大僧正②
「で、お前は誰じゃ?」
なぜか俺の手もしっかり握って大僧正のじいさん、キョウドウが聞いてくる。
「こちらはリエル殿。リィン様が魔物に襲われたのを救ってくれた方なのです」
ノインが紹介するとキョウドウは目を輝かせてお礼を言ってくる。
「ほう、お前が姫様をお救いされたのか。わしからも礼を言おう」
「当然のことをしたまでだ」
「あのオッパイを守ってくれたこと、感謝しているぞ」
おいおい、俺は別にオッパイを守ったわけじゃないぞ。
その言い方はやめろよ。
「リエル殿・・・」
なんかノインまで俺を変態を見る目で見てくるじゃないか。
違うからな!俺はオッパイを守ったわけじゃないぞ!
というかあのバカクマが俺に向かって来たからつい殺しちゃっただけなんだけどな。
「じいさん、俺はそういうつもりじゃねえよ!」
「なかなか、生意気な口の利き方じゃのう。年寄りを敬う気持ちがないのか」
あいにく俺の方が1900ほど年上のはずなんだよ。
俺が黙っているとキョウドウはやれやれと首を振ると、
「しかし、お前がわしに合えたのはお前の人生にとって幸運だったな。なにせわしはあの聖人エンノ様の一番弟子と言われていたのじゃ。それこそわしの様な偉大な者はそうそういないのじゃ」
自分で自分が偉大って言うかね。女好きでオッパイ好きで自分大好きって本当に生臭坊主だな。
こんなのを一番弟子にしてるなら聖人エンノって奴も大したことはないようだな。
エンノ・・・?
そういえばどこかで聞いたことがあるな。
あっ、思い出した!
もしかして小便たれのエンノか?
100年位前に人間の勇者一行が俺の担当していた砦に攻めてきたのだが、なかなか強くて部下では手に余るようだったから俺が自ら相手をして瞬殺してやったんだよな。
ただ、勇者一行の中の神官だけは聖域でかろうじて生きていたからとどめをさそうと思ったんだが・・・。
恥も外聞もなく失禁しながら土下座して謝ってきたのがそういう名前だったと思うがな。
あんまり惨めだったから見逃してやったのだが・・・。
あの小便たれが人間の世界ではそんな偉くなってたのか。
わからんもんだなあ。
「・・・というわけでわしはエンノ様に認められたというわけじゃ」
俺が回想にふけっている間にキョウドウはいろいろ手柄話をしていたらしい。
全然聞いていなかったが。
「キョウドウ様が男性にこれほどお話しされるのは珍しいですね」
ノインが少し驚いたように言うと、キョウドウはニヤリと笑う。
「お前はわしが若い女子が好きだと言っていたがそれは違うぞ。わしは若い女子だけでなく美少年も好きなのじゃ」
大僧正の飛ばしてきたウインクに俺は鳥肌をたてる。
「我は汝に宣・・・」
「ストーップ!リエル殿、ストップ!」
はっ、思わず『死の宣告』を使っちまうところだったぜ。危ない。危ない。
ノインがいなかったら確実に使ってたな。
まあ、使って殺したところで少々魔力を使うが認識操作で『大僧正キョウドウなど初めから存在していなかった』と国中に思い込ませれば騒ぎになることもないんだが、俺はリィンと『死の宣告』は使わないと約束したからな。
俺はだいたい約束を守るのだ。
「リエル殿、気を付けてくださいよ」
「わるい。つい、な」
「そうじゃぞ。リエル。気を付けるんじゃぞ」
俺の手をとって自分のほほに押し付けてすりすりしてくるキョウドウに俺は再び『死の宣告』を使いそうになってノインに必死に止められる。
くそ、こんなことならあのエンノって奴を殺しておけばよかった。
そうすればこんな問題じじいが大僧正になることもなかったかもしれないのにな。
俺は100年前の自分の甘さを今さら後悔するのだった。