リリスの報告
リリスからの手紙は時候の挨拶にはじまり、前回クロス城を訪れた時に体調を崩したことで急に帰ったことの非礼を詫びていた。それからまた会いたいというような内容で特段に変わった事は書かれてない。
表向きは。
だが、これは俺にあてた暗号手紙で解読すると『クロス城南の森で待つ』と書いてあるのだ。
何かわかったのかも知れないな。行ってみる価値はありそうだ。
*
俺はリィンに「俺が戻るまで絶対にクロス城から出るなよ」と言いおいてリリスとの待ち合わせ場所に向かっていた。
下級とはいえ30名以上の魔族が入り込んでいるクロス城にリィンを置いていくのは少々不安だったが、クロス城が魔族を弱体化させる場所ならばそこで聖女であるリィンをどうこうできることはないだろう。
もともとリィンは下級魔族数名程度ならクロス城の外でも十分に相手をできる力があるし、ロバートもいる。
俺がいなくてもなんとかなるだろう。
クロス城から少し離れた森の中にいたリリスは俺の姿を見つけるとさっそく報告してくる。
「あれからあの城の事を調べてみたのですが、かなり強力な聖なる気が満ちている場所でした。しかし、不思議な事に聖なる力があふれている場所なのにダンタリオン様は魔王軍に報告していません。絶対に気づいているはずなのに。これは重大な軍律違反ですよ」
リリスは憤りを隠せない様子だ。
やはり魔王軍には内密にした侵略行為だったか。ばれた時のリスクを背負っても隠すことに利益あるとダンタリオンは考えているようだな。
「それでリリスは魔王軍に報告したのか?」
「いえ、サリエル様の許可を得てから報告するつもりです。サリエル様の行動のお邪魔になってはいけませんので」
うーん、相変わらずリリスは魔王軍<俺なんだな。ちょっと嬉しいぞ。
「きいてみるのだがクロス城の聖なる力は制限があるのか?例えば一定以上の力を持つ魔族には効かないとか」
「それはありえませんよ。どんな強大な力を持っていたとしても聖なる力の影響はうけるはずです。特にあの城のように邪悪な魔気が強ければ強いほど作用するようになっていれば魔気が強すぎるからと言って影響を受けないなんてことはないはずです。たとえそれが大魔王様であってもです」
「それが魔王軍の見解なのか」
「はい。だからこそ魔王軍は聖なる力のある場所を発見した場合には報告させてうかつに近づかないようにしているんです。そして攻略する場合は魔将が単独では動かないで魔王軍の本隊が綿密に計画を練ってしているのです」
「だが、俺はクロス城にいても気分が悪くなったり、力が抜けるような感じはないんだよ」
「それがおかしいんですよね。どうなっているんでしょうか」
リリスは可愛らしく首をかしげている。しっかりしているように見えてこういうところは相変わらず子供みたいなやつだ。
「俺が魔族じゃないってことはないんだろうな」
俺は今まで不安に思っていたが口にしていなかったことを思い切ってきいてみるが、リリスの反応はあっさりしたものだった。
「それはないと思いますけど、一応調べてみましょうか。幸いと言ってはおかしいですけど今のサリエル様は魔王軍のおたずね者ですから情報はでています」
そう言ってリリスは手に持った魔道具を操って俺の情報を調べる。
「ありましたね。サリエル。推定2000歳以上。父母不明。魔法主体の戦いを得意としており特に精神に作用する魔法の効果範囲においては全魔王軍の中で最大である。魔王軍から脱走した罪によりおたずね者になる。魔族としての種族は・・・ここが重要ですね。堕天種。うーん、種族が判明している以上間違いなく魔族ですよ。堕天種はレアですけど立派な魔族ですからね。当然聖なる力の影響も受けます」
「その情報に間違いはないんだろうな」
「ないですよ。だってはっきりとわからないことはちゃんと推定とか、不明って書いてありますからね。情報局が断定している事に間違いはないはずですよ」
リリスは魔王軍情報局に所属する誇りがあるのかその情報に絶対の自信をもっているようだ。
「私がわかるのはここまでですけど・・・」
「ここからはあたしが説明してあげるわ!」
「ジャンヌ!いつからここに!」
こいついつも急に現れるな!しかもだいたい嫌なタイミングだ。
「初めからここにおられましたよ。いいタイミングで出てくるために隠れられていたのです。わたしがサリエル様に会いに行くとわかったら無理やりついてこられたのです」
困ったように言うリリスに
「そう言うことよ!観念しなさい!」
ジャンヌは嬉しそうに語り始めるのだった。