ジャンヌの扇
「それでおたずね者のあんたはこんなところで何してるのよ?まさか、あたしに会いに来たってわけじゃないでしょう?」
こいつリリスと同じような事を言うんだな。
だが、ジャンヌには部下たちの事も世話になっているし、魔王軍を辞めたっていうなら話してもいいかもな。
俺はジャンヌにリィンを助ける事になった話を手短に話す。
ジャンヌはときおり相づちを打ちながら聞いていたが、やがて呆れたように肩をすくめて、
「簡単に言うと、偶然転移した先にいた人間の国がダンタリオンの手先に侵略されそうだったから助けてるって事?ダンタリオンが嫌いだから?」
なんか簡単に言われるとずいぶん浅い理由に聞こえるな。
「まあ、そうだな」
「あんたってそんなにダンタリオンが嫌いだったの?」
「嫌いだね。でも、それが理由と言うよりも今となっては成り行きでそうなった感じだな」
俺が正直に言うと
「・・・あきれた」
ジャンヌは今度は声にだしてくる。
悪かったな。俺だって改めて浅い理由だと思っていたところだよ。
「それで人間の国に肩入れして人間の王にでもなるつもり?」
バカにしたように言ってくるジャンヌに俺は少しカチンとする。
「まさか。その程度で満足するなら初めから魔王軍を辞めてないさ」
「それはそうね。あんたならその気になれば人間の国の一つや二つは簡単に奪えるでしょうからね」
ジャンヌは納得しかかるが、やがて思い直したように
「じゃあ、そのリィンとかいう小娘のためなの?聖女と魔族なんてほめられた取り合わせじゃないわね」
いつも以上に右手に持った扇をばっさばっさとあおぎながら早口で言ってくる。
・・・なんかこいつ怒ってないか?
確かあの扇は魔道具だろ。そんなに勢いよくあおいで大丈夫なんだろうか。
変な効果が出たりしないだろうな。
「どーなのよ!」
おっと余計な事を考えていたらジャンヌがしびれをきらしたようだ。
「いや、別にリィンは関係ないぞ。まあなかなかの美少女だが、リィンのためでもないな。さっきも言ったように成り行きだ。それ以上でもそれ以下でもないぞ」
これなら文句ないだろうと俺は思ったがジャンヌはさらに扇をあおぎだす。
あれ、なんか力が抜けてきたな。頭もボーっとしてきたし・・・。
逆にジャンヌのやつの肌つやは良くなっているようだが・・・。
「へえ~、美少女なんだあ~」
嫌味な声を出すジャンヌに俺はますます力が抜けていくがなんとか答える。
「そうだが、ジャンヌの方が美人だぞ。スタイルもいいし」
「え?そうなの?」
ようやくジャンヌが扇を止める。
はあ・・・。いったいなんだったんだ。力が抜けすぎて危うく意識を失いかけたぞ。
「ジャンヌ、その扇はなんなんだよ?」
「え?あっ、もしかしてあたしこれをあおいでた?」
「思いっきりあおいでたぞ」
「ごめんごめん。この魔道具はあおぐことで周囲の魔力や生命力を吸収してあたしの力に変えてくれるのよ。時々、無意識にあおいじゃうのよね。しかし、あんたよく無事だったわね。昔、バカ兄をこれで殺しかけたのよ」
おい!シャレにならないぞ!それは!
魔王の息子が死にそうになる魔道具を俺に使うなよ!
「でも、あんたがその様子じゃあ魔王城の中の魔族はほとんど虫の息かもね」
うわー。笑えない。そんなに広範囲に被害をもたらすのかよ。
俺のそんな心の声を無視して、ジャンヌはケラケラと笑うのだった。