聖なる力
「これだから聖なる力のある場所に魔王軍は神経質になるのよね」
魔王軍でも最強クラスの一人だったジャンヌが言うと説得力があるな。
「でも、どうして聖なる力の場所は存在するのでしょうか。しかも、それまでそうでなかった場所に急にできたりすることもありますよね」
リリスの言う通り聖なる力の場所に急になることがある。それこそ魔王軍が侵攻している最中に聖なる力の場所になってそれまで圧倒的に攻め込んでいたのに敗退したことがあるくらいだ。
「知らないわよ。だけど、聖なる力の場所や聖人や聖女がいなければとっくに人間なんて絶滅しているでしょうね。たぶん、そういうことよ」
ジャンヌの言うことはもっともだ。
超上位魔族と人間との力の差は明らかなのだ。
以前、アンドロマリウスがたった一人で都市国家を制圧したように、人間どもが束になってかかっても超上位魔族にとってはものの数ではない。
これほどの力の差があるのだ。普通に考えたら確かに人間は絶滅していてもおかしくない。
だが、現実には人間は絶滅していない。
「神か何かかが人間を守るためにそうしているっていうのか」
「どうかしらね。神なんてものよりももっと意地悪な存在かもよ。人間を生かさず殺さずしているんですもの」
「まあ、人間を守るためならそこらじゅうを聖なる力の場所にすればいいわけだしな」
「今となってはそれもダメでしょ?あんたみたいなイレギュラーができたらね。間違いなくあんたは聖なる力の場所の中にいたらこの世界で最強だわ。何しろ超上位魔族でありながらその影響を受けないんですもの。あんた以外の超上位魔族が衰弱する中でそのままの力を保てるなら無敵よ、無敵」
「だが、ジャンヌの無限奪魂扇では力を吸われたぞ」
「あの城の中だったらあたしがあんたの力を吸収しきる前にあたしが弱って死ぬ方が先よ。あの時は城から逃げたから助かったんだからね」
負けず嫌いのこいつがこんなに弱気な事を言うとはね。どうやら真実らしいな。
「聖なる力の場所ってのはそんなにヤバかったんだな」
「そうよ。何度も言っているように魔王軍にとっては大事な情報なのよ。それを隠して利用しようとするのは重罪なのよ」
「それをダンタリオンはしようとしている。おそらく自分にとって邪魔な超上位魔族を始末するために」
俺の言葉にジャンヌは頷いている。
「だけど、どうするつもり?あたしは魔王軍を辞めたけど、それでも超上位魔族がみすみすダンタリオンの罠にはまって人間如きに殺されるのを黙ってみているつもりはないわよ」
「そこに関しては俺も同じ気持ちだよ。だが、魔王軍に知らせたところでダンタリオンがあの城が聖なる力のある場所だと知っていたという証拠がないからな。やつは自分は知らなかったで通すだろう。それこそあの城にもぐりこませた部下を全員殺してでもその証拠は消すだろうな」
俺が吐き捨てるように言うと
「ダンタリオン様ならやりかねないですね」
リリスも同調している。
「じゃあ、どうするって言うの?」
ジャンヌは少しイライラしている。・・・間違ってもここであの扇を仰ぐなよ?
「まずはあのインケン野郎の望み通りに『実験』をさせてやるのさ。アンドロマリウスでな」
「あんたそれじゃあ、アンドロマリウスが・・・」
「大丈夫だよ。ちゃんと手は打つさ」
ニヤリと笑う俺にジャンヌはそれ以上何も言わなかった。