聖女①
「大丈夫か?」
別に俺は助けたつもりはないが、この場合はこういうのが自然だろう。
剣を構えて震えている女騎士はおびえて何も言えないようだ。
おかしいな・・・アーマードグリズリーは完全に絶命しているのだがな。
「危ないところをありがとうございました。私はクロス王国の王女、リィン・クロスと申します」
何にも言えなくなっていた女騎士の代わりに姫さんが聖域を解いて俺にお礼を言ってくる。ジャンヌには劣るがなかなかの美少女だ。それに胸もデカいな。神官のようなダボっとした服を着ていてもその大きさがよくわかる。
「リエルだ。旅の者だ」
俺も一応名の知れた魔族だからな。一応偽名を言っておこう。
しかし、クロス王国か。たしかあのダンタリオンの侵攻地域だったはずだな。ってことはあのアーマードグリズリーも・・・。
くくくっ。ちょっと面白くなってきたじゃないか。このバカンスは。
おっと悪い顔になりそうになったぜ。
「余計なお世話かも知れないが命を狙われる覚えはあるか?」
「え?いいえ・・・」
俺の言葉にリィンは言葉を濁す。否定はしているがやはり心当たりはありそうだな。
「アーマードグリズリーは捕食以外では人間を襲うことはまずない。だが、これだけ食料ができてたのに食おうとしないでお前さんたちを襲ってたのはおかしいだろ」
俺が人間の死体を食料と表現したのが気に入らないのかリィンは厳しい顔になる。
まじめだねえ。
人間てのはくだらない事を気にするからな。
ここは能力を使って・・・。
いやいや、せっかくのバカンスだ。
もう少しこの状況を楽しんでいこう。
「それにしてもさっきのは聖域か?珍しいものが使えるんだな」
俺が正攻法でリィンの機嫌を直すためにとりあえず話をそらそうとすると、
「リィン様は聖女なのだ。聖域が使えるのは当然だろう」
ようやく怯えから解放されたのか女騎士の方が胸を張って威張ってくる。
なんでこいつが威張っているのかよくわからんが、聖女か。
それなら聖域が使えるのもうなづけるな。
「聖女様か。たいしたもんだな」
「いえ、私など未熟者です。私がもっとはやく聖域を作れていたらこんなことにはならなかったのです」
リィンは悲しそうな目で死体となった騎士たちを見ている。
聖域は防御結界としては破格の性能を誇る。物理攻撃はもちろん、魔法攻撃も普通なら完全に防ぐからな。アーマードグリズリー如きが馬鹿力に任せてどれだけ頑張って殴り続けても壊すことなどできないだろう。
まあ、俺ならいくつか壊す方法があるがね。
ここでそれを言うのは野暮と言うものだろう。
「なかなか立派な連中だったな。いざとなったら主君を捨てて逃げ出すなんてことはよくあることだが、彼らはその任務を全うしたのだからな」
これはお世辞じゃないぜ?
今まで俺の滅ぼした人間の国でもよくある光景だったからな。
見捨てて逃げ出すくらいならまだましで、自分たちが助かるために王族を差し出すなんてのもざらだった。
まったく人間てのはあさましいもんだ。
「ええ。私にはもったいないような騎士達でした。・・・せめて祈りましょう」
リィンはそう言って目をつぶる。女騎士もそれにならっている。
俺もそれに付き合ってやる。まあ魔族なんぞに祈られたくないだろうから祈りはしないがね。
「祈り終わったか?」
「ええ。魂が解放されているとよいのですが」
「じゃあ・・・燃やすぜ?」
俺はリィンの返事も聞かずに火炎魔法で騎士たちの死体を焼く。
「貴様、何をする!」
案の定女騎士が食ってかかってくるが
「このままにしておいて魔物のえさになるよりはましだろ」
俺の言葉に
「そうですね・・・。ありがとうございます・・・」
リィンは自分に言い聞かせるように言っていた。