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フェイクマイナス  作者: 海鮮メロン
74/77

アナザーストーリー 保坂さとみ

「ふーふふーん、ふふーん」

さとみは上機嫌に歩いていた。

「何を食べようかなぁ」

直人と亜沙美の会社に入社して半年が過ぎていた。


さとみは前にいた会社よりもやることが多くなったが、逆にそれで毎日を楽しく感じていた。


経理ということで入ったが会社の規模も小さいためその業務自体はすぐに終わり、他にも色々と頼まれることがあの二人に必要とされているようで嬉しかった。


そして食べ歩きという趣味を持つことができ、毎日違う店でランチを食べる事に幸せを感じていた。




「あっ、そういえば駅前にフレンチの店が出来たって藤堂さん言ってたっけ」

今朝のミーティングで新規店にも営業に向かおうと全員で話したばかりだった。


「リサーチも兼ねて行きますか。フフフッ」

さとみは行く店が決まったのですぐに駅前に向かうことにした。


「ここか…。フレンチ食堂…?」

そのお店は定食のようにメインとパン、スープをセットにして千五百円以内で食べられるメニューを三種類用意していた。


「…こういう感じだと入りやすいから良いかもね、でも、やってるのかな?」

店内を見ようとするがドアの作りから中があまり見ることが出来なかった。

「でも看板出てるし…」

さとみは恐る恐るドアを開けてみた。



「いらっしゃいませ」

店は営業中だったが他に客は一人とカップルが一組いるだけだった。


「一人ですけど良いですか?」

「はい、こちらにどうぞ」

さとみはカウンターの席に案内された。


「そういえばここって…」

さとみの記憶が正しければこの店は以前ラーメン屋だった。


「居抜きで始めたのか、そっか」

だからコースではなく定食形式にしたのかな?とさとみは考えた。

セットは八百円、千二百円、千五百円の三種類あり、とりあえず八百円のセットを頼んだ。



改めて店内を見回してみる。

壁紙や厨房の雰囲気を変えるだけで以前あった店の記憶が上書きされることに気付いたさとみは少しワクワクした。

「こういう提案も有りなのね」

今後の参考にしようと考えた。



厨房に目を向けると仕切っている一人の男性に目が止まる。


背が高く精悍で清潔感ある顔立ち、指示も的確で敬語で従業員と話す。


さとみはその男性から目が離せなくなった。


「人に好かれて人が勝手に付いてくるタイプの人っぽい」

自然とさとみレビューが始まっていた。



厨房にいたその男性は気が気では無かった。

「さっき来店された女性のお客様。全部見ているような気がするけど。あれかな、グルメブログの人とかインフルエンサーとかそんな人かな……」



料理人 藤代 洋介 三十歳

高卒から見習いとして都心のフレンチレストランで働いた後に地元に店を出したいと独立の為に退職。

思ってたのとは少し違ったがこれも面白いかもとコースではないフレンチレストランを開業する。

しかし中々伸びない客足に悩んでいた。



洋介はホール責任者とウェイターを呼んだ。

本来別の呼び名があるがここで肩肘張っても仕方ないと考え、そのようにしている。


「先程いらっしゃったお客様。何やら見定めてるように見えるのですが…」

「料理を食べることが好きな人のように見えますが」

「…でも、そういう人ほどグルメサイトで力を持ってたりしますよね」


洋介は少し考えたあとに

「…逆にいつものように行きましょう。他のお客様に不審がられてしまっては元も子もないですから」

「わかりました…」

「はい」


洋介はメインの盛り付けに入った。



「お願いします!」

完成した料理の皿を運ぶようお願いする。

「はい」

ウェイターの若い男性がさとみに料理を運んできた。



「わぁー、美味しそう!」

「ローストビーフ、ホワイトアスパラを添えて。のセットでございます。スープはオニオンスープ、パンは自家製で、表面にザラメが散りばめられております」

