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壁19

 Bランクになっても、俺たちが受けるのはほとんどがFランクの依頼だ。誰もが敬遠する依頼を、率先して受ける。すべては信者獲得のため。壁子さんの神通力を取り戻すため。それによって俺の安全度を高めるためだ。

 俺たちは順調に依頼をこなして、最近では受付嬢だけでなく他の冒険者たちにも一目置かれるようになっていた。BランクなのにEランクの依頼ばかり受けているボランティア精神の塊として名前が売れてきているのだ。前のオーク帝国での貢献が大きかったのもある。


「マカベさん、皆さん!」


 その日、また受付嬢が俺たちに声を掛けてきた。


「来てくれるのを待っていました! 実は今、すごく大変なんです!」


 受付嬢が次に発した一言で、俺たちは声をそろえて驚いた。


「「スタンピード!?」」






 スタンピードとは、魔物が異常繁殖して本来の生息圏から大量に溢れ出る現象だ。

 異常繁殖の原因はその時々で違う。天敵が少ないとか、餌が多いとか、色々だ。しかしいずれにせよ、人間にとって問題なのは、その溢れた魔物が人里を襲うことだ。餌を安定的に得られず、偶然見つけた人里を襲う。

 冒険者にとっては、最低でも1万体というその凄まじい個体数が問題になる。それに魔物の質も。


「支部長、提案があります。」


 俺は再び防壁の構築を申し出た。

 オーク帝国を想定した前回の防壁は、スタンピードには対応していない。様々な魔物の混成部隊ともいえるスタンピードは、これだけの防壁があれば問題ないという線引きをするのが難しい。どれだけの戦力がいるのか分からないからだ。

 たとえばオーク帝国を参考にして高さ10mの壁を作っても、スタンピードの一部はそれを易々と飛び越えてしまう可能性があるのだ。ここが混成部隊の難しいところである。

 だが、10mでは防げなくても50mや100mの壁なら? 100mというと25階建てのビルに相当する高さだ。東京でもあまり多くないレベルのビルになる。文京シビックセンターの展望ラウンジとか行けば分かるだろう。地上100mだが遙か遠くまでよく見渡せる。

 そういう高さならさすがにジャンプして越えるのは魔物でも無理だろう。飛行できるやつか、昆虫みたいに壁面を歩けるような奴なら別だが。もちろん今回はそのあたりにも対処していく。壁の表面にアロエやオクラなどのヌルヌル成分を生成しておくのだ。こうすれば滑って登れない。

 油でもいいが、それだと火魔法で燃えてしまう。ビル火災みたいになってしまうので油は使わない。あと、ついでだから嫌がらせの成分を加えておこう……うへへへ……。おっと、良い子は食べ物で遊んじゃダメだぞ。悪い子もダメだからな。悪い大人だけが「あとでスタッフが美味しく頂きました」を条件に許されるのだ。

 飛行への対処としては、今回は予め屋上にも防壁をつけておこう。敵の数が多いから、カバーが間に合わないことが予想される。


「ひ、ひいいい!」

「た、た、た、高いいいい!」

「怖いよおおお!」

「お母ちゃあああん!」


 冒険者たちが地上100mの高さに慣れてくれるまでに時間がかかった。

 やはり屋上にも防壁を作って正解だったようだ。まあ、この世界の人たちには非現実的な高度だもんな。「お母ちゃーん」は、ちょっとどうかと思うが。


「ま、ま、ま、マカベさんはどうして平気なんですか……!?」

「この高さは私もちょっと怖いな……。」


 美人姉妹の姉アクアさんが生まれたての子鹿みたいになっている。プルプル足を震わせながら、壁際には近づかないほどの恐がりようだ。

 妹のナクルさんは、壁際まで行けるが顔をしかめている。

 2人とも、いつも俺の壁で飛んでいるんだが……まあ、普段の飛行高度はせいぜい25mぐらいだ。木の上を飛ぶときにそうなる。その4倍だと、さすがに怖いのか。


「どうしてって……。」

「……のう?」


 俺は壁子さんと視線を交わした。

 そう多くないとはいえ、珍しいとも言えないのだ。修学旅行で東京タワーやスカイツリーなんかに登った人は多いだろう。俺もその口だ。東京タワーの展望台は地上150m。その周辺には視界を遮るほどの高層ビルも割と多い。港区だもんな。ちなみにスカイツリーだと634m。さすがに視界を遮るようなビルはなく、地上までの距離が遠すぎてスカイダイビングや航空写真みたいな絶景になる。

 青ポーションの壁を使えば600mの壁だって作れるが、そこまで高いと魔術師が射程外になってしまうだろう。弓矢なら落下して届くが。というか、もはや弓がいらない。矢をまとめてポイポイするだけで十分だ。


「……うん?」


 そういえば、俺って1km先でも壁を動かせるな。じゃあ青ポーション浴びながら重量物を生成して、ばらまくように落とせば……?


「壁生成。」


 思いついたら即実行。

 地上100mの屋上からさらに900m上空に、タングステンの矢を生成。矢羽根まで全てタングステンで作る。重量を増すためだ。空気抵抗で矢の向きは揃うだろう。量は……とりあえず100万本ぐらいでいいか。


「お、おい……!」

「なんだ、あれ……!?」

「空に何か……。」


 急に空が暗くなったから、冒険者たちが気づいて騒ぎ出す。位置的にスタンピードのほぼ真上だから、鳥系の魔物の大群が現れたように見えるのかもしれない。

 だが心配無用だ。


「固定解除。」


 落下する100万本の矢。1m間隔で1km四方に敷き詰めてある。

 1万匹のスタンピードに重金属の雨が降った。


「えげつないのぅ……。」


 壁子さんが言う通り、スタンピードの7割ぐらいが今の一撃で壊滅した。

 だが単なる落下で正確に狙うのは難しい。壁を自由に動かすこともできるが、俺はあまり多くの壁を同時に制御できない。集中力をそんなに分散して使えないからだ。ラジコンを複数同時に操るような難しさがある。ここから先は冒険者たちに各個撃破してもらうほうが効率的だろう。


「残りは皆さんでお願いします。青ポーションは出しておきますから。」


 殲滅が始まった。

 死者・重傷者ゼロ。戦士たちが一部軽傷を負ったが、人間の生活圏には何の被害も出ていない。


「スタンピードの結果としては異例中の異例だな。」


 支部長が呆れたように言っていた。

布石回収忘れ

壁に仕込んだ嫌がらせは、唐辛子などの刺激成分です。

壁に取り憑いた魔物が、目などの粘膜をやられてどうなるか……ぐへへ。

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