藤堂亜沙美 中編
昼すぎ
「ふぅ、……お客さん来ないわね」
亜沙美は暇を持て余していた。
「これはまずいわね。何とかしないと」
すぐに色々と企画を考え、メモをする。
そうしている時に直人と茂樹が帰ってきた。
「戻ったよ」
「ただいま」
亜沙美は二人を見てから直人に
「おかえりなさい」
と目を瞑った。
「…亜沙美、もしかしてお父さんは邪魔かな?」
茂樹は少し悲しかった。
「亜沙美、僕がお義父さんの前でそういうことが出来ると思ってる?」
直人は下を向き、額を右手で覆った。
「思ってないよ?遊んでるだけだから」
「…本当に僕で遊ぶんだね」
イェイ!と亜沙美はピースサインを示した。
「…ま、まぁ何があったかわからないが亜沙美もお昼ご飯食べてきなさい」
「うん、行ってくる」
和室に向かった亜沙美はカバンを持ち、店を出た。
「…さて、受け取りに行きますか」
亜沙美は近くのコンビニへ向かった。
コンビニ
「あのー、宅配便の受け取りに来たんですけど…」
亜沙美は店員に伝え、必要な証明をしたのち荷物を受け取った。
「ありがとうございます」
亜沙美は少し小さめの段ボールを抱えてコンビニを出た。
「さすがに段ボールは持ち帰らないとね。バレちゃうから」
一旦部屋に帰る事にした。
部屋
帰って来た亜沙美は段ボールを開けて、中から頼んでいた物を取り出した。
「これこれ!イメージ通り!間に合うかどうか心配だったけど間に合って良かった!都合良く配達からの一人休憩が取れたし!」
大きめの独り言の後に取り出した物をカバンに入れ、部屋を出る。
「さてと、お昼食べに行きましょう」
亜沙美は笑顔で歩いて、行きつけの和食屋へ向かった。
店
「ただいまー」
亜沙美は店に入りながら帰ってきたことを伝えた。
「おかえり」
カウンターから直人が笑いかける。
「あれ?お父さんは?」
「ついさっきお義母さんから電話があって急いで出て行ったよ」
「…何したんだ?ごめんね、一人で店番」
「いいよ、亜沙美だってしてたんだし。ちゃんとご飯食べた?」
「食べたよ。唐揚げ定食」
「好きだねぇ、本当」
「今夜は?」
「秘密」
「…予約してんの?」
「してるよ」
「どこ?」
「秘密」
「ちっ!」
亜沙美は舌打ちをする。
「…何故?」
「ポロっと言うかと思ったから」
「言いません」
「じゃあ楽しみにしてるね?」
「ぜひお楽しみに」
二人が見つめあっていると
「おーい、いるかぁー?」
大きな声と共に一人の男性が店の扉を開けた。
「あ!先程はどうも!」
「おう!旦那さんか!……おっさんはどうした?」
「実は…」
入ってきたのは中華屋の主人だった。
直人は扉の方に向かいながら亜沙美にした説明と同じ事を再度説明した。
それを聞いた中華屋は大笑いをし、それじゃ仕方ないと自分の用件を直人に伝えていた。
その姿を見た亜沙美は
「うん、大丈夫!」
未来を見据えて安心した。
「それじゃ、後で持っていきますね!」
「…すぐじゃなくてもいいんだぞ?」
「いえいえ!用意出来次第持っていきます」
「悪いね、そうだ!今度はお二人さんで来なよ!サービスするからさ!」
「はい是非!な!亜沙美!」
直人が亜沙美を見る。
「はい、サービス期待してますね!」
「……ふっ、はっはっはっは!お母さんそっくりだ!旦那さんよ、気を付けなよ?」
それを聞いた亜沙美は
「…ど、どういう意味ですか!?」
と聞きたかったが
「はっはっはっは!!」
中華屋の主人は大笑いしながら店を出ていった。
その後
「気を付けます…」
直人が呟いたのを亜沙美は聞き逃さなかった。
「あ?何て言った?」
「ん?何も言ってないよ?」
「いや?聞こえたけど?」
「一生愛しますって?そっかぁ、やっぱり聞こえちゃったかぁ」
直人は恥ずかしそうに両手で顔を覆う。
「おい……」
