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21/25

壁21

 スタンピードの原因調査の依頼を受けた俺たちは、再びスタンピードの現場を訪れた。

 スタンピードで出た大量の死体を、せっせと解体している冒険者たちが何組もいた。あの戦場では、そのときに解体する暇などなかったし、直後にはそんな体力はない。数も多くて1日では終わらないが、ただ腐らせるのはもったいないし、アンデッドになっても困る。

 俺たちは、彼らを後目に、魔物が来た方向へ遡っていく。


「足跡の間隔が広いですね。」

「走ってたみたいだね。」


 俺たちが戦った場所から10km以上も離れた場所なのに、魔物はすでに走っていた。これはちょっとおかしな事だ。オーク帝国やゴブリンの群のときのことを思うと、冒険者たちに気づいて走り出すのは、遠くても1kmまで近づいてからだった。


「鼻のいい魔物でもおったのかのぅ?」


 確かに、犬や豚ほど鼻がよければ、そういうこともあるかもしれない。それにしても10kmは遠いような気がするが。

 別の可能性としては、


「何かに追われていたのかもしれない。」


 逃げていたのなら、遠くから走ってきたのもうなずける。


「真壁よ。それ、フラグだと思うのじゃ。」






 フラグだった。


「グオオオオ!」


 ビリビリと空気を震わせる大音量。目玉だけで人間ほどもある巨体が、家ほどもある頭を持ち上げて吠える。


「ドラゴンじゃ!」

「凄い迫力だな。」


 映画なんて目じゃない。


「逃げるよ。」

「Aランクの魔物です。」


 美人姉妹が声をひそめて言う。よく見れば、震えが来ている。

 ……珍しいな。この2人が怖くて震えるなんて。


「無理じゃな。もう見つかっておる。」

「倒して持ち帰ったら、また信者が増えるかな?」


 ドラゴンが向かってきた。飛び立って距離を詰め、100mほどの距離から口を開けた。大量の魔力が集まっていく。


「ブレスが来ます!」

「逃げて!」


 言われた通りにドラゴンの横へ回り込む。

 同時に、ブレスの攻撃範囲内に数種類の壁を生成しておいた。耐えられる素材を確認するためだ。

 直後、見たこともない巨大な炎が現れた。火炎放射器がおもちゃに見える。


「おっ……!」


 炎がおさまったとき、一部の壁が焼け残っていた。

 鉄は溶けた。タンタルも溶けたが、タングステンは溶けなかった。鉄の融点は1536度、タンタルは2985度、タングステンは3407度。炎の温度は3000度ぐらいか。

 ちなみにタンタルというのは、金属の1つだ。携帯電話などの電子部品に使われているほか、屈折率の高いレンズにも使われている。たとえばスマホに装着する望遠レンズ(別売りの望遠鏡みたいな形をしたやつ)に使われている。

 閑話休題。

 やはりタングステンは強い。だが炎による攻撃があるなら、炭素繊維の使用には気をつけなくてはならない。普通に燃えてしまう。ものは炭と同じだからな。


「グオオオオ!」


 雄叫びをあげてドラゴンが突撃してきた。


「壁生成。」


 複数の素材で壁を生成してみた。

 石壁は破壊された。鉄筋コンクリートも大きく破壊されて、鉄筋がむき出しになりながらかろうじて残っている程度だ。鋼鉄すら大きくひしゃげている。さらにタングステンさえも大きく傷がついた。頑丈だから鉄みたいにひしゃげない分、切り裂かれたようにになっている。

 だが、どうにか止まった。


「すごいパワーだな。」

「あれより頑丈な素材はあるかのぅ?」


 あるかもしれないが、俺はよく知らない。


「防ぐより倒したほうがよさそうだ。

 アクアさん、ウォーターキャノンを!」


 壁を生成。ドラゴンの周囲に炭素繊維の綿を作る。


「はい! ウォーターキャノン!」


 そこへ大量の水が。着弾と同時に凍る。

 綿を混ぜた氷は、強度がべらぼうに高くなる。理由は鉄筋コンクリートやカーボン樹脂と同じだ。要するに綿の繊維が氷をつかんで、割れても剥がれにくくする。

 炭素繊維は引っ張り強度が極めて高い。だが火に弱くて燃えやすいので、氷に閉じ込めて耐火性能を上げる。

 体の大部分を氷に包まれたドラゴンが地面に落ちてくる。


「ナクルさん!」

「任せて!」


 飛び出したナクルさんが、サップバットでドラゴンを殴る。

 土嚢を落としたような重たい音がして、ドラゴンの頭が大きく揺れた。

 隙あり!


「壁生成!」


 さらに炭素繊維の綿を生成。

 すかさずアクアさんがウォーターキャノンで氷に閉じ込める。

 どんどん炭素繊維の綿を生成し続け、アクアさんの魔法で氷を大きくしていく。ドラゴンは氷の中に閉じ込められ、動きを封じられた。


「とりあえず動きは封じたみたいだね。」

「これからどうしますか?」


 ここまで来ると逃げるのはもったいないという気持ちが出てくるのだろう。


「調子が戻ってきたようじゃのぅ。」


 壁子さんが言うと、2人はばつが悪そうに困った顔をした。


「ドラゴンの咆吼には、周囲に恐怖状態を撒き散らす効果があるんです。」

「状態異常を与える攻撃なんだよね。ただ吠えてるだけじゃなくて。」


 なるほど。それで2人とも逃げようとしたのか。

 だが俺には何の影響もなかった。

 壁子さんを見ると、


「信者が増えたからじゃ。そなたの精神面にも防壁ができておる。」


 という事らしい。


「じゃあ、ドラゴンを倒しましょう。」


 14秒ほど前に固定解除した壁が、1km上空から落ちてくる。

 1mの立方体500個分、1万トンのタングステンだ。矢のような形にしてあるが、サイズ的には柱といったほうが正しい。

 1km上空からの落下で運動エネルギーは980億ジュール。雷の平均エネルギーが15億ジュールだから、65倍ぐらいか。ちょっと比較対象がよく分からない。TNT爆弾22.5トンぐらいだ。それが全方位ではなく、下へのみ進むエネルギーとしてドラゴンを襲う。

 ドラゴンをあっさり貫通して地面に突き刺さったタングステンの柱が、衝撃で周囲の土を吹き飛ばしてクレーターを作った。

 よかった、防壁を出しておいて。


「よし、後は運ぶだけ。

 高く売れるといいですね。」

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