「……しょっぱい甘いの最強コンボですね?アスパラもそのままでよし、巻いてよし」

「そ、そうです。パンは申し付けていただければ追加いたしますのでいつでもお声かけください」

「ありがとうございます!」

さとみは目を輝かせながらフォークを手に取った。


「いただきます!」




ウェイターは洋介に

「やっぱり今までよりもいくつもランクが違うお客様のような気がします。料理を運んでお礼言われたのは初めてですし組み合わせも理解しているようでした」


「…あのお客様、気にしておいてください。僕もいつでも勘づけるようにしておきますので」

「はい、わかりました」



そんなことになってるとは全く知らずにさとみは料理を楽しんでいた。


「ホワイトアスパラ、茹でたのと焼いたのが一緒に付いてるから食感も香りも別で楽しめる!これで八百円!?パンも美味しいし」

とても幸せそうな顔をした。



「これは社長に報告だね」

さとみが皆にも食べてもらいたいと思い言った言葉は洋介には別の意味に聞こえた。


「社長に報告?どういう意味だ?」

洋介は気が気ではならなかった。しかし見るたびに美味しそうに食べているさとみの事が別の意味で気になっていた。


「あんなに美味しそうに食べてくれる人、今までいなかったかも…。何がどうあれ嬉しいな」

洋介はニヤけながら夜の営業の仕込みをしていた。



「ごちそうさまでした」

さとみが言いながら席を立った。

「…ありがとうございました!」

洋介は厨房からお礼を言った。


「とても美味しかったです。また来ますね」

「はい!お待ちしております」

さとみと洋介は数秒笑顔で見つめあっていた。


「…恐れ入ります。こちらでお会計になります」

ウェイターが話しづらくもさとみをレジカウンターに案内した。

「はい、ごちそうさまでした」

再度言ってからさとみは店を出た。


「美味しかったー。シェフもカッコ良かったし。明日も来ようかな」

さとみは笑顔で職場に戻っていった。



「戻りましたー!!」

「…どうしたの?そんな元気で」

さとみの様子に直人は疑問を持った。


「駅前の新しい店に行って来ました」

「え!?行ってきたの?どうだった?」

「へへー」

「…良かったんだね?」

「はい、明日も行こうかなぁって思いました」


「そんなに良い店だったの?」

亜沙美も興味を示した。


「はい!料理もこれがこの値段?って感じで美味しかったですし、店員さんも丁寧でした。何よりシェフがイケメンでしたし」

「…何ですと?」

「シェフがイケメンです!」

「保坂さん、明日は一緒に行きましょう!」

「はい!」


「…あの、亜沙美さん?」

「ん?」

「イケメンだから行くのかな?」

「そうだよ?」

「……拗ねていい?」

「わかってないなぁ」

「何が?」

「…後でみっちり話す。今は仕事!!」

「はい…」

直人は仕事を進めたが納得いかずに動きが遅かった。


「しょうがないなぁ。ナオ!」

「…んん?」

振り向いた直人に亜沙美が抱きしめながら

「今日はしょうが焼きだよ?」

「…ほんと?」

「ほんと」

「ビールは?」

「一缶ならいいよ」

「じゃあ頑張る!」

見違えるほどに行動が速くなった。



「…え?それで良いんですか?」

「しーっ…」

「あっ、はい」

亜沙美のアクションからさとみは声を小さくした。

「簡単なんですね…」

「でしょ?」

「前からでした?」

「うん、結構そんな感じあったよ」

「…気付かなかったです」


「それよりも」

「…はい」

「そのお店、保坂さん担当で行ってみようよ」

「……えぇ!?」

さとみは驚いた。


「わ、私がですか!?」

「うん、そろそろそういうのもやっていっても大丈夫だと思うよ、そのお店で何か気になることはなかった?」


さとみは店の事を思い出してみた。

「…あ、そういえば店の前に行った時に営業してるのかどうかわかりづらかったですね。看板は出てたんですがそれでもお店によってはやってないお店もあったりするので、ドアを開けるまで少し時間がかかりました」

