ノイン①
アンドロマリウスの襲撃があってからクロス城内は騒然としていた。
まあ、魔族がたった一人で攻めてきて城の中核にあるダンスホールがボロボロになるほどに激しい戦闘を騎士団長と聖女と大僧正とおまけの一人(俺だが)としたのだ。
騒ぎにならないはずがないな。
あの絢爛豪華でこの城の自慢の一つだったダンスホールをあんなに壊すとは本当に悪い魔族だなあ。
まったく、もって許しがたい。
そんな風に俺も怒っていたのだが、リィンもだいぶ怒っていたぞ。なぜか俺に対して。
あとは城に入り込んだ魔族たちだ。
こいつらはかなり混乱していていた。
なにしろダンタリオンの元にもどったアンドロマリウスは俺、つまりサリエルがこの城にいる事を報告したんだろうが、城に入り込んでいる魔族たち(キョウドウに確認させたら45人もいた)は俺を見つける事ができないのだ。
ダンタリオンから俺を見つけるように厳命を受けているらしく、やつらは必死になって俺を探している。
それこそ恥も外聞もなく、手段も問わずに探し回っている。
自分たちも魔族のくせに「この城にかなり高位の魔族が入り込んでいるらしい。なにか知らないか」と俺にきいてくる者もいるくらいだ。
まあそんなときのは決まって「何だって!それは大変だな!わかった。何かわかったらすぐに知らせよう!」と俺は答えている。
うーん、シュールだなあ。
探している本人に「この人物を知らないか」ときいていると知ったらいったいどんな気持ちになるだろうか。
言いたい。俺がサリエルって言いたい。
そしてそのリアクションが見たい。
死ぬほど驚愕して怯える姿が見たい。
そんな欲求が湧いてくるがここはぐっと我慢する。
城を壊されてまで戦ったリィンの気持ちを考えたらそんな事はできないよな。
本当にアンドロマリウスは悪い奴だ。
話がそれたが、そんなわけで魔族たちは俺を探しているのだが、『認識操作』で俺を魔族と思えないこいつらは絶対に俺を見つけることはできないのだ。
俺の『認識操作』の影響を受けないほど強いアンドロマリウスは確かに俺がクロス城にいたと言うし、『認識操作』の影響をもろに受けるクロス城にいる下級魔族たちからはどんなに頑張っても見つけられないとの報告するだろうし、そうなるとダンタリオンはさぞかし混乱していることだろう。
くくくっ、ざまあねえな。
「リエル殿、何がおかしいのですか?」
ノインが気持ち悪そうに言ってくる。
そうそう。これからこの下級魔族を追い詰めるんだったな。楽しい妄想でついついこいつを呼び出していたことを忘れるとこだったぜ。
「いや、たいしたことじゃないんだが・・・我は汝に宣告する」
「ひいっ、やめてええええ!まだああああ、いやあああああああああ!・・・あれ?生きている?!」
俺の言葉にノインは哀れなほど取り乱すが、やがて何事も起こらないことに気づく。
「いきなりなにするんですか!冗談でもやっていいことと悪いことがありますよ!」
「別に冗談じゃないぞ。ちゃんと『死の宣告』をかけたからな。ただ、即時発動させてないだけで、『死の宣告』自体は有効だぞ」
「えええええ!リィン様!リィン様ー!」
ノインはあわてて『死の宣告』の解呪ができる聖女、リィンの元へ急ぐが・・・。
さーて、どうなるかな。
お楽しみといこうか。