ダンタリオン②
元八魔将にして魔王の娘であるジャンヌの登場にダンタリオンは面白いほど動揺している。
腰でも抜かしたのかふんぞり返っていた玉座からずり落ちそうになっている姿がベタに間抜けだ。
それに比べてさすがにアンドロマリウスは青い顔しているが落ち着いているな。
ジャンヌの強さは分かっているはずだが、ダンタリオンほどの怯えは見られない。
油断のない目つきでこちらをしっかり見据えている。
全く、これほどの男がダンタリオン程度の部下にならなくてはいけなかった事情を思うとさすがに同情するぜ。
「ダンタリオン様、ジャンヌ様にご挨拶を」
静かな声色のアンドロマリウスに促されてようやく放心状態から解放されたのか、
「これはジャンヌ様、こんなところにおいでになさるとはいったいどうされたのです?」
取り繕うように言うダンタリオンに
「さっきの言葉をきいてなかったの?アンドロマリウスとはあたしが遊んであげるって言ったでしょ。あんたがサリエルと二人っきりで会話を楽しめるようにね!」
そこだけ切り取ってきけばまるっきり遊びに来ただけのように聞こえるような言い方をするジャンヌだがダンタリオンにとっては全く笑えない展開だろう。
アンドロマリウスと組んで二対一で俺の相手をするつもりだったのが、俺のとのタイマンを強いられたのだ。
直接戦ったことはないがお互いの実力はわかっているはずだ。なんとしてもタイマンを避けたいのが本音だろう。
「ジャンヌ様、この男は魔王軍を脱走したおたずね者なのですよ。そんな者と行動を共にしてはいけませよ」
諭すように言うダンタリオンだが、その言葉には洗脳の魔力がのせられている。説得する言葉に魔力をのせる事でその内容に従うのが正しいように思わせているのだが・・・。
「あーら、残念ね。あたしはもう魔王軍じゃないのよ。あんたたちだってあたしが魔王軍を辞めたのは知ってるでしょ」
ジャンヌには全く効いていない。
なんとかジャンヌの考えを変えようとするダンタリオンだが、それは無理だろう。
そんな無駄な事をするなんてまだ混乱しているようだな。
「ダンタリオン、あんたこそいったいなんのまねよ?あの城の聖なる力の事を魔王軍に報告していないようだけど、それこそ脱走なんかよりよっぽど重罪でしょ?」
クロス城の聖なる力の事を報告していない事を指摘されてダンタリオンは冷や汗を流しはじめている。
「ダンタリオン様、今の話は本当ですか?」
アンドロマリウスは初耳だったようで、驚いている。
そんなアンドロマリウスを忌々し気に見ながらダンタリオンは吠える。
「ええい。アンドロマリスよ。お前は俺の命令を聞いていればよいのだ。拾ってやった恩を忘れたか!」
「そのことには感謝はしています。しかし、魔王軍への裏切りは許されませんぞ」
「黙れ!まさか忘れたわけではあるまい。お前の子供が今どこにいるのか!」
おいおい、こいつまさか部下の子供を人質に取っているのか?
インケン野郎だとは思っていたが真正のクズだな。
悔しそうにうつむくアンドロマリウスを見かねたのか、
「無駄話はそこまでよ。さあ、アンドロマリウス、遊びに行きましょう!」
ジャンヌは無限奪魂扇を開くと思いっきりアンドロマリウスに向かって振り下ろす!
膨大な量の青白い衝撃波がアンドロマリウスに向かっていき、城の壁ごと吹き飛ばしている。
ダンタリオンと引き離すためにしたんだろうが、相変わらず手加減の下手なやつだよ。
まあ、アンドロマリウスもあの程度でどうこうなる様なやわなやつではないけどな。
「じゃあ、あたしは遊んでくるから後はあんたがケリをつけるのよ」
ジャンヌはアンドロマリウスが吹き飛んでいった方に向かって無限奪魂扇を軽くあおぎながら優雅に歩いていく。
・・・それ、俺の生命力まで吸っていないよな?
「ケチケチしない!あんたのためにやってあげてるんだからね!」
「やっぱり吸収してんのかよ!」
俺の心の声に反応したジャンヌに俺は声に出して突っ込むのだった。




