騎士団長ロバート③
ロバートの部屋に俺とリィン、ロバートとノインが集まっていた。
「リエル殿の調査はどこまで進んでいるのかロバート様は知っていますか?」
「ああ。知っているぞ。何と言っても私は師匠の弟子だからな!」
ロバートは高らかに答えるが、ノインは逆に声をひそめる。
「ロバート様、あまり大きな声を出さないでください。魔族がこの国にいるかもしれないのですよ?コトがコトですからね」
「ふっ、私とてそれはわかっているさ!だからこそ私は師匠にきたえてもらっているのだからな」
わかっていると言っているがロバートの声のボリュームはちっとも落ちていないな。
うん、こいつは今日も元気にバカだな。
俺が納得しているとリィンが俺に耳打ちしてくる。
「凄いですね。リエル様の『認識操作』は。こんなに近くにいるのに私たちの存在にノインたちは全く気づけないのですね」
リィンがいうようにノインは今ロバートと二人で話をしている気になっている。
「そういうことだ。だから耳打ちしなくても大丈夫だぞ。それこそ大声で歌っていてもこいつらは俺たちを認識する事はできないからな」
リィンは心底驚いたようにふうっとため息をついている。
この程度なら俺にとっては魔力を使っているうちに入らないんだがな。
その気になればこの国全体に俺を王どころか神だと本気で思わせて祈らせることだってできるし、何も着ないのが当たり前!と思わせて裸族にする事だってできるんだ。
そんなことはしないが。
俺がそんな事を考えている間にもロバートたちは話を続けている。
「なんでもクロス王国に入り込んでいる魔族は一人じゃないらしい。かなりの数の魔族がいるらしいのだ」
「そうなんですか!?それで誰が魔族かわかっているのですか?」
そう聞いているノインの声は緊張している。
そうだろうなあ。そこがお前にとっては大事なところだからな。
「それがまだよくわからないらしい」
「そうですか。しかし、そんなに魔族が入り込んでいるなんて恐ろしいですね」
恐ろしいですねといいながらノインは明らかにホッとしている。
「この様子を見る限り間違いないようですね」
リィンが神妙な顔をしている。
「そうだ。ノインは魔族だな」
そう。ノインは魔族だ。これはキョウドウが言っていたのだから間違いないだろう。
俺がノインに連れられてキョウドウに会ったときも「魔気じゃ!邪悪な魔気を感じるぞ!」と言っていたが、あれは俺に向けてのものではなくノインに向けてのものだったのだ。
『認識操作』で俺の事は魔族と思えないのであの場で邪悪な魔気をかんじるとしたらノインしかいないだろう。
俺がリィンにそのことを告げた時は「あのスケベじじい、失礼。キョウドウ様にそんな能力が!?」と驚いていたが、聖なる力に人格が関係ないことを説明すると妙に納得したものだ。
「ロバートがあんなにもペラペラしゃべっているのはリエル様の指示なのですね」
リィンはロバートがノインをのせるために多弁になっていると思っているようだが、ちがうぞ。
「いや、あいつには何も言っていないぞ。あのバカが演技するなんていう脳みそを働かせることなどできるわけがないだろう。あれは素だ」
「え?そうなのですか?」
はあ。とリィンはまたため息をついている。
今度のため息は心底あきれたものだ。
頑張れ!使えない部下でも頑張って使うのが上司の務めだぞ。
俺も昔はそうだったなあ。
俺が心の中でリィンにエールを送っていると
「ところでリィン様とリエル様はどうなんだろうな?」
「どう?とは・・・」
「またまた~ノインもわかっているだろう」
うむ。だいぶ関係ない方向に話がそれてきたな。
バカだから演技ができないと思って指示を与えてなかったが、自然に行動させるとこういう脱線がでてくるな。
「リィン、そろそろ帰るか?」
「いえ、もう少し聞いていきましょう!もう少し!」
なんだかリィンに面倒くさいスイッチがはいっているようだった。