあるだけで、領地の大半は未開の森だ。開発計画の対象になる地域が非常に広くて大変だし、ろくに税も取れないが、人口が少ないおかげで守る範囲が小さく、守りやすいために開発計画に集中しやすい。運がいいんだか悪いんだか……。






 まずは領地上空を飛び回って、等間隔に柱を立てる。これは壁子さんの能力を使った魔物センサーだ。

 次に、壁子さんからの報告を受けて、魔物を討伐していく。


「とりゃっ!」


 サップバットで魔物を殴るナクルさん。

 魔物は強い衝撃を受けて骨折したり、時には折れた骨が内臓を傷つけることもあるが、体の表面には傷がつかない。衝撃吸収性能に優れる粒状物質のおかげだ。おかげで皮は損傷がなくて高く売れる。


「ウォーターキャノン!」


 魔法攻撃で魔物を氷漬けにするアクアさん。

 閉じ込められて急激に体を冷やされた魔物は、やがて凍死する。魔法防御力が低い魔物だと、凍死と同時に凍ってしまうほどだ。魔法防御力が高い魔物でも、魔法が顔に命中したときは早い。呼吸器が氷でふさがれて窒息するからだ。


「壁生成。」


 俺はアクアさんのやり方に学んで、窒素の壁を生成した。

 酸素濃度6%以下の空気を吸うと、人間は1回の呼吸で意識を失う。それは魔物も同じだったらしく、窒素の壁――窒素100%、酸素濃度0%の空気を吸うと、一瞬で昏倒した。人間なら6分で死亡するが、魔物は種族や体のサイズによって違いが出るようだ。

 いずれにせよ、一切傷を与えずに討伐できる。






 討伐は順調だ。順調すぎて死体の輸送が追いつかない。

 開発計画を少し前倒しして、輸送に必要な道路だけ先に作ることにした。


「壁生成。」


 道路にする予定地にタングステンの壁を生成する。重さでじわ~っと押し固める作戦だ。これで道の形ができる。

 次に小石の壁を生成して、また上からタングステンの重さで押し固める。これで排水性能が上がる。

 さらに砕いた石を生成して、またタングステンで押し固める。砕石舗装だ。

 自動車が増えると粉塵の問題が発生するが、馬車や徒歩ならこれで十分。そしてこっちの世界で自動車と呼べるようなものは、俺が作ったトラックもどきぐらいだろう。

 この道は、領内の村を通るようにした。






 1ヶ月もすると、領内に冒険者が増えてきた。

 俺たちが毎日大量の魔物を売りに行くので、儲かるかもしれないと考えた冒険者が出てきたのだ。事実、魔物が多くて、討伐できる実力さえあれば儲かる。


「第3段階もちょっと前倒しだな。」


 稼いだ金を使って、馬と馬車を買いそろえ、人を雇って運び屋を開業した。

 魔物を討伐した冒険者たちが、運び屋を使って魔物の死体を運ぶ。その場で解体して個人で運べる量を売るより、運び屋を使ってでも丸ごと1頭を売ったほうが儲かるとあって、冒険者たちは運び屋に殺到した。

 村に食堂や酒場を求める声が出始めたが、俺はこれを放置した。冒険者たちは街へ戻ってそのことを愚痴るだろう。そうすれば――






 狙い通り、2週間後には街から村へ移住者が現れ、酒場を建てた。冒険者の愚痴を聞きつけたのだろう。商機に敏感なやつが絶対に来ると思っていた。ポーションの件で苦情をよこさなかったような人たちが一定数存在するはずだと思ったのだ。

 領地は順調に発展する兆しを見せてきた。

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