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姫の帰還

 森を抜けて街道をしばらく歩いた先にクロス城の城下町の門が見えてきたとき、リィンが俺に話しかけてくる。


 「王宮に戻る前に一つリエル様にお願いしておきたいことがあるのです」


 「お願い?」


 「はい。助けて頂いておいて言いにくいのですが、私の国では『死の宣告』が使えることは黙っていてほしいのです。私の国の教義では『死の宣告』は邪悪な魔法として扱われているのです」


 「まあそうだろうな。確かにいい魔法とは言い難いからな。わかった、黙っておこう」


 「ありがとうございます」


 もともと拷問用に開発されている魔法だからいい印象はないだろう。

 特に聖女がいるような国なら邪悪なものに対してうるさそうだな。

 

 もし、俺が魔族だとわかるとさすがに問答無用で追い出されるだろう。

 まあそれに関してたいていの人間の国ではそうだろうがな。

 魔族の人間に対する拒絶反応より、人間の魔族に対する拒絶反応の方がはるかに大きいからな。

 

 そうだな・・・。

 念のため『認識操作』をしておくか。

 俺の事を怪しい奴だと疑うことはできても、魔族だとは思えないようにしておこう。


 範囲は・・・クロス城含めた城下町全体だ。


 俺の『認識操作』は個別にかけるだけでなく範囲を設定してかけることができる。その範囲の者は全て俺の指定した『認識操作』の影響を受けることになる。

 ちなみに最大で中規模の国なら丸ごと入るくらいの範囲を設定することができるのだ。

 多少魔力は使うが個別設定するのは面倒だからな。


 「それではリエル様。くれぐれもよろしくお願いいたします」


 「ああ。任せておけ」


 俺は約束は守る方だ。

 たとえ遊び気分でもな。



                 *



 クロス城に俺たちがたどり着いたら大騒ぎになっていた。20人以上で巡礼に出かけた姫が女騎士と胡散臭い冒険者(俺の事だ)とたった三人で帰ってきたからだ。


 リィンがことの顛末を説明して、俺は一応姫の命の恩人として扱われることになったが、すぐにリィンとは離ればなれになってしまう。

 リィンは父王へ帰還の挨拶に向かうとの事だったが、俺のような者はお目通りが敵わないってことらしい。

 その代わりにノインと共に一室に通されて「しばらくお休みください」と例のお茶が出てくる始末だ。

 ノインはそのお茶と飲みたそうにしていたが、俺の視線が気になって飲めないらしい。


 いいんだせ?バカになっていいなら飲んでも?


 俺の言いたいことに気づいたのか渋い顔で飲むのを我慢している。

 

 だいぶ症状がすすんでるなあ。


 俺がそんな事を思っていると高そうな鎧に身を固めた騎士が部下を引き連れて部屋に入ってくる。


 「私はロバート。クロス王国騎士団団長だ。貴殿はアーマードグリズリーをお一人で倒されたようだがどのようにして倒されたのかな?後学のためにお聞かせいただきたい」


 お聞かせいただきたいときたか。なんかキザな野郎だぜ。

 人間にしては美形の部類に入るが、あのインケン野郎にどことなく似ている気もする。


 さて、倒した方法か。確か『死の宣告』を使えることは黙っていて欲しいとリィンが言っていたな。


 「剣で倒した。他に質問はあるか?」


 「ほう?剣で倒されたと?それはスゴイですな。しかし、それにしては剣を持っていないようですが?」


 俺を値踏みするように言ってくる。この嫌味な言い方もダンタリオンっぽいな。こいつがあいつの部下の魔族か?


 「アーマードグリズリーの装甲を削った時に折れたからな。捨ててきたのだ」


 「剣は捨ててきたと?」

 

 「折れた剣は役に立たないだろ?存在するだけで国を守れない騎士団と同じだな」


 俺が馬鹿にするようにいうとロバートは少し考えていたが、やがてその意味に気づいたようだ。


 「どーいう意味だ!」


 ようやく怒り出す。血のめぐりの悪い野郎だぜ。


 「姫の危機は救えない、国の危機も見えていない。なんの役にもたっていないじゃないか」


 「き、貴様~!!」


 はははっ。面白いように怒ってるな。もう少し怒らせてみるかな。

 俺がそう思ってさらに言いつのろうとすると、


 「リ、リエル殿」


 ノインが俺を止めるように袖を引っ張ってくる。せっかくいいところなのに邪魔しないで欲しいな。俺はノインを無視して続ける。


 「折れた剣は捨ててしまえばそれで済むが、役に立たない騎士団は捨てるわけにもいけないから無駄飯食うだけ余計にたちが悪いな」


 「おのれ~!そこまで言われるならさぞ貴様は役に立つのだろうな?」

 

 「現に剣で姫を守っただろう」


 俺のその言葉をまってましたとばかりにロバートは


 「ではその素晴らしい剣技でぜひ私に稽古をつけて頂きたい!嫌とは言わせませんぞ?」


 どや顔で言ってくる。

 どや顔はけっこうだが、俺の思い通りになっているんだぜ?

 

 「いいだろう」


 俺が不敵な笑みを浮かべてロバートに答えてやるとロバートは少したじろいで

 

 「では、少し休まれたら稽古場に来られよ!場所はそこのノインが知っているからな!」


 肩をいからせて部下と共に去っていく。


 ロバートたちが立ち去ったのを確認してノインが咎めるように俺に言ってくる。


 「リエル殿!」


 「なんだ?」


 「ロバート殿は騎士団長になられる以前は武者修行に出られていてS級の冒険者だったのですよ。しかも魔法は使えないので剣技だけでS級に認定されていたのです。おそらく剣技だけで言えばこの国で一番の使い手ですよ」


 「そうか。S級か。それは楽しみだな」


 俺がニヤニヤしているとノインは意外そうに、


 「リエル殿は剣に自信があるのですか?」


 「いや、剣はあんまり得意ではないな」


 俺はもともと魔法主体の戦いが得意なのだ。

 それに愛用の武器は大鎌だし、剣は昔ちょっと習ったくらいでほとんど使ったことはない。


 「では、なぜロバート殿を挑発するようなまねをしたのです!あれではロバート殿が怒るのも仕方ありませんよ?」


 「俺はこの国に入り込んだ魔族を探すために来たが、地道にやるのは面倒だからな。魔族の方から俺に接触してくるようにしているだけさ。魔族からしたらアーマードグリズリーを倒して姫を助けた俺がこの国に滞在するのは目障りなはずだからな。こうやって俺に突っかかって来るやつを挑発して見定めてやろうと思ったのさ」


 「しかし、いくら稽古と言っていてもあれだけ怒らせたら殺されかねませんよ」


 「なんだ?心配してくれるのか?」


 「あなたを殺されでもしたら私が姫様に叱られますから」


 なんだ。つまらん理由だな。


 「大丈夫だ。勝つからな」


 俺はあっさりと言うのだった。

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