異変
部屋に戻ったリィンは深刻な顔で考え込んでいる。
「大変な事になりましたね。まさか十二魔将がこの城に攻めてくることなるなんて・・・」
そうだろう。アンドロマリウスが攻めてくるのは俺も想定外だ。
もともとノインが魔族であることを信じようとしなかったリィンに証明するために存在を『認識操作』で消してノインの話を盗み聞きしていたのだが、まさか魔族たちが聖なる力に満ちたこの城で上位魔族を倒すための実験をしようとしているとは思わなかった。
しかも、その実験に使われるのがアンドロマリウスというのだから驚きだ。
ダンタリオンはもしかして初めからこの実験に使うためにアンドロマリウスを部下にしたのかもしれないな。
あのインケン野郎ならそのくらいの事はやりかねない。
「正確には元十二魔将だけどな。今は魔将は八人になっており八魔将なんだが、そいつはその際に魔将から外されている。もっとも、魔将からは外されはいるが、その力は残った八魔将よりも強力なくらいだ」
「リエル様は魔族の事情に詳しいですね。確か魔族たちは元魔将の名前をアンドロマリウスと言っていましたが、どのような魔族か知っているんですね?」
「ああ。やつらが言っていたように魔将の中でもトップクラスの実力を持っている。戦闘スタイルは肉弾戦に長けていて、身体的にも防御力が高いのでどんな達人でも普通の武器ではまず傷をつける事すらできないだろうな。魔法は特別得意なものはないが、まんべんなく使えるな。魔法に対する耐性はあらゆるものに強いから有効な魔法もない。弱点はないな。以前、都市国家テーベがたった一人の魔族に制圧された事があっただろう。おそらくそれをしたのはアンドロマリウスだよ」
そう、アンドロマリウスは間違いなく魔王軍でも強さで言えばかなり上位に位置する魔族だ。
「そんな強力な魔族がこのクロスに攻めて来たらどうしたらいいのでしょうか」
「リィンが出れば問題ないだろう。魔族たちが言っていただろう。この城では聖なる力が働いているから高位の魔族になればなるほど力が削がれるらしい。この城の外ではリィンが50人いても全く歯が立たないだろうが、この城で力を抑えられた状態ならリィンの聖女としての力なら通用するだろう」
おそらくこの城にもぐりこんだ魔族たちもそうするつもりではないだろうか。いくらアンドロマリウスが弱体化したといっても下級魔族からしたら正面から戦いたくはない相手のはずだ。
この国の人間、リィンやロバートを使ってアンドロマリウスを倒せれば上位魔族がこの城で弱体化するかどうかの実験は十分成功だろうからな。
「リエル様が戦ってくださるわけにはいかないんですか?」
リィンが遠慮がちにきいていくる。
問題はそこだ。俺は正直この城で力を抑えれたり、気分が悪くなったりしていないが魔族である以上弱体しているはずだ。
もともと俺とアンドロマリウスでは戦闘スタイルこそ違うがアンドロマリウスの方が少し強いくらいだったのだ。魔族としての格は同格なので同じように弱体化していては俺が勝てる保証はない。
「魔族が相手なら俺よりも聖女であるリィンが戦う方が有効だろう。特にこの城が戦いの舞台ならなおさらだ。それにここはリィンの国だろ」
「そうですか。そうですね。私はこの国の王女ですからね」
自分に言い聞かすようにしているリィンの顔色は悪い。強大な魔族との戦いになることに緊張しているのだろう。
「もちろん俺も手伝うつもりだ。だが主体になるのはリィンだ」
と言ったもののなんだか、俺も疲れてきたな。身体の力が抜けてきた感じがする。
もしかしてこの城の聖なる力の効果が今更ながらに俺にも効いてきたのか?
「ありがとう・・・ございます」
「おいっ!リィン!」
ぐったりしたリィンを支えながら俺も次第に力が抜けてきているのをはっきり感じる。
俺が力が抜けるのはわかるがなんでリィンまで弱っているんだ。
この城に何が起こっている?!
「・・・大丈夫です」
「大丈夫なわけ・・・あれ・・・?」
急になんともなくなった。
いったい今のはなんだったんだ。
俺は不気味なものを感じながらもなんとなくリィンのぬくもりを楽しんでいたのだった。