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ノイン②

 俺がリィンの元に着いた時にはノインはすでにリィンに泣きついている。


 何にも知らないって怖いねえ。

 

 「リィン様ー!助けてください!」


 「あら、慌ててどうしたの?ノイン」


 見苦しいほど慌ててノインはリィンにせまっているが、当のリィンは落ち着いて微笑んでいる。


 リィンの微笑みにノインは安心しているが、それはあんまりいい微笑みじゃないぞ?


 命の危機を迎えて冷静さを欠いているノインにはわからないようだが、そうとう怒っているのが傍から見ていてもよくわかる。


 「リエル殿が私に『死の宣告』をかけたのです!どうか解呪してください」


 追い付いた俺をおびえた様子で見ながら必死の形相で訴えるノインだ。


 「ノインは『死の宣告』をかけられたのですか?」


 「はい!私は何もしてないのに何の理由もなくいきなりかけてきたのです」


 不当な扱いを受けたと主張するノインだがリィンは笑顔のままで、


 「理由ならありますよ。私がリエル様にお願いしたんです。『死の宣告』をかけてくださいって」 


 「え?」


 そう。俺はリィンに頼まれてこの城にもぐりこんだ魔族たちに『死の宣告』をかけることになったのだ。

 その手始めがノインになっただけだ。


 「残念ですが、あなたの取るべき道は二つです。そのまま時が来るまでこの城にいて魔族として死ぬか、この城から立ち去って『死の宣告』を解呪できる人を探すか。この二つです」


 正直、俺にはリィンの考えがわからない。


 魔族を憎んでいるなら俺に魔族を始末するように言えばいいのだが、発動まで猶予期間のある『死の宣告』をかけるように頼んできた。

 

 死の期限を迎えるまでの怯えたり、恐怖する様を楽しむためにするならこの選択もわかるがどうもそうでもないようだ。


 この聖女様はセクハラには厳しいが、それ以外の事には妙に甘いところがある。


 このまま魔族を城の中に捨て置くこともできないが、かといって殺すのも忍びないので自分から立ち去るように仕向けたのだろうが、下手をしたら解呪できなくてそのまま死ぬぞ?


 リィンが思っているよりも『死の宣告』の解呪ができる者はレアだし、仮に見つけたとしても解呪してもらえる保証もない。リィンは無償でやっているようだが、けっこうな金を要求する者もいるはずだ。


 そして力づくて解呪させようにも『死の宣告』を解呪できるほどの者なら下級魔族程度なら十分あしらえるだろう。


 リィンにそのつもりはないのだろうが、下級魔族相手にこの選択をする事は結局はゆっくりと殺すようなものだ。


 さて、ノインはどうするか。下級魔族は下級魔族なりのしぶとさがあるからな。どうやって切り抜けるかな?


 完全に傍観者を決め込んだ俺を無視してノインはリィンに話しかける。


 「わかりました。では、私はこの城に残ります。最後までリィン様に仕えます」


 ノインの意外な答えに、


 「そんな事をしても私は解呪しませんよ!魔族に同情などしませんからね!」


 リィンがヒステリックな声を上げるが、今度はノインの方が落ち着いている。


 リィン自身は意識していないだろうが中途半端な処置をしている時点で少なからずこの城に入り込んだ魔族たちに非情になり切れていないのは丸わかりだ。

 特に側近だったノインに対しては思うところがあるのだろう。最初は無理して冷たい態度をとっていたがそれももたなくなってきている。


 「はい。わかっています。リィン様のおっしゃる通り私は魔族です。こうなればすべてをお話しします。私は八魔将の一人であるダンタリオン様の部下でこのクロス城の聖なる力の効果を探る事と、リィン様に取り入ってその力を魔族のために使わせる事が任務でした。聖なる力の効果はおおよそ把握できましたが、リィン様の方はリエル殿に阻止されました」


 そういって俺の方をひとにらみする。

 俺の事が魔族だって理解できないにしてもこいつはホント俺には強いね。


 なんだか正体をバラしたくなってくるな。


 「そのあとはダンタリオン様の配下で超上位魔族のアンドロマリウス様をこの城に手引きしました。そしてそのアンドロマリウス様を退けた元魔将のサリエルという魔族を探していたのですがいまだに見つけられていません」


 すまんな、俺は目の前いるぞ。


 俺は心中で突っ込むが当然聞こえないのでノインはそのまま話を続けている。


 「どうせダンタリオン様の元に戻っても任務を果たせなかったので処分されるだけですし、それならこの城で最後までリィン様にお仕えします」


 ふむ、嘘は言っていなさそうだが、なんでこうなるかね。

 リィンも同じことを思ったようで、


 「なぜ、ここに残るのです。本当に死ぬだけですよ!」


 再び突き放すように言うが、


 「信じてもらえないでしょうが、私はリィン様にお仕えすることは嫌ではなかったのです。それこそダンタリオン様にお仕えするよりも。あなたはそれだけいい主人でした。だから、私はどうせ死ぬならリィン様にお仕えしたまま死にます」


 首を垂れるノインをリィンは忌々しそうに見ていたが、

 

 「・・・勝手にしなさい!そんな事をしても私は解呪しませんからね!・・・キョウドウ様は女性に弱いからどうか知りませんけど」


 リィンは顔をそらしたまま解呪ができる人間をノインに示唆している。


 「リィン様・・・。ありがとうございます!」


 ノインは最大限に頭を下げて去っていく。


 「よかったのか?あれで?」

 

 俺があきれたように聞くと


 「私を甘いと思いますか。いえ、私は甘いですね・・・」


 リィンは俺の答えを待たずに自問して自答するのだった。

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