いろいろ片付ける
「サリエル様、ありがとうございます!」
ジャンヌのおかげで新たな配属先が決まった部下たちから礼を受けながらちょっと複雑な気分になる。
なんだかんだ言っても部下たちも魔王軍から離れるのは不安だったのだろう。
一時の感情で「俺についてこい!」なんて言わなくてよかったよ。
まあ、それでも数名は「サリエル様についていきます!」と頑張っていたが丁寧に説得した。
後は俺自身だな。
初めは暗黒魔界に行こうと思っていたが、ジャンヌの口ぶりじゃあ正直行ってもつまらなそうだ。
かといって他に目的もないんだが。
・・・とりあえず魔王城を出てから決めるかな。
*
そんなわけで俺は自室を片付けていた。
魔王軍を辞めるのだから当然この部屋も返さなくてはいけないのだが、意外と大変だ。
魔王城に一室を与えられる身分になってから数百年たっていたから片付けていたつもりでも思ったよりも荷物がある。
軍に関する書類の類は部下たちにも手伝ってもらって、すでに引き継いでいるからここに残っているのは俺の私物ばかりだ。
昔人間から分捕った魔法剣や魔道具、よくわからん置物とかがある。
まあ、このよくわからん置物の大半はジャンヌのお土産だが。
あいつはこういう物をよく買ってきては俺の部屋に置いていくんだよ。
大魔王様の娘にして実力で魔将になっている高スペックの美人だが置物の趣味はかなり個性的で、欠点だと言っていもいいくらいだ。
そんな感じで正直、こんな物もってたかな?てな物も結構あるのだ。
あれ?これは・・・。
俺は所狭しと並べられた雑貨のなかで妙に目についた魔道具を手に取る。
こんなに・・・しょぼいの見覚えがないなあ。
明らかに安物の魔石を使っているのがわかるちゃっちな魔道具だ。
他の魔道具に比べるとまるで子供のおもちゃみたいだ。
こんな物を戯れでも人間どもから奪うはずもないし、かと言っていくらジャンヌが趣味が悪いと言ってもこんな安物をくれたりしない。
さすがに大魔王様の娘だけはあってジャンヌが俺にくれたの高級品ばかりなのだ。
俺はもう一度魔道具をよく見てみる。
ん?小さな字で『癒されたいあなたに贈る、最高のバカンスを』と書いてあるな・・・。
あっ!思い出したわ!
確か200年ほど前に俺の担当地域の人間どもの抵抗が激しくなっていた時期で仕事が死ぬほど忙しかった頃に深夜に水晶玉に映っていた魔界通販で衝動買いした物だ。
あの時ほとんど寝てなかったもんなあ。
そういうときって必要のない物でもつい、衝動買いしちゃうんだよなあ。
いつか時間ができたら使おうと思っていたがすっかり忘れていた。
ていうか今となってはどうやって使う物かも、なんの役に立つかも覚えていない。
まあ、あの頃は忙しかったもんなあ。ほとんど記憶がないよ。
ボロボロになるまで働いて、疲労を無理やり魔法で回復させて、最後は寝ながら人間どもの勇者と戦ったりしてたっけ・・・。
そんな思いをして頑張ってきたのに結局は俺は魔将にもなれないて魔王軍を去るのか・・・。
あー、なんか疲れたなあ・・・。
「どこか緑の多いところでのんびり過ごしたいよ・・・」
俺は思わず声に出してつぶやいてしまう。
その瞬間!
魔石が輝いたと思うと・・・。
俺は森の中にいた。