魔族たち①
俺がリィンにかけた『認識操作』を解いたあとも、ノインはしきりに俺を悪者扱いしていた。
ノインの話をまとめると俺はリィンにつく悪い虫なので強くなったロバートに退治して欲しいとの事だ。さすがにロバートがそれにのってくる様子はなかったがノインの目的はハッキリしている。
ノインは魔族にとって邪魔者になっていきている俺をロバートを使って排除したいのだろう。
ただ、残念な事にこのバカはそう簡単なバカではない。
遠回しに俺を倒せと言っているノインの言葉を理解できていない。
単純に俺が悪口を言われているくらいにしか思っていないのだ。
「確かに師匠はむっつりスケベなところがあるな。女のノインからも見てもそう思うか」
と調子にのって一緒に俺の悪口を楽しそうに言ってやがる。
後でおぼえてろよ、バカ弟子。
「だが、俺と師匠を戦わせようとしても無駄だぞ。俺は師匠には勝てないし、なにより師匠に刃を向けることなどできない。それ以上ざれごとを言うならばお前を殺すことになるぞ」
あれ?バカ弟子・・・。なんかお前いい事いうじゃないか。
師匠としてちょっと嬉しく思うぞ。
ていうかノインの言葉の真意に気づいていたんだな。
すまんな。案外バカではないようだな。
「わ、わかりました。今のは冗談です。失礼します!」
ロバートの意外とするどい視線ににらまれてノインはすごすごと去っていく。
さーて、どこに行くか追いかけるとするかな。
「リィン、ノインを追うぞ」
俺はいつまでもショックを受けている聖女様を連れてノインを追跡する。
*
ノインの行きついたのはクロス城の中でも比較的目立たない武器庫だ。
そこには十数名の魔族が集まって会合をしていた。
存在を消したままの俺とリィンがいることに気付かずにわかりやすくこの城の現状を解説してくれている。
「もともとお前があの時失敗していなければこんな事にならなかったのだぞ」
「仕方ないでしょ。まさかアーマードグリズリーがあんなにあっさりとやられるとはおもわなかったのよ。おかげで聖女を私たちのものにする計画がおじゃんになってしまった。私だって頭にきているのよ」
ノインが苦々しく言うと、
「もしかしてあいつ人間じゃないんじゃないのか?そうでなければ即死魔法などの異常な力は説明がつかないぞ」
一人の魔族がそんな事を言い出してる。
なかなかするどいな。まあ、俺が人間じゃないと思っても魔族だと言えないのは俺の『認識操作』がしっかり効いているからだけどな。
「人間じゃないって、魔族とでもいうの?それはないでしょ。この城は高位の魔族ほど力を削がれるでしょ。以前、ダンタリオン様の使いで中級魔族が来た時もものの1時間もしないうちにすっかり弱っていたじゃない。即死魔法なんていう強力な魔法が使えるほど強い魔族がこの城に滞在し続けるなんてできるわけがないでしょ」
ノインの説明に魔族たちは「それもそうだな」と納得している。
なんかすまんな。滞在し続けているけどなんともないぞ。
だが、リリスの言っていたようにこの城はやはり魔族にとっては居心地の悪い場所のようだな。
なぜか平気だが。
「ノインの言う通りだ。なぜダンタリオン様が俺たちをここに派遣したのか忘れたのか。魔族としての能力が低い俺たちだからこそこの城で働けるのではないか。この城にいれば俺たちは上位魔族ともやりあえるはずだ」
「そうだ。それこそがこの城に我らが派遣された理由なのだ。ダンタリオン様は今まで上位魔族にないがしろにされていた我ら下級魔族に花咲く場所を与えて下さったのだ」
「上位魔族がなにするものぞ!俺たちがここでは最強なのだ!ダンタリオン様万歳!」
魔族たちは口々に気勢を上げているが、ダンタリオンはそんな甘い奴じゃないぞ。
あのインケン野郎が下級魔族を気にかけているとでも思っているのか?
せいぜい都合よく使われてポイ捨てされるのがせきのやまだと思うがね。