十二魔将任命!
「サリエル様!ばんざーい!十二魔将、ばんざーい!」
部下たちの歓声がこだまする中で俺は感極まっていた。
長かった。本当に長かった。魔族として生を受けて二千年。下級魔族として生まれ、ろくな魔力もなく、人間どもに追いまわされた日々。
魔族として経験をある程度積んで魔王軍に正規に雇われてからは強大な魔力を持った上司にこびへつらい、理不尽な要求にも笑顔で答えながら頑張った。
ちょっと出世して少ないながらも部下ができてからは、部下の失敗の尻ぬぐいをしながら人間にやられて落ち込む部下を励ましてやる気をださせたり、時には厳しく叱ってみたりしながらもフォローしてきた。
自分だけの特殊魔力を身につけた時はうれしかったなあ。
まさに一人前の魔族になったって感じだったよな。
侵攻がうまくいっていたはずの人間どもの国から手痛い反撃を受けて、危うく殺されそうになったこともあったよなあ。いやあ、さすがにあの時の俺ではS級冒険者5人の相手はきつかったわ。今なら余裕だけどな。
でも、今この瞬間にそのすべてが報われたって思えるよ。
部下たちのあの嬉しそうな顔。よっぽど俺が魔将に選ばれたのが嬉しいのだな。
俺はいい部下に恵まれたよ。まあ、半分はこの後のどんちゃん騒ぎが楽しみなだけかもしれないがな。
今思えば上司にも恵まれたよなあ。
最初の上司は理不尽な事ばっかり言うクソだったが、その後の十二魔将の一人だった爺さんは人使いこそ荒かったが、そのかわり自ら先頭に立って俺たちと一緒に戦ってくれたし、部下の手柄は部下の手柄としてきちんと評価して上に報告してくれていた。
それに何と言っても大魔王様だよ。
無尽蔵だと思えるほどの強大な魔力と誰にも傷つけることなどできそうにない圧倒的な肉体の強さ。全てを知る言われる知識とそれを活用する事ができる聡明さ。
・・・最近ちょっと物忘れとかがひどくなってきてるのが少し心配だが。
しかし、それほどの強さを持ちながら下っ端の魔族にも気軽に声をかけてくれるような尊敬できる方だ。
俺がまだ魔王軍に入りたての頃に名前を覚えて頂いていたのには驚いたよ。
クソ上司すらまともに名前を覚えずに使い捨ての雑魚扱いされていた俺の名前を呼んでくれて「頑張れよ」と言ってくれたのだ。
ホント、あの時は感動したよなあ。
まあ、でも一番の感動はやはり数時間前のあの瞬間だよ。
俺が十二魔将に任命されたあの時だ。
*
「サリエル、お前を十二魔将に任ずる」
大魔王様から笑顔でそう言われたときは正直俺は何も言うことができなかった。
ついにここまできたと。
苦労してきたかいがあったと。
そう思うと一言もでなくて、俺はただ何度もうなづくしかできなかった。
魔王軍で一番偉いのは大魔王様だ。唯一無二の存在だ。
その下が魔軍統括司令だ。これは一人しかいない。
そしてその次が十二魔将になる。その名の通り12名からなる魔王軍の最高幹部だ。
魔軍統括司令は大魔王様の息子がしているから、実質的に一般魔族の昇進できる最高の地位は十二魔将になるのだ。
ついに魔族としての最高位に上り詰めた。
その感激を抑えつつ、俺はようやく大魔王様に答える。
「ありがとうございます!サリエル、十二魔将の任を謹んでお受けいたします」
感動のあまり震えた声で話す俺に大魔王様は、
「そんなに堅くなることはない。本来ならお前はもっと早くに十二魔将なるだけの力量はあったのだ。なかなか空きが出なかったからな」
すまなかったな。と豪快に笑いながらおっしゃってくれる。
その笑顔を見ると、やはり、この方についてきてよかったと改めて思う。
大魔王様がおっしゃるように俺が十二魔将になれたのは一人の魔将が引退して空席ができたからだ。
先代の魔将は俺の直属の上司で御年1万6070歳というご高齢だったのだが「まだまだ若い者には負けん」と言っていたが最近できた孫(78歳)と遊ぶ時間が欲しくて引退されたのだ。
「孫ほど可愛い者はないぞー!お前も早く結婚しろよ!」
そんなのろけを俺に言っていたが、独身の俺にはよくわからん感情だね。
孫ってそんなにイイもんかね?魔将の地位よりも大事なのだろうか?
俺は絶対魔将の方がいいと思うけどな。
その思いをしっかり大魔王様に伝えておこう!
「いえ、そのお言葉だけで十分でございます。不肖サリエル、十二魔将として恥ずかしくない成果をあげる事でご期待に添えますよう身命を賭して頑張る所存でございます!」
俺は希望に満ちた目で大魔王様に宣言したのだった。
翌日にあんな事になるとも知らずに・・・。