#9 トゥルー
直人が公園に近付くと亜沙美が見えた、亜沙美も気が付くと何故かこちらに走ってきた。
「何なに何なに、怖い怖い怖い怖い!!」
亜沙美の目が真剣な事も怖さに拍車がかかっていた。
直人は少し身を仰け反っていたが亜沙美は手前で減速し、そのまま直人に抱き付いた。
「えっ?……ちょっ」
直人は戸惑っている。
「遅い!」
「あっすみません…」
「遅い遅い遅い遅い遅い!!!」
「だからすみませんって…」
亜沙美は更に強く抱きしめ
「会いたかった……」
「……はい」
直人も亜沙美を抱きしめた。
「竹下さん、好きです」
直人は想いを告げた。
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?何で言っちゃうの?」
「えっ?……えっ?」
直人はまた戸惑った。
「私が言おうとしてたのにー」
「あっすみません…」
「はい、やり直しね!」
亜沙美は公園の方に歩いていった。
「ええ!?そこから!?」
亜沙美は途中で振り返り
「よーい、ハイ!」
と手を叩くと同時に走り出し、同じように直人に抱き付いた。
「遅い!」
「えっ?本当にそこから?」
亜沙美は直人を掴んだまま体を離し
「ダメ?」
「ダメです」
「ケチ…」
亜沙美はむくれた。
その姿がとても愛しく直人は思わず笑ってしまった、亜沙美もつられて笑い、二人で大笑いした。
「ご飯食べた?」
「食べてないです」
「じゃあ食べに行こ、私もうお腹空いちゃって」
「はい、行きましょう」
直人は右肘を曲げ亜沙美を見た、そのまま二人は腕を組みながら近くのファミレスに歩いていった。
食事をしながら二人は亜沙美の実家に行く時の事を話していた。
「帰ろうとしてるのは明後日の大晦日から二日なんだけど、とりあえず大晦日に一緒に行って挨拶してそのまま藤堂くんは帰るって考えてたんだけど。さすがにいきなりうちの実家に泊まるのはハードル高いでしょ?」
「そう、ですね。いきなりはちょっと…」
「うん、だから三日にこっち帰ってくるから、そしたらまた会お?」
「はい!ところで竹下さんの実家ってどこなんですか?」
「ん?板橋区」
「近い!予想以上に近かったです」
「もっと遠いと思ってた?まぁ会おうと思ったら会えるね」
二人とも料理を食べ終わり食後のコーヒーを飲んでいた。
「…あの、一つ良いですか?」
「ん?なに?」
「お互いの呼び方変えませんか?」
「おっ、そこ行っちゃう?」
亜沙美はにやけた。
「…は、はい」
「じゃあ、何て呼んで欲しいのかな?」
亜沙美は少し身を乗り出し直人の顔をじっと見た。
直人は一瞬照れたが何かを察知した。
「逆に何て呼びたいですか?」
「そうきたか…ちっ」
座り位置が元に戻った。
「えっ舌打ち?」
「アハハ、ちょっとここで主導権握ろうとしたのに」
「やっぱり…そうはいきませんよ。僕がどれだけ竹下さんの事をわかってるか」
亜沙美は少し驚いた顔をしたあとすぐににやけた。
「エヘヘー、じゃあ私が何て呼びたいか当ててみて」
「またそんな、えーとじゃあシンプルに直人」
「ブー」
「ナオ」
「ブー」
「ナオちゃん」
「ブー」
「いやもうわからないです。答えは何ですか?」
「藤堂」
「名字で!?」
「アハハ、うそうそ。ナオって呼ぶ、いい?」
「はい」
「ナオ」
「はい」
「ナオ」
「はい」
「ナオ」
「いや、呼びすぎですって」
「フフー、嬉しくって。じゃあナオは私のこと何て呼ぶ?」
「じゃあ当ててください」
「んー、先輩?」
「ブー」
「亜沙美様?」
「…ブー」
「女王様?」
「当てる気ゼロじゃないですか」
「女王様は惜しかったでしょ?」
「一番遠いですよ!」
「じゃあ、何て呼びたいのかな?」
「あ…亜沙美」
「へぇー、亜沙美って呼びたいんだー」
ニヤニヤしながらまた身を乗り出した。
「は、はい…」
「呼んでみて」
「あ、亜沙美」
「ん?」
「亜沙美」
「んー?」
亜沙美は徐々に直人に近づいていった。
「亜沙美」
「んーー?」
「いやもういいですって!」
亜沙美は笑いながら座り直した。
「はい、じゃあ私からも提案」
「はい、何ですか?」
「ナオは敬語禁止」
「あっ、はい」
「はいダメー、今のは見逃すけど次からは私に敬語使ったらビンタね」
「罰が強くないですか!?あっ!」
直人は口に手を当てた。
亜沙美は笑顔で右手を振り上げた。
「えっ?」
「うそだよ、うそ。でも今から敬語やめてくれたら嬉しいな」
「は…う、うん、わかった」
「うん、その調子」
「でも会社では敬語使うからビンタはしないでね」
「そう…ね、フフッ、じゃないとナオの顔の左側だけフッ、腫れちゃうもんね。ハハハ」
「笑いながら言わないでよ、しかも全部利き腕前提だし」
「ちょっと想像したら面白くなっちゃって」
亜沙美はクックックと体を震わせている。
亜沙美は時計を見た。
「それじゃそろそろ行こっか」
「うん、そうだね」
直人が会計を済まし、店を出た。
「ごちそうさま、ありがと」
「どういたしまして」
外は風が強くなっておりずっと暖かい所にいた二人は尚更寒く感じた。
「ナオ、手繋ぎたい」
「ん?はい」
直人は右手を出して手を繋ぎ、亜沙美はそのまま直人のコートのポケットに手を入れた。
二人は顔を見合せてから笑顔になり、そのまま街を歩いていった。