再会
俺は魔王城からあと少しで出れるところで声をかけられてハッとする。
「あら、珍しい人がいるのね?」
ゲエッ!ジャンヌかよ!言わずと知れた八魔将の一人で魔王様の娘だ。
魔将は全員出はらっているんじゃなかったのか?!
門番にも聞いたし、リリスも魔道具で確認していたのにどういうことだ?
いま戻ってきたということなのか?
いや、それよりも『俺の事を見ても気にする事は出来ない』の『認識操作』を魔王城全体にかけていても普通に声をかけてきやがって。
わかっていたが自信をなくすぜ。
「なによ、その嫌そうな顔は?」
「いえ、そのような事は・・・。では私はこれで・・・」
俺は強めに『俺の事を気にするな!』と『認識操作』をジャンヌにかけるが、
「なによ。そんな他人行儀な言い方しちゃって。あんた変よ」
全く効いている様子がない。
さすがに大魔王様の娘だけはある。
しかし、まずい奴に見つかったぜ。
ジャンヌは気分屋で自分勝手にしているように見えて魔王軍の命令には忠実だ。
そして俺より強い。逃げることすら難しいくらいにな。
・・・覚悟を決めるか。
「ジャンヌ、どうするつもりだ?」
「どうするって、何が?」
「俺は魔王軍から脱走したおたずね者になってるんだろ?捕まえなくてもいいのかよ」
俺はいつでも戦えるように身構えながら話すが、正直まともにやってもこいつには勝てる気がしない。
他の魔将ならいざ知らず、こいつと最強の魔将バエルにはまず勝てないのが現実だ。
俺の緊張した顔をあざ笑うようにジャンヌは扇で自分を仰ぎながら
「いいのよ。あたし、もう魔王軍じゃないもの」
と言ってのける。
「は?どういうことだ?」
思わず目が点になる。
「どういう事も何も言った通りよ。あたしは魔王軍を辞めたの。だから魔将でもなくなったし、あんたを捕まえる義務なんてないのよ」
「辞めたって・・・なんでだよ!」
こいつ頭おかしいのか?俺があんなになりたがってた魔将をあっさり辞めやがって!
「別にそんなのどうだっていいでしょ。あたしの勝手よ!」
よくないだろ!普通に考えて!
だいたいこいつは大魔王様の娘だぞ?それが魔王軍を辞めるっていう選択肢があること自体おかしいだろ!
昔からこいつはこうなんだよ。ちょっと気に入らない事があるとすぐにこうなんだ。
「なんか言いたい事があるの?あるならハッキリ言いなさいよ!」
いや、だからなんで辞めたのかハッキリきいたのだが・・・。
「もう一度言いなさいって事!まったく、気が利かないんだから・・・」
おいおい、俺の心の声に反応するなよ・・・。
なんでもありだなこいつは。
ジャンヌの無茶苦茶な行動に俺はげんなりしてもう一度言うことにする。
「どうして辞めたんだ?」
「初めからそうすればいいのよ。・・・あたしが魔王軍を辞めたのはそうすれば別の者が魔将になれると思ったからよ」
「そりゃそうだろう。ただでさえ八魔将に減ったんだ。それ以上減る事はないだろうからな」
「黙って聞きなさい!要するに魔将を辞めさせられたうちの誰かが魔将に復帰できるとあたしは思ったの!」
つまり自分の魔将の席を空ければ魔将をクビになった者が戻れると思ったのか。
こいつは初めからこうするつもりだったから俺が部下の再就職を頼んだ時も自分の配下ではなくバエルや大魔王様の直属にしたって事かよ。
「別にあんたのためじゃないんだからね!」
「まあ、俺よりもアンドロマリウスやフルカスのじいさんの方が実力的にふさわしいだろうからな」
俺が他のリストラされた魔将の名前を出すと、
「・・・あんたって本当に自己評価が低いのね。まあいいわ。でも、魔将に選ばれたのはその二人じゃないわよ」
「じゃあ、誰だよ?」
「あんたやフルカスは早まって魔王軍を辞めてたからどうしようもなかったけど、アンドロマリウスが魔将になると思ったのにあのバカ兄はよりにもよってラウムをあたしの後釜にしたのよ」
ラウム。十二魔将から八魔将になった時に辞めさせられた魔将の中で一番役立たずだったやつだ。
なるほど魔軍統括司令様はよっぽどアンドロマリウスが嫌いらしい。
「あんたの事も嫌いみたいよ」
ジャンヌに再び心の声に反応されて俺はやりにくさを感じていたのだった。