藤堂亜沙美 後編
お台場
「こっちだよ」
直人に手を引かれ亜沙美は歩きだした。
東京湾沿いの商業施設に二人は入っていった。
直人に連れられて辿り着いた店はレインボーブリッジが見える店でその窓際の席に二人並んで座った。
時間は夜の七時半。夏前の季節的には空が暗くなった時間でその奥のビル街の灯りも綺麗に見えた。
「…ちょっ、ちょっと」
亜沙美が少し焦りながら直人に話しかける。
「ん?」
「ここ、高いんじゃないの?黒毛和牛って店先に書いてあったわよ?」
「そんなことは気にしなくていいよ」
「でも…」
「いいからいいから」
「私、財布持ってきてないよ?」
「大丈夫、いや、大丈夫じゃないな。財布無しで出歩くのはダメだよ。何かあったらどうするの」
「まぁ持ってきてるけどね」
「でしょうね!」
「で?料理も決まってるの?」
「決まってるよ」
「じゃあ待ちましょ」
亜沙美はどんな肉料理が来るかワクワクしていた。
「すんごいの来ちゃった!」
料理が進み亜沙美はメイン料理が運ばれてきて驚いた。
それはステーキなのだが今まで食べたことのない光沢を帯びたステーキで見るからに高い肉を使っているとわかった。
「ちょっと!これ、すごいよ!」
亜沙美は興奮して直人の肩をグイグイ押したり引いたりしている。
亜沙美が喜んでいるようなので直人は笑顔のまま頭がグラングラン揺れていた。
「いただきます!」
「いただきます」
二人はステーキを早速食べ始めた。
「はぁー、美味しかったぁ」
「うん、すごく柔らかいステーキだったね」
「ね!ナイフで切るだけで柔らかいってわかる肉なんて初めて食べた!」
「喜んでもらえて何より」
「…で?」
「ん?」
「いくらするのかしら?」
「……えーっと」
「今は二人の貯金を合わせて生活してる段階よね?」
「…はい、でもお小遣いでいける金額だから」
「そのあとは?」
「ん?あと?」
「今月まだあと二十日もあるわよ?大丈夫なの?」
「大丈夫だよ」
「本当に?」
「本当に」
「なら、いいけど」
「それじゃ行こっか?」
「うん、御馳走様」
直人は会計を済ませて二人は店を出た。
「そんじゃ観覧車乗ろう」
「写真もちゃんと貰わないとね。私はそれをアルバムに入れていきたい」
「うん、それ記念にしていこう」
「プロポーズ記念に一ヶ月記念、いいねそれ!」
「これからどんどん増えていくんだね」
「うん!…ねぇ、ナオ」
「ん?」
「呼んでみただけ」
「何それ」
「ハハハ」
亜沙美は直人の左腕を両手で掴み自分の体をそっと寄せた。
「ずっと一緒にいてね…」
「…うん」
直人は空いている右手で亜沙美の頭をポンポンと触れてから撫でた。
「グフフ」
「その笑い方はやめる方向でいこうか」
「私の事、嫌いになった?」
「そこまでじゃない。そこまでじゃないけどやめていこうか」
「…はーい。ゲヘヘにしていくね」
「……じゃあ今のままがいいや」
「どっち?」
「今のままで」
「じゃあまた頭撫でて?」
「……」
直人は亜沙美に言われるがままに頭を撫でた。
「愛してるは?」
「愛してるよ」
「もう一回」
「愛してるよ」
「私も愛してる」
亜沙美は腕を掴む力を強くしてさらに体をくっつけた。
観覧車乗り場
以前来たときと同じように乗る前に写真を撮るサービスは続いていたため、二人は撮ってもらい観覧車に乗り込んだ。
前回よりもより近く二人はくっつきながら外の景色を眺めていた。
「ねぇ、ナオ」
「ん?」
「…頑張ろうね」
「う?うん……」
「来月、お小遣い無しね」
「………」
直人は海の方を見ている。
「聞いてる?」
「あっ、ごめん。夜景見てた」
「来月、お小遣い無しね」
「………」
「ちょっと!?」
「そんなに?」
「そんなによ」
「頑張らないとね…」
「そうよ。はい、じゃあ…」
亜沙美は目を瞑った。
「じゃあ、の意味がわからないけど?」
「………!」
そう言いながら直人は亜沙美に口づけをし、亜沙美は直人の背中に両腕を回した。
「えっち…」
亜沙美は離れた後に直人を真っ直ぐと見つめた。
その後二人は観覧車が一周するまでずっとキスをして、抱き合って、お互いに愛してると言い合った。
観覧車から降りた二人は少し不機嫌だった。
とりあえず写真を買ったが二人は何も話さずに駅に向かい歩きだした。
「…亜沙美」
前を歩く亜沙美に直人が声をかける。
「何?」
後ろを振り返らず突き放すように返す亜沙美
二人は観覧車が一周する頃、お互いに自分の方が愛してるとケンカした。
端から見ればとんだバカップルのケンカだった。
そしてそれに直人は気が付いた。
「亜沙美に愛してもらって僕は幸せだよ」
「…でしょ?」
亜沙美は振り返り腰をかがめ、上目遣いに直人を見た。
「ありがとう」
直人が言うと
「私もナオに愛されて幸せ。…ありがとう」
亜沙美は笑顔になり、また前を向いて歩きだした。
今度は少し歩き方が浮わついていた。
しかし、亜沙美はやってしまったと後悔していた。
なぜムキになってしまったのかと。
また振り返り直人を見る。
「ん?」
そう返す直人に
「手、繋ぎたい」
と求める亜沙美。
月が照らす道を二人は手を繋ぎ、歩いていった。
二人が住む部屋に近づいた頃
「はい、これ」
亜沙美はカバンから細長いケースを取り出し、直人に渡した。
「うん?なに?」
「記念日だからプレゼント、あとこれからももっとよろしくねって事で」
「……」
直人はケースを色んな角度から見ている。
「いや、開けなさいよ!」
亜沙美は少しイラッとした。
「だよね」
直人はヘラっと笑い、ケースを開けた。
中に入っていたのは万年筆だった。
「これって…」
「こういうの持たないとダメでしょ。社長さん?」
「……ごめん、話が飛びすぎてよくわからない」
「これからうちのお店は会社にするべく動いていきます。そして社長はナオです!」
「…えっ?亜沙美は?」
「私は自由に動きたいし、何より取引先へのうちの顔はナオになるんだから、社長はナオの方が絶対にいいと思う」
「お飾り社長に…」
「ならないように頑張ってね!」
亜沙美は直人が言い切る前に背中を叩いた。
「痛いよ…」
背中をさする直人に近付いた亜沙美は横から両手で抱きしめ
「ナオなら大丈夫。私が愛する人なんだから」
耳元で囁いた。
「……うん、頑張るよ!」
「具体的には?」
「えっ?今それ問い詰める?」
「ハハハ」
亜沙美は笑いながら歩きだした。
「ちょっと!」
直人も追いかけるように歩いていった。
亜沙美は後ろを振り返り、歩いてきた直人を抱きしめた。
「出会ってくれて、ありがとう」
今まで、そして、これからの事も含めて亜沙美は気持ちを伝えて抱きしめる力を強くした。




