リリスからの手紙
クロス城内はちょっとした騒ぎになっていた。
「師匠も感じましたか!あの不思議な疲労感!私が考えるにこの城には何かおかしな事が起こっているのです!どうですかこのするどい推理は!」
それは推理なのか?
ロバートは今日も元気にバカだがやはり俺やリィンが力が抜けたように感じた時に同じ感覚を味わっていたらしいな。
キョウドウも訪ねてみる。
「お前も感じたようだな。わしも百年生きているがあんなおかしなことは初めてじゃ。あやうく召されるところだったわい」
そうか。惜しかったな。リィンがさぞかし残念がるだろう。
反応がおかしかったのはノインだ。
「私は何も感じませんでしたね。気のせいではないですか?」
嘘つけ。あの後に俺が存在を消してお前ら魔族の話し合いを盗み聞ぎしている時には全員動揺して話し合っていただろう。
自分たち下級魔族にも聖なる力が強く働いたのではないか?とな。
だからこそ魔族たちは疲労感など感じなかったと主張するわけだ。
この城の聖なる力に影響されたとなれば自分たちが魔族だと言うようなものだと思っているのだろう。
しかし、実際に今回の異常事態に影響されたのは城に入り込んでいる魔族だけでなく、人間も含めて全てだ。
だから、この事態の原因は聖なる力に関係ないかも知れないのにこの城に聖なる力があることを知っているがために魔族たちの反応は不自然なものになったしまったわけだ。
もっとも混乱は長く続かなかった。
どうやら城に入り込んでいる魔族たちが騒ぎを収めるために動いた事が大きいようだ。魔族のほとんどは要職を占める位置にいるから噂を操作するのは難しくなかったのだ。
奴らからしてもこの事態は想定外だったが、この城が騒ぎになって目立つのは嫌なのだろう。
しかし、この異常事態の原因がわからないおかげでアンドロマリウスを使った『実験』の日程は延びたようだ。
とりあえず猶予はできたが、どうするかな。
そんな風に悩んでいる俺にリリスからの手紙が届くのだった。




