ダンタリオン①
城の中はやけにひっそりとしていた。
俺は特に警戒せずに進んでいるが誰にも会っていない。
この規模の城にしては不自然なくらい兵の数が少ないな。
『認識操作』を使っているから堂々と歩いていても俺を見つけてとがめる者はいないだろうが、これなら『認識操作』を使わなくても少し警戒しながらいけば問題なく侵入できただろう。
ダンタリオンの野郎、俺を歓迎する準備はできてるってとこか。
下手に部下を大多数この城に駐留させていても、俺に操られて自らの敵を増やすだけだからな。
あのインケン野郎も俺と同様に精神に作用する魔法を得意としているから、対処方法はよくわかっているようだな。
ほどなくして俺はダンタリオンのいる玉座の間にたどり着く。
たかが一魔族のくせに玉座まで作るとは権勢欲が強い野郎だよ。
玉座には俺の見知った顔がいる。
あのきざったらしい嫌味な顔は間違いない。
「よお、ダンタリオン。久しぶりだな」
俺の親しみをこめた挨拶にダンタリオンは顔を引きつらせてヒステリックな声を上げる。
「サリエル!貴様は相変わらず口の利き方がなっていないようだな。それが魔将に対する言葉遣いか!」
おーおー、八魔将に残ったからといって調子にのってくれちゃって。
あのバカ息子に媚びることだけが俺よりうまいだけで、実力では劣るのによくそんな態度がとれたもんだぜ。
「・・・悪かったなあ。偉い魔将様よ。で、その魔将様にききたいことがあるんだがいいか?」
「貴様のような魔族の裏切り者に話すことなどないわ!貴様は魔王軍のおたずね者になっているんだぞ!いわば、お前は全魔族の敵なのだ!」
勝ち誇ったようにいうダンタリオンだ。
「聞きたいことはそのことについてなんだがな。なんで俺が・・・」
「うるさい!アンドロマリウス!出てこい!こやつを始末しろ!」
俺の言葉を遮るダンタリオンの叫びと共にアンドロマリウスが姿を現す。
「サリエル、魔王軍のおたずね者を逃がすわけにはいかない。覚悟してもらおう」
そう言うアンドロマリウスの表情はさえないが、ダンタリオンは勢いづいてやがる。
「どーだ、いかに貴様と言えどもこいつには『認識操作』をかけることなどできんだろう!しかも基本的な戦闘力も貴様よりも上だ。あの城では不覚をとったようだがここではそうはいかんぞ!」
なるほどねえ。確かにアンドロマリウスには俺の『認識操作』は効かないし、俺よりも強い。
その上ダンタリオンもいては全く勝ち目はないだろう。
・・・俺一人ならな。
「あんたの相手はあたしよ、アンドロマリウス!」
『ジャ、ジャンヌ様!』
ダンタリオンとアンドロマリウスの驚きの声が見事にハモったのだった。




