壁16
あれから数日、いつも通り依頼を探していると、また受付嬢から声を掛けられた。
「また面倒な依頼なんですが、お願いしてもいいですか?」
今度の依頼は調査だった。
救援物資を届けたついでにちょっと手を出した街の男爵、その上にいる子爵――日本でいうと市長ぐらいの人が、洪水の影響で魔物の生息圏が変わる恐れがあるから調査して欲しいという依頼を出していた。
討伐する必要がなく、魔物に遭遇しても逃げればいい。従って報酬は安いのだが、広範囲を調べる必要があるために拘束時間は長い。もちろん遭遇した魔物を討伐しても問題はなく、それが副収入になるのだが、討伐に精を出していると調査が終わらない。
特に今回は、洪水の影響で生息圏がどう変わったかが重要なので、悪くすると調査が遅れたせいで魔物が人里に入ってきてしまうのに気づかないなんて事になりかねない。
というわけで、現地に到着した。普通なら歩き回って魔物の足跡などを見つけて活動範囲や種類を絞り込んでいくわけだが、俺たちには少し違う方法がとれる。
「壁生成。」
まずは床を生成して、それに乗って空を飛ぶ。
そして絨毯爆撃よろしく小さな壁を作っては落とし、作っては落とし……調査範囲全体にくまなく落とした壁は、壁子さんに周囲の音を届ける。
「あっちじゃ。」
これで音から魔物の所在を特定し、現地に飛んでいく。
実際に見ることで間違いなく魔物の種類を特定。これには美人姉妹の知識を頼りにする。
あとは調査報告をまとめて完了だ。
……と思っていたのだが。
「これはマズイですね。」
「オーク帝国かな。」
1000体を超えるオークの群が確認できた。
「オーク帝国というのは?」
初めて聞く言葉だ。オークの帝国? 1000体以上のオークは脅威だが、それで帝国なんて呼ぶのはおかしな感じだ。人口1000人なんて、日本だったら田舎の町村レベルだもんな。もっとも、この国の村や街はもっと人口が少ない。田舎村の人口が100人未満なんて事もある。ゴブリン100匹を討伐したあの村もそうだった。
たぶん街の作り方にも影響を受けているだろう。住宅や教会などを1カ所に集中させて、その周辺に農地を広げている。隣の家との距離が近いために、お互いに助け合いやすく、少人数でも集落として生活が成り立つ。
「オークの最上位種族に『オークエンペラー』っていうのが居るんだけど、そいつが支配している群をオーク帝国っていうんだよ。」
「複数のオークキングを従え、オークジェネラルも多数いるでしょう。100体を超えるオークソルジャーやオークマジシャン、数百体のオーク……こちらも人数をそろえないと対処できません。」
美人姉妹が険しい顔だ。
確かに討伐しようと思うと1000体のオークは大変だ。上位種族が混じっているとなると、なおさらである。それに、ジェネラルだのキングだのエンペラーだの、明らかに統率力に優れていそうな名前じゃないか。
「どうするのじゃ?」
今すぐ討伐に取りかかっても、ギャラリーがいないから信者が集まらない。壁子さんが心配しているのは、そこだ。確かに数は多いが、1体ずつ討伐するのは可能だろう。俺の能力で防壁を作って、美人姉妹に攻撃してもらえば、ゴブリンの時と同様に対処できるはずだ。ポーションの壁で魔力も体力も回復できるし。
となると、どうやれば取り分が増えるかという事を考えるわけだが、そもそも今回は討伐する必要がない。
「俺たちが受けたのは調査依頼なんだから、調査結果を報告して一旦終わりだろ。
たぶん子爵が調査結果を受けて討伐依頼を出すんじゃないか?」
それを受けて改めて討伐に向かえばいい。
あんまり長い猶予はないかもしれないが、オーク帝国がこれだけの規模になるまで発見されずに来たのだから、近くの人里を今すぐ襲うという可能性は低いだろう。あるとしたら、洪水の影響で減ってしまった餌を求めて行動範囲を広げ、その結果として人里を見つけて……ということになる。だがその場合、ゴブリンにも斥候を出す知恵があったのだから、オーク帝国でも斥候を出すだろう。すでに斥候が出ていたゴブリンのときで3日の猶予があった。今回なら、もっと時間があるはずだ。
「そうですね。
それと冒険者ギルドにも報告するべきです。そうしておけば討伐依頼が出たときに冒険者が集まりやすいように手を打ってくれるでしょう。」
確かに、完了報告のついでに調査結果を報告しておいてもいい。そうする義務はないが、後で子爵から聞くより対応しやすくなるのは確かだ。それで安全度が高まるなら、そうしよう。
より大勢の冒険者を集めてもらえば、いいギャラリーになる。信者を増やして壁子さんの神通力を回復するチャンスだ。




