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お茶とバカンス

歩き始めて3時間ほどたった頃だろうか


 「ここらで一休みしませんか?お茶でも飲んで少し落ち着きましょう」


 一番年上(本当は俺が2000歳近く年上だが)のノインが提案してくると


 「そうですね。リエル様もよろしいですか?」


 少し疲れた顔のリィンものってくる。聖域なんていう超強力な結界を使った直後から休まず歩いていたのだ。普通の人間なら疲れて当然だろう。


 「いいだろう。休むとしよう」


 俺は全く疲れていないが心よく提案を受け入れてやる。しかし、ノインは面白くなさそうな顔をして俺をにらんでいる。


 気に入らないな。


 「何か言いたいことでもあるのか?」


 「・・・実は先ほどから気になっていたのです。リエル殿。いかに命の恩人とはいえ姫様に対する言葉遣いは気を付けて下さい」


 ノインが注意してくるが、俺には関係ない。

 一国の姫とは言え何が悲しくて人間の小娘ごときに魔将(仮)まで上り詰めた大の魔族が敬語を使わなくてはいけないんだ。

 俺が明らかに不満そうな顔をしているとリィンが慌てて言ってくる。


 「いえ、ノイン。いいのです。リエル様はされたいようにされて結構です」


 「そうさせてもらえると助かる。俺は丁寧な言葉遣いは苦手でね。この言葉で通させてもらうよ。構わないだろ?」


 俺がノインに確認すると


 「まあ、姫がそういうなら仕方ありませんね」

 

 ノインはあっさりと受け入れる。

 もちろんこれにはタネも仕掛けもある。


 実は俺の魔族としての特殊魔力は『認識操作』だ。これは対象の『認識』を操作するもので今回は『命の恩人』に対するノインの『認識』を操作して『命の恩人ならば身分が高い者に多少の無礼をしても許される』と変えたのだ。


 この能力を使えばこいつらに俺の事を『世界で一番信頼できる存在』にすることも『命を懸けても守りたい愛しい人』に思わせるのも造作もないことだ。

 しかし、今はこの能力を使わないでこいつらに取り入るという遊びをしているのだ。

 能力抜きで人間どもの信頼を勝ち取ると言う高度な遊びだが、さすがに人間ごときに敬語を使うのはバカバカしいので今回使ったというわけだ。


 そしてこの能力こそが『死の宣告』の即時発動を可能にしている理由だ。


 俺が普通に『死の宣告』を使うとだいたい一か月くらいの待機期間が設けられる。

 これは『死の宣告』の待期期間としてはかなり短い方なのだが、それ以上短くすることは俺の魔力量では無理だ。

 そこで『死の宣告』をした相手の認識を操作して、『一か月経過した』と思い込ませることにより即座に死に至らしめるのだ。

 まあ、このタネを知っている奴はほとんどいなくて魔族でも俺のは単なる即死魔法だと思ている奴が多いがな。


 そうこうしているうちにノインはお茶の準備を始めている。

 ん?この匂いは・・・。


「おい、そのお茶はどうしたんだ?」


「あなたにもあげましょうか?これは最近出入りの商人がクロス王国に持ち込んだもので王宮内で流行っているのです。飲むととても心が落ち着きますよ」


 ノインは嬉しそうな顔で言ってくる。

 何にも知らないアホの顔だな。


「・・・そいつを飲むのはやめておいた方がいい。そんなものを飲み続けていたら何にも考えられないバカになるぞ」


「何をいわれるのです!?」


 おーおー。単純なアホが怒ってるぜ。


「今言ったとおりだ。そいつを飲んだら心が落ち着くんじゃなくてだんだんバカになってるのさ。まあ、信じないならそれでもいいがな」


 こいつは魔族特製の人間をバカにするお茶だ。俺は趣味じゃないからこんなものは使わないが人間の精神を毒することを好むあのインケン野郎のやりそうなことだぜ。


 「やはりこのお茶はおかしなものだったですね」


 リィンが思いつめたような顔になって、言葉を続ける。


 「私は飲んでいないのです。なぜか臭いが気になって」


 さすがは聖女様だな。茶に含まれるわずかな魔気に本能的に気づいたのだろう。


 王宮内でこのお茶が流行っているということは、やはりダンタリオンの部下がクロス王国の王宮内に入り込んでいると考えて間違いないだろう。


 大臣や王族と部下をすり替えて内部から国を混乱させる。


 魔族の常套手段だが・・・。

 

 まーた、古い手を使ってやがるぜ。


 「くっくっく・・・」


 「どうされたのですか?」


 いきなり笑いだした俺をリィンが少し気味悪そうに見ている。


 「いや、運がいいなと思ってな」


 「私たちがですか?」

 

 「いや、俺がだよ」


 邪魔してやる。あのインケン野郎が考えていることを全部邪魔してやる。

 くくくっ。

 こいつは面白くなってきた。


 魔王軍を辞めた俺にとって最高のバカンスになりそうな予感がしてきたのだった。

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