戦い①
「聖なる封印!」
「それは我には効かないということがわからないのか!」
リィンの聖なる封印がアンドロマリウスの動きを再び一瞬だけ止めるがすぐに何事もなかったかように歩き出す。
だが、これでいい。
リィンが確認するように俺に視線を送ってくるので『問題ない』とうなづいておく。
「それでどっちから来るのだ?二人まとめてでも・・・」
アンドロマリウスが俺とロバートを見ながら何かを言いかけるが、
「聖なる封印!」
また、リィンの技でアンドロマリウスは動きを止める。だが、すぐに動き出す。
「えーい、鬱陶しいわ!女とはいえこれ以上すると容赦はせんぞ!」
嘘つけ。お前は思いっきり女子供に容赦するだろ。
それがわかってるから俺はリィンにやらせてるんだよ。
俺がニヤついているとアンドロマリウスは心底嫌そうな顔をする。
「やはり、サリエル、お前からだな!お前がいるとやりにくいわ!」
「おいおい、いま二人まとめてでもって言いかけたんじゃないのか?」
「確かに!師匠!確かにあいつそう言いかけてましたよ!」
よしよし。ロバートもイイ感じに腹の立つ言い方をしているな。
「ぐ・・・!」
ふっ、ぐうの音もでないとはこの事だな。
真面目な奴をからかうのは超楽しいぜ!
アンドロマリウスは怒りを抑えているのがまるわかりの態度で俺に語りかけてくる。
「サリエル。言っておくがお前の一番の能力は俺には通用しないぞ」
確かにそうだろう。俺の能力のキモである『認識操作』は範囲こそ広いが格下の相手にしか通用しない。
アンドロマリウスは同格以上の相手だ。『認識操作』をかけたところでなんの影響も受けないだろう。
通用する相手には100%の効果を発揮するが通用しない相手には全く効果がない。
これが俺の能力の弱いところだよな。
「アンドロマリウス、お前に俺の能力は使わねえよ。この剣で十分だ」
「剣だと?お前の本来の武器は大鎌だろう」
そう、アンドロマリウスの言うように俺の本来の武器は大鎌だ。だが、接近戦での取り回しが悪いし、どうせまともに戦ったら大鎌を使ったところでアンドロマリウスに勝てるわけがないのだ。
俺はあくまで魔法主体だからな。肉体野郎のアンドロマリウスと接近戦でまともに戦えないので武器は何を使っても正直なところ大差ない。
まあ、バランスの良さで剣という武器を選んだだけだ。
「言っただろう。この剣で十分だとな」
「後悔するっ・・・なよ」
ちなみにこの間にもリィンが10回以上、聖なる封印をかけつづけていてそのたびにアンドロマリウスは「うっ」だの「おっ」だの言っていたが、今の「後悔するなよ」も途中に聖なる封印がかけられたからあんな言い方になっている。
「前置きはいい。かかってこい」
「・・・参る!」
怒りに任せてアンドロマリウスが俺に向かって踏み出した瞬間
「おわっ!」
その踏み出した右足の下の床が一瞬にして崩れ去る。そしてその上の天井も壊れてガレキがアンドロマリウスの上に降り積もる。
「な、なんだ・・・?!」
片足を床につっこんだままアンドロマリウスはなにがなんだかわからない顔をしている。
「トラップか?!せこいマネを!」
アンドロマリウスは体勢を立て直すとトラップ感知の魔法を使っている。こいつは一通りの魔法が使えるんだよな、肉体派のくせに。
また無駄な事してんなあ。
「どうやらもうないようなだ。では、あためて・・・参る!・・・おわっ!」
またしてもその踏み出した床が壊れて、天井のガレキが雨のように降っている。
「あーはっはっは。いい格好だな。アンドロマリウス!」
すっかり風通しの良くなったダンスホールに俺の高笑いが響いていたのだった。