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大僧正①

 ノインに案内されながら俺は疑問に思った事を口にする。


 「これから大僧正に会うってことだが、なんで大僧正なんだ?この国の信仰している神なら大神官じゃないのか?」


 うろ覚えの知識だが、確かクロス王国の宗派では神に仕える者は僧官ではなく神官と呼ばれているはずだ。

 聖女と呼ばれているリィンも神官服を着ていたから間違いはないと思う。

 

 「それは今の大僧正様がご自分でお決めになったのです。もともと大神官であられたのですがあることがきっかけで大僧正を名乗ることになったのです」


 「あることってなんだ?」


 「これは聞いた話なのですか神の啓示があったそうです」


 うさんくせえなあ。宗教関係者が神の声を聞いたとか言い出したらだいたいヤバいぞ。一番多いのは魔族にそそのかされているパターンだ。

 俺はその話にがぜん興味が湧いてくる。


 「ちなみにどんな事を神は言ったんだ?」


 この啓示の内容によっては大僧正とやらは魔族の手先の可能性も出てくる。


 「いえ・・・言われたと言うか、そのお示しになったそうで・・・」

 

 ノインは歯切れがわるい。


 「大事な事だぞ。ちゃんと教えてくれ」


 「それが・・・大僧正様の頭頂部が薄くなられて・・・。それが大僧正様の真の姿を示された神の啓示だと」


 確かに人間どもの僧官は神官と違って頭頂部の毛を剃っている。それが宗教的なしきたりだそうだ。

 つまり大僧正とやらは自分がハゲてきたからそれを神の啓示と解釈して神官から僧官を名乗ることになったということか。

 

 うん。魔族がそそのかした線はなさそうだな。


 しかし、自分がハゲてきたのを神の啓示だと強弁する大僧正かあ。

 騎士団長といい、大僧正といい、魔族じゃないにしてもこの国はロクな奴がいないなあ。

 魔族が入り込んでなくても勝手にそのうち滅んでいたんじゃないのか?

 変な配下ばっかりでリィンも大変だな・・・。

 少しばかり同情するぜ。

 

            

              *

 


 クロス城の中心部から少し南に行った位置に案内されると、2体の神像が左右にそびえたっている神殿の門がみえてきた。


 ここが大僧正とやらがいる神殿か。

 城内にあるタイプの神殿としてはなかなか大きいな。

 王女が聖女でもある国なのでそれなりに信仰が厚いのかもしれないな。


 俺がそんな事を考えているとノインはさっさと手続きをしてくれていたようで


 「大僧正キョウドウ様がお会いになられるそうです。こちらへ」


 神官はノインが大僧正に会いたいことを伝えるとあっさり案内してくれる。

 これほど対応がはやい所を考えるとこの女騎士は案外身分が高いのかもしれない。

 どんな世界でも身分は大事だからな。

 

 やがて大僧正がいるという部屋の前にたどり着く。


 「こちらです。どうぞお入りください」


 ノインが神官に促されて扉を開くと、


 「魔気じゃ!邪悪な魔気を感じるぞ!」


 俺たち部屋にが入るなりでっかい豪華な椅子に座った偉そうなじいさんがそう叫びだす。


 まさか、俺が魔族だとわかったのか?

 俺の認識操作は完ぺきなはずだ。

 普通の人間ごときが認識操作から逃れて俺を魔族だと思えるはずがないのだが、大僧正とやらはそれほどの力があるのか?!

 こいつは油断できないのかもな。

 

 「魔気じゃー!魔気なんじゃー!」


 じいさんはそのしぼんだ身体のどこからそんな声が出るのかわからないような大声で叫び続けるが、その様子をノインはあきれたように見ながら俺に耳打ちしてくる。


 「最近の大僧正様はいつもこうなのです。会う人会う人に誰から構わず『魔気じゃ!邪悪な魔気を感じるんじゃー』と言われているのです」


 ・・・なるほど。だいぶモウロクしているようだな。


 「それじゃあ、リィンが言っていた最近様子がおかしいと言うのは・・・」


 「おそらく加齢によるものだと思われます。何と言っても御年103歳のお方ですから」


 103歳か。人間にしては長生きだな。魔族だったらほんの子供の年齢だが。

 

 「大僧正キョウドウ様。ノインでございます。お久しぶりでございます」


 「ノイン!お主・・・ノインか!」

 

 大僧正は糸のように細くなっていた両眼をくわっと開くとノインの手を取って「ノイン!ノイン!」と何度も繰り返している。


 「ずいぶん仲が良いのだな?」


 「大僧正様は若い女子が好きなのです」


 ずいぶん生臭坊主なんだな。ノインが気が乗らないわけだ。俺があきれた目でみていると


 「お主は・・・!ノインではない?」

 

 うん。俺はノインではないな。

 ていうかノインが二人いたらおかしいだろ。


 大丈夫かな?このじいさん。


 俺はそこはかとなく不安を感じていた。

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