調査結果
俺がおっかなびっくりしながらロバートの部下に案内されると、そこにいたのは少し浮かない顔をしたリリスだった。
ああ、こっちか。確かに美人だな。淫魔だし魅力的な身体もしているからな。
「リリス、よく来てくれたな」
もう一人の美人ではなくて俺は思わずホッとした声を出していた。
「リエル様。ここではそれでよろしかったですね」
「そういう言い方はよせよ」
からかうような目で見てくるリリスに俺は苦笑する。
「例の件の報告に来たのですが・・・」
リリスが俺についてきていたロバートやその部下を遠慮がちに見ていると、
「師匠。私の部屋をお使いください!遠慮はいりません!私は稽古場で待機していましょう!」
とロバートが気をきかせてくれる。
こいつ、変な想像してないだろうな?ロバートの親切に少し俺は疑いを持つが、他に当てもないので結局はその好意にあまえさせてもらう事にした。
*
俺はロバートの部屋につくと早速リリスに尋ねる。
「それでリリス、いったい誰があのインケン野郎の部下だったんだ?」
「それがですね・・・」
リリスは何やら言いにくそうにしている。
「わからなかったのか?それならそれでいいんだぞ」
「いえ、違うんです。ただ、まだ全員が把握できてなくて・・・」
「クロス王国にもぐりこんだ奴の部下は一人じゃないのか?まあ、いい。わかっただけでも教えてくれ」
なるほど。数人の部下を分けて送り込んでいるわけだな。
一人が魔族だと露見しても計画が進むようにしているのか。
・・・なかなか手が込んだことをしているな。
「わかりました。一応私が調べただけでも37人ほどいまして・・・」
「37!?」
俺が思わず甲高い声を上げるがリリスは構わず続けていく。
「はい。副大臣ワーナー、副司教ラガルテ、バレーテ侯爵、近衛騎士マーク・・・」
リリスは一人一人役職をつけながら名前を挙げていくが、俺は正直あんまり頭に入っていない。
ていうか37人ってなんなんだよ!?
多いにもほどがあるぞ?
それこそクロス王国の主要な役職の3分の1は魔族にとって代わられている事になるじゃないか。
もう、この段階なら聖女暗殺の陰謀とかすすめなくて普通に裏から国を牛耳ればいいんじゃないのか?
部下を標的になる国の大臣とかとすり替えるなんて古臭い手だと言ったが、ここまで大量の部下を潜り込ませてたら逆に新しいわ!
悪かったわ!古臭い手とか言って!斬新だよ!37人て!
俺が心の中でダンタリオンに突っ込んでいることも知らずにリリスは冷静に話し続けていた。
「ちなみに潜り込ませた魔族はほとんど下級魔族ですね。中級以上のクラスの魔族はいませんね」
「ううん。質より数と言うわけか」
リリスの説明に俺は思わずうなる。
普通、人間どもの城を混乱させる目的で魔族を送り込む場合は単独での戦闘力が高い上級魔族を大臣や継母など身分の高い人間に化けさせて送り込むもんだ。
もし、すり替わっているのがバレても上級魔族なら大勢の人間ども相手に単独で戦えるから力で制圧できる可能性がある。
しかし、今回インケン野郎がやっているのは弱い魔族を大量に使うことで、仮に一人や二人露見して人間に倒されても、その他の魔族はそのままスパイとして活動することができるというわけだ。
あの野郎案外うまい部下の使い方をするな・・・。
俺が感心しているとリリスは少ししんどそうにしている。
三日でこれだけ調べ上げたのだ。無理して休まず調べてくれたのかもな。
「悪かったな。これだけ調べるのは大変だっただろう」
俺のねぎらいの言葉にリリスは首を振る。
「いえ、調べるのはそうでもなかったのですが、この場所に長居すると私にはつらいですね」
「どういうことだ?」
「この城は聖なる気に満ちていますから、私の様な上位魔族にはとても居心地が悪いのです。リエル様はなんともないのですか?」
「うーん、よくわからんな」
正直俺はこの城でなにか変な感じを受けたことはない。昔から俺は魔族のくせに聖なる気に疎いのだ。
「おそらくダンタリオン様が下級魔族ばかりをこの城にもぐりこませているのも、この城の聖なる気の影響を受けやすい力のある魔族を外した結果じゃないでしょうか」
なるほど。強力な魔族ほど聖なる気に弱いからな。その上聖女がいたのでは魔族にとってやりにくい事この上ないよな。
しかし、聖なる気を発している城に聖女か・・・。
こういう特殊な場所への侵攻は魔王軍でも魔将の一存では許されていないはずだ。思わぬ奇跡が起きてしっぺ返しをくらう事があるからな。
それを複数の魔族を送りこんでゆっくりと内部から侵食している。
一気に破壊しないでその力を丸ごと手に入れようとしているかのようだ。
いったいダンタリオンのやつは何を考えている?
俺はダンタリオンの真意に不気味なものを感じ始めていた。