壁12
信者を増やせそうな依頼を探して冒険者ギルドの掲示板を眺めていると、1つの依頼書が目にとまった。
とある村の村長からの依頼だ。ここ最近、地面に魔物と思われる足跡を発見することがあるという。足跡の正体がどういう魔物で、どのぐらいの数がいるのか。それを調査する依頼だ。調査結果をもとに、必要があれば討伐依頼を出すことになるだろう。
俺たちはそれを引き受けることにして、依頼主がいる村へ向かった。
「これですじゃ。」
と村長に案内されて足跡を確認すると、子供が裸足で歩いたような足跡だった。ただし指の先に尖ったものがある。たぶん爪だろう。人間のような平爪ではなく、獣のような鉤爪だ。
「たぶんゴブリンの足跡でしょうね。」
「村に被害はないの?」
美人姉妹の姉アクアさんが、足跡から魔物の正体を推測する。その表情は険しかった。
妹のナクルさんは周囲を見回しながら村長に尋ねた。
「被害は今のところ出ておりませんのじゃ。」
それを聞いて、美人姉妹がうなずき合う。
「猶予は、長くて1週間といったところでしょう。」
「早ければ今日にでもゴブリンの群が押し寄せてくると思うよ。」
村長が青い顔をする。
「どうしてそんな事が分かるのじゃ?」
壁子さんがきょとんとしている。
「この足跡が斥候だからだろ。
足跡の数から斥候の規模が分かる。斥候の規模から本隊の規模が分かる。
もっとも、足跡から魔物の種類を特定するだけの知識と、その魔物の生態についての知識がないといけないが。」
つまり俺には分からないということだ。
「その通りです。おそらく本隊の数は100匹ぐらいでしょう。」
「ひゃく……!」
村長がますます青い顔をする。
悪くすれば村人が皆殺しになるだろうな。
「とりあえず防壁を作って村を囲んでしまいましょう。
アクアさん、必要な高さと固さは?」
「高さ2m、民家の壁ぐらいの強度で十分です。」
「了解です。
村長さん、一緒に来てください。」
足下に床型の壁を生成して、村長さんを拉致同然に連れていく。防壁を生成する場所を指定してもらうためだ。青ポーションの壁を作りながら、農地ごと村を囲む防壁を作る。今後のためにも防壁はそのまま残すつもりだが、用水路に干渉するとか日照条件が悪くなるとかの影響があってはいけない。そのほかにも、俺が知らない「設置されては困る場所」があるといけないので、村長さんに教わりながら防壁を生成していくことにする。
空を飛びながら、高さ2mの石の防壁をどんどん生成していき、15分ほどで1周した。丸太を並べたような防壁でも十分だろうと思うが、サービスでもう少し強固な石の防壁にした。高さは日照条件に影響するからアクアさんに言われたとおり2mにした。外部とつながる道には門を作っておいた。木製だが分厚くて頑丈なやつだ。鉄で補強するとか金属製にするとかでさらに強固にできるが、開け閉めに苦労することになるから、特殊な装置などは必要ない力で開け閉めできるようにしておいた。
「ありがとうございました、村長さん。」
村長さんを解放する。
「い、いえ……。」
初めて空を飛んだせいか、村長さんが放心気味だ。呆然と作った防壁のほうを見ている。
まあ、放っておこう。
「さて、あとは魔物が来るのを待って、撃退すればいいでしょうか?」
「そうですね。これだけ防御が完璧なら、そうしましょう。」
「村だけでなく農地まで囲むなんて、とんでもない規格外だよね。まあ、マカベさんには今更だけど。」
なぜか美人姉妹がちょっと呆れているような……?
「村長さん、この村って宿屋はありますか?」
魔物が今日来るとは限らない。アクアさんの見立てでは長くても1週間だというが、寝泊まりする場所は確保しなくては。
「いえ、宿屋はありません。
我が家へお泊まりください。」
「あ、宿屋がないなら結構です。
そこの空き地を使ってもいいですか?」
「え? ええ、使うのは構いませんが。」
「壁生成。」
高さ8m、幅10m、厚さ15mの木の壁を生成。その中をくりぬくように削除して、建物ができる。蝶番とドアを取り付ければ完成だ。あとは内装だ。台所にシンク、風呂場に浴槽、トイレに便器を取り付け、水道管を引いて貯水タンクに連結し、上下水道を整備する。
下水は地下へ埋める。そのために穴を掘る必要があるのだが、これはドリルで垂直に掘ることにした。ねじ釘のような形をしたドリルで、土を周囲に押しのけながら穴を掘っていく。ついでに能力の限界を調べようと思って、できるだけ深く掘っていったのだが、1km以上掘ってもまだ掘れたので、そこでやめることにした。今回のことで1km先でも壁を動かせると分かった。穴の容積も必要十分だろう。
「さて、あとは家具を作らないと。
2人とも入ってください。どんな家具がいいか意見を貰えますか?」
皿だろうがテーブルだろうがベッドだろうが、自由自在だ。
村長さんがぽかーんと立ち尽くしているのが、ちょっと印象的だった。




