鍛える
俺は魔王城からクロス城に戻ってくると、魔族を探すことなく相変わらずロバートに稽古をつけていた。
魔王軍情報局にいるリリスに魔族の探索を依頼した以上俺が探る必要はないだろう。俺が知恵を絞って魔族を探すよりも確実だ。それに楽だしな。
一応言っておくが俺とて伊達や酔狂でロバートに稽古をつけているわけではない。
もちろんただの暇つぶしでもない。
こいつを強くしておけばいずれしなくてはいけないダンタリオンの部下との戦いで役に立つと踏んだからだ。
何しろこいつはこの地域ではS級冒険者だった男だ。
このあたりの魔族にはそれなりに通用していたはずなので、鍛えれば十分戦力になるだろう。
もちろんダンタリオンの部下程度が束になったところで俺一人でおつりがでるほど十分だが(アンドロマリウスは除く)、俺が倒すよりも人間の手によって倒された方がダンタリオンも慎重になるだろう。
わざわざこちらの手の内を明かすことはないからな。
そんなわけで今日もロバートと楽しくお稽古中だ。
「師匠!私は強くなっているでしょうか?」
「強くなっているぞ。だが、増長してはいけないぞ。まだまだ強くなれるはずだ!」
「そうですか!ありがとうございます!」
うーん、俺のいた地域でのA級上位くらいか?やはりA級クラスになるとなかなかあがりにくいな。
もともとがB級下位程度の実力しかなかったことを考えればかなりの成長なのだが、まだ物足りない。
この地域の魔族の程度は低いから今のロバートでもたいていの魔族なら倒せるだろうが、もう少し強くしておきたいところだ。
「ところで・・・」
休憩中にロバートが妙に含みを持った笑顔で話しかけてくる。
俺は嫌な予感がする。
こういう言い方をしてくる時、このバカはたいていロクでもない事を考えているのだ。
「師匠はリィン様と恋仲なのでしょう?」
「はあ?なんでそうなっているんだ」
ロクでもない事だったな。
「隠さなくてもよいですよ。リィン様は確かに可愛らしい方ですからね。師匠もかなりの美少年ですからお似合いですよ」
ロバートはニヤニヤしながら俺を肘でつついてくる。
2000歳を超えて美少年と言われるとは思わなかったな。
人間の基準では綺麗な顔の部類の入るのだろうけどな。
「騎士団長がそんな事言っていいのか?自国の姫の相手だぞ?」
「師匠ほど桁外れに強ければなんの問題ないですよ。それこそ王になればクロスに敵はなくなるでしょう」
強ければいいって、本当に発想が子供だな。
こいつはやたらと最強とかいう言葉が好きだし、無敵とか、チートとかも大好きだ。
だが、上には上がいるんだぜ?
無意識にあおいでるだけで上位魔族を殺しかけるヤツとかな。
そういえばあいつ俺が魔王城から戻るときに「困ったらあたしに言いなさいよ。気が向いたら助けてあげるから」って言ってたな。
ジャンヌは好意でそう言ってくれたのだろうが、大魔王様の娘なんぞが降臨した日にはそれこそクロス王国どころか周辺の国を巻き込んだ大事になってしまうだろう。
ダンタリオンの支配地域を根こそぎ奪いかねないからな。
マジで。
俺がそんな物騒な事を考えていると、ロバートの部下が俺に声をかけてくる。
「リエル殿に面会に来られた方がいらっしゃいます。おキレイな方ですよ」
後半部分は報告としているのか?これだからロバートの部下は・・・。
俺はロバートをひとにらみするが、
「リィン様だけでなくて他にいるとは、師匠もすみに置けないですね!」
ロバートははやし立てるよう言っている。この上司にしてこの部下ありだ。
二人の反応とは裏腹にキレイな方と聞いてあんまりいい予感がしないのだった。