ダンタリオンの真実
前回までのあらすじ。
ダンタリオンがヘタレだったために十二魔将は八魔将なっちゃいました。てへっ。
・・・はっ、あまりの事に現実逃避してしまっていたぞ。
つまりはこういうことらしい。
『阿諛』の能力で実力以上の出世を続けていたダンタリオンだったが、あまりに自分の本来の実力と現在の地位との間に差ができすぎていて怖くなってきていたらしい。
寿命があってないような魔族にとっては出世をあせる者はあまり多くない。
100年そこそこしか生きられない人間と違って、無限の時を生きる魔族には強くなるための時間はあり余っているのだ。
むしろ実力がないのに出世してしまって、実力以上の仕事(強力な軍事力を持つ人間の国への侵攻)を任されたら返り討ちにあってあっさり死ぬ可能性がでてくる。
年齢による寿命はなくても肉体にダメージを受けすぎたら死ぬからな。
だから普通の魔族は実力にふさわしい地位にいる事を望むものだ。
まあ、俺なんかはとにかく出世したい方だったから命を懸けても危険な任務をしてきたが少数派だろうな。
典型的な魔族の思想をもっていたダンタリオンは急激な出世を望んではいなかったが、ダンタリオンはその能力のために実力と地位のバランスが崩れてしまって、魔将にまでのぼり詰めてしまった。
ダンタリオンが言うには簡単に出世できる『阿諛』の能力を使うことに慣れ過ぎてしまっていて上司と話すときには常に使ってしまっていたようだ。
初めは上司も中級程度の魔族だったが、やがて上級魔族、超上級魔族になり、果ては魔軍統括司令にまで通用してしまったために歯止めが効かなくなっていたらしい。
ジャンヌが無意識に無限奪魂扇を使うようなものか。・・・ちょっと違うか。
話が逸れたがダンタリオンはもはや『阿諛』の能力を使っていると言うよりは、『阿諛』の能力に使われていると言った方が正しいような状態になっていたのだ。
『阿諛』の能力が無責任に自分を出世させていくことに恐怖を覚えていたのだ。
そのためにせめて魔将から外してもらおうと魔軍統括司令に魔将の数を減らすことを進言した。
表向きは魔王軍の再編による効率化と魔将の数を減らすという強権的な改革を断行する事で魔王軍における魔軍統括司令の権力の誇示になると吹き込んだらしい。
ただでさえ魔将の中でギリギリの位置(下から2番目)にいる自分なら魔将の数が減れば魔将から外されると思っていたのだ。
俺を含めて魔軍統括司令を『暗黒魔界帰りのボンボン』と思っていた魔族たちに一泡吹かせたいと考えていた魔軍統括司令はこれにのってきたというわけだ。
ただ、ここにダンタリオンの誤算があった。
その意見は受け入れられたが、『阿諛』の効果でダンタリオンに実力があると思い込んでいる魔軍統括司令はダンタリオンを魔将に残すことにしたのだ。
あの節穴野郎・・・。大魔王様の息子のくせに情けない奴だぜ。
ちなみに『阿諛』で進言しても魔軍統括司令に魔王軍再編の気持ちが全くなかったら、魔将の数は減らせなかっただろう。
『阿諛』の効果は補助的なもので他の強力な精神魔法と違ってあくまで相手の考えを変えることはできない。
もともと相手の考えの中にある事をおだてる事でよりよい方法だと思わせて実行させるくらいしかできないからな。
なんにしろあのバカ息子は『阿諛』を使われたとはいえゴマすりで魔王軍の軍制を変えてしまったようだ。自分の都合の良い、自分をおだててくる者たちを取り巻きにしてな。
ちなみにダンタリオンがアンドロマリウスを部下にしたのは魔軍統括司令の強い推薦だったから断り切れなかったそうだ。
ダンタリオンとしては自分よりも明らかに強力な魔族を部下に欲しくなかったが、魔軍統括司令が『アンドロマリウスすらも部下にしているダンタリオン』を作りたかったのだ。
まったく、どうしようもないうやつだよ。あのバカ息子は。
余計な改革はするし、部下の軍の編成にまで口を出す。
一番ダメなトップの典型的なタイプだよ。
あとはダンタリオン自身が話した通りだ。
自分以外の超上位魔族を全て殺して自分を強く見せるしかないと決断することになったのだが、それは魔将から外されずに、自分よりも強いアンドロマリウスを部下にされてプレッシャーのあまりに考えがおかしくなってしまった事が原因らしい。
まあ、魔法人形はかなり時間をかけて作っていたようだから元々そういう考えはあったのかもしれないが、今回の件が引き金になってそれを実行に移させたのだ。
「つまり、全部あのバカ兄のせいだったってわけね」
「私をどうするつもりだ?」
魔法人形を無効化されてもあきらめていなかったダンタリオンだが、ジャンヌがアンドロマリウスを戦闘不能にして扇をあおぎながら戻ってきた姿を見てさすがに観念したらしい。
「あんたが決めなさいよ。あたしはただの手伝いで来ただけだしね」
ジャンヌに促されて俺は少し考える。
「そうだな・・・」
俺が出した結論にジャンヌは
「ホントにそれでいいの?」
とあきれたような声を出したのだった。