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壁02

 気づくと、俺は草原にいた。知らない場所だが、なんとなくヨーロッパや北海道にありそうな風景だな。うんと遠くに山脈が見えているが、その手前に地平線が見えるような気がするほどの大草原だ。太陽が高い位置にあるから、時刻は10時から14時の間ぐらいだろうか。暑くもなく、寒くもない、いい天気だ。


「あー……これは、やられてしまったのじゃ……。」


 のじゃロリ美少女の壁の神「ぬりかべ」が、俺の隣で目を覚ます。

 黒焦げになってほとんど原形をとどめていないスマホを返すように差し出されたが、もはや使い物にならない。俺は受け取ってーー……スマホが黒焦げなのに、なぜ俺たちが無事なのだろうか?


「何だったんだ、あれは? それに、ここは?」


 落雷に直撃されたと思ったら、あの強烈な思念だ。大型トラックにでも轢かれたような、ものすごい衝撃だった。まだ頭がクラクラするような気がする。

 敬語を忘れたな。しょうがない。すごい衝撃だったからな。


「あれは地球世界の主神じゃ。

 あやつは産業革命の頃から神の奇跡を使わないように控えておる。それを他の神々にも強制しておって、実際のところあやつが一番信仰を集めておるから、誰も逆らえんのじゃ。」


 壁の神は、不機嫌そうに顔を歪める。美少女の姿だから、かわいらしいふくれっ面だ。

 主神のことは「自分ばかり信仰を集めてずるいのじゃ」とでも思っているのだろう。信仰とか神の座とかの重要度がよく分からないから実感が湧かないが、壁の神の態度を見ているとどうやら重要なものらしい。


「なるほど。」


 確かに、ものすごく強烈な思念だった。他人の思念を頭の中に送り込まれる経験なんて初めてだったが、人間のものとは思えないほど、なんていうか、凄かったというか、強かった。吹き飛ばされそうな感じだったな。


「それで、ここはどこなんですか?」

「うむ……すまん、真壁。ここは異世界じゃ。わらわたちは主神によって地球世界から追放されてしもうた。」

「異世界……。」

「さらに、すまん。真壁。そなたを主神の雷撃から守るために、わらわは力の大半を使い果たしたのじゃ。」

「つまり戻れないってことですか?」

「主神が『二度と戻るな』と言っておったじゃろ? 万全の状態でも戻れぬわ。

 それどころか、今のわらわは見た目通りの可憐ではかない非力な美少女にすぎぬ。」


 困り顔で上目遣いにこっちを見てくるが、だいぶ余計な情報が入ったな。こいつめ、意外と余裕のようだ。


「いや、本当になんにもできない非力な美少女なのじゃ。

 神通力を与えたそなたの方が、今は強い。頼りにしておるのじゃ。」


 俺はこの状況をどう考えればいいのだろうか? 非力な少女が頼ってくるのなら、助けてやるのが人の道だろう。まして雷から守ってくれたというのなら恩人でもある。とはいえ、その雷とこの状況、元を正せばこの壁の神が原因だ。流されて受け入れてしまった俺も俺だが、神様の事情に巻き込まれた被害者ともいえる。むしろ、被害者意識のほうが強い。リスクの説明がなかったもんな。こんな事になるなんて……。しかも今や神通力も使えないただの少女ときている。壁の神とかいって、壁紙にもならない。もう壁神じゃなくて、ただの壁子さんだな。


「おぅふ……辛辣なのじゃ……。」


 なんかダメージを受けた様子でのけぞっているが、ひっくり返りたいのは俺のほうだ。

 異世界とか……どうしろと?


「まあ、あれじゃ。考えても無駄というやつじゃ。

 それより、この世界なら神通力を使い放題じゃ。主神のやつも干渉してこんじゃろうからな。

 というわけで、わらわへの信仰を集めるために布教活動をするのじゃ。」


 壁の能力を使って有名になれと……。

 しかし見渡す限り草原で、人工物も人影もないこの状況では、有名になる以前に生き延びることさえ難しいかもしれない。


「布教どころじゃないよ。

 とりあえず、最優先目標は、3日以内に水源を確保することか。」


 確か人間は3日以上水分をとらないと大変なことになるって聞いたな。

 こんな死に方はいやだ。どうにか生き延びないと。


「真壁よ。水が欲しいなら、水の壁を作ればいいのじゃぞ?」

「え? ……あ。」


 そうだ。この壁の能力は「任意の素材で壁を生成する」というものだ。土とか石とかのまともな建材である必要はない。水の壁でもいいのだ。なんならジュースの壁でもいいし、肉とか果物とかの壁でもいいはずだ。

 飲食の問題が解決した。


「そしたら次は、衣食住の『衣』か?」

「布の壁を作ればいいのじゃ。切ったり縫ったりするのには道具が必要じゃが、体に巻き付ければ服の代わりになるのじゃ。」


 たしかアフリカ大陸のほうで、そんな衣装があったっけ。カンガとかいうんだったか?

 ローマの、トーガとかいう服装も1枚布だったはずだ。


「解決しちゃったな。じゃあ、住居は……?」

「高さが低くて、横幅と厚みの大きい壁を作るといいのじゃ。」

「えっと……?」

「つまりタイルのような形じゃ。

 それに壁をつければ箱ができる。床も同じように作って、ドアや窓の穴をあければ、住居のできあがりじゃ。」

「おお……。」


 さっそく言われたとおりにやってみた。

 家ができた。

 土でできた四角い箱……ルワンダの民家みたいな土の家だ。金属で作ったらコンテナハウスみたいになるだろうな。

 今の家の作り方を参考にして、屋根なしの小さい箱を作ればコップになる。素材はガラスにしよう。水を出して……ぐびっ。うん、ウマい。

 リンゴでも出してみるか……もぐもぐ……うん、ウマい。円柱形のリンゴだけど。壁だもんな。ブロックとか筒とか柱とかは、そういう形の壁として作れるけど、リンゴみたいな複雑な形や球体は、どうやって作ればいいんだろう?


「衣食住、完成しちゃったな。」

「凄いじゃろ。」


 どや! と壁子さんが胸を張る。

 うん。これは確かに凄い。さすがは壁子様。さす壁。……サバイバルって何だっけ?

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