「……それじゃ準備するから」
直人は動き出した。
「覚えてろよ?」
「夫婦の記念日に聞く言葉じゃないよ?」
「じゃあキスして!!」
「なんでさっきから求めてるの?」
「求めちゃいけないの?」
「時と場所はね?」
「…じゃあ今夜は?」
「…秘密」
「どういう意味で?」
「明日は二人とも寝不足かもね」
「それは困る」
「…えぇー………」
直人は肩を落とした。
「ふんっ!!」
亜沙美はそっぽを向いて和室に入った。
そこから店を見たら直人は後頭部を掻きながら悲しそうな顔をしていた。
「…やりすぎちゃったかな」
少し反省した。
夜
店を閉めた二人は直人の主導でとある所へ向かっていた。
「………」
直人は無言だった。
その事に亜沙美はとてつもなく不安を感じてしまった。
「直人?」
「ん?」
「ごめん、調子に乗りすぎちゃったみたい…」
亜沙美は直人に謝ったが
「ん?何が?」
直人は何の事かわかっていなかった。
「いや、だから。…えっ?」
「え?…あっ、何となくわかった。ああいうの結婚する前からじゃん」
直人は少し笑顔で答えた。
「…じゃあ何で無言なの?」
「亜沙美の期待に応えられるかなぁって…」
直人は直人で今日のシチュエーションで亜沙美が喜んでくれるかが不安だった。
「………。ぷっ、何それ。ははっ、ハハハハハ!」
その事に少し勘づいた亜沙美は笑いが止まらなくなってしまった。
「な!何がおかしいの?」
「直人がしてくれること、その全部が嬉しいに決まってるじゃない」
そのまま直人の腕に両手でしがみつき、肩に頭を乗せた。
「え……?」
「まぁだからといって調子に乗ったら……わかってるわよね?」
上目遣いでむーっとした表情を直人に見せると、直人は一度見たあと視線を前方に固めて二度と亜沙美を見ることはなかった。
あっ、照れてる。亜沙美は手応えを感じたので更に追い討ちをかける。
「ねぇ、聞いてるの?」
そのまま直人の腕をブンブン振ってみる。
「き、聞いてる聞いてる!」
直人は亜沙美とは反対側を向いてしまった。
「…で?食事もお台場?」
「そうだよ、まず食事してから観覧車」
「…もう全部言ったね」
「わかってたでしょ?ならせめてお店は言いません」
改めて直人は亜沙美を見た。
「肉?」
「…肉。いや、その言い方止めた方がいいと思うよ?」
「洋食じゃなくてもいいの?オムライスとか」
「……んー、オムライスは食べないことにしたんだよね」
「前も食べなかったよね。何で?」
「…智美」
直人が小さい声で呟いた。
「えっ?」
「智美が歳取ったらまた食べさせてやるって言ってたんだよね。だから次オムライス食べるのは智美のオムライスかな」
「…それ、自分の妻に言っちゃう?」
「隠してる方がダメだと思ったから…」
「………うん!まぁいいわ。そういう所が好きになったんだから」
亜沙美は少し疑問に思ったが色々と察して直人を立てることにした。
「恋愛感情を越えた関係だもんね」
「ごめん…」
「謝るんなら浮気確定だけど?」
亜沙美は腕を掴む力を強くした。
「じゃあ撤回する」
「まぁ、二人の関係性はわかってるからいいわよ」
「ありがとう」
「じゃあ私の料理の中でそれしか食べられないって料理を直人に作ってやるんだから。枝豆でいい?」
「え?」
「明日から毎日枝豆ね」
「それは困る…。味噌汁でしょ、そこは」
「和食屋行ったら定食で付いてくるでしょ!!」
「あっ、そっか…」
「ったく」
直人は亜沙美の方を真っ直ぐ見て
「亜沙美…」
「な、なに?」
「愛してるよ」
そう言われながら亜沙美はキスをされた。
二人の唇が離れてから
「取り繕ってる?」
「ううん、実は僕もいつもキスしたかったんだ」
「我慢してたの?」
「そう」
「そんなのしなくていいのに」
亜沙美はまた目を瞑った……。