「…入れるかどうか?看板をしまい忘れてる店とかあるものね」


「はい、時間的に準備中は無いとは思うんですけどね。ただ何となく入りづらかったですね」

「オープンって札も無かったの?」

「無かったですね。いや、あったのかな?でもあったとしても気付かなかったです」

「じゃあまずはそういうところからだね。明日私も一緒に行くからまた見てみましょう?」

「はい!」


「でもいきなりグイグイ行っちゃダメよ?迷惑に思われたらそこで終わっちゃうから」

「そうですね。気を付けます」


その後さとみは由香と休憩交代で店番に入った。

由香もその店に行こうと思い調べたらランチ営業は終わっていて少し悲しそうだった。



「そっかぁ、私も営業かぁ」

さとみはそこも少し嬉しく感じていた。


「すみませーん、いいですか?」

「あっ、はい!いらっしゃいませ」

店の入り口から声が聞こえたので店内に案内するため移動した。


「あっ…」

「あっ、先程のお客様…」

店に来たのはフレンチ食堂のシェフ 洋介だった。


「先程はありがとうございました」

「いえ!こちらこそ美味しかったです。ありがとうございました」

「あぁ、いえいえ。こちらこそありがとうございました」

「いえいえ…」

さとみは思った。これ無限に続いてしまうやつだ、と。

なのでそこで終わらせることにした。



「こちらのお店の方だったんですね」

「はい!なので食べ歩きも好きになってしまいまして…」

さとみはへへへと笑いながら後頭部をさする。



「あの、こちらでは基本的に何でも揃うという話を聞きまして…」

「あっ、はい!商品によっては取り寄せになってしまうものもあるのですが」

「食器ってありますか?」

「はい!ありますよ!こちらです」

洋介はさとみに案内され食器が置いてある棚の前で止まった。


「…すごい種類ありますね」

「はい、和食、中華、洋食どれも揃えています。フレンチだとこの辺りがよろしいかと」


「…あの、いきなりこんなこと聞くのは失礼かとは思うのですが」

「はい…」

彼氏いるかどうか聞かれるのかな?とさとみはドキドキした。

そう、つまりは舞い上がっていた。

イケメンシェフの店で食事をし、そのお店への営業を任された後に、そのシェフが今、目の前にいる。


さとみが舞い上がらない理由が無かった。


「うちの料理、どうでしたか?」

「料理、ですか?」

さとみは少しガッカリした。


その仕草が洋介には悪く映り

「お、美味しくなかったですか?」

慌てた様子で話し始めた。


「い、いえ!美味しかったですよ!値段以上に食べる価値のある料理でした。明日も行こうと思ってたんですよ」

「そ、そうでしたか。ありがとうございます」



「でもどうされたんですか?そんなことを聞いて」

「…実はオープン当初に想定していた客数に全く届かなくて悩んでいるんです。何が悪いのかと」

「それで食器ですか?」

「はい、食器も含めて料理といいますので一度見直してみようかと思いまして」


さとみは迷った。今ここで言っても良いものかと、しかし明らかに迷走しそうな洋介に黙っていられなかった。


「食器じゃないと思いますよ?」

「え?」

「あっ、すみません。さっき行ったときの印象なんですけど」


「…教えて下さい、お願いします」

「私はまず入ろうかどうか迷ったんですよね」

「え?…それはどうしてですか?」

「営業してるのかしてないのかがすぐにわからなかったんです。あのドアだと店内もよく見えなかったですし。料理はとても美味しく問題無いと思いますからお客様に店に入っていただく方法を考えて上手くいけばあのお店のファンはどんどん増えると思いますよ」


「なるほど、確かに料理のことしか考えていなかったですね。食べてもらわないことには始まらないですもんね…」

「ちなみに私は気付かなかったんですが、オープンっていうような札ありましたか?」


「無いですね。看板でそういう意味にしているので」

「それだとわかりづらいんですよ」

「そうなんですか?」

「フレンチってわけでもないですけど一年中看板を出している飲食店もありますからね。看板が出てるイコール営業していると思う人がどれだけいるか、ですよね」


「…そうだったんですね」

「和食や中華だと暖簾がありますからそれが出てたら営業中とわかる人が多いので札を付けないお店もありますが、フレンチ自体が馴染みの無い人が多いのもあるのでいかに入りやすくするかで変わると思いますよ」


「………」

洋介は少し下を向いていた。


「あっ、すみません!ベラベラと偉そうに…。申し訳ありません」

さとみはやってしまった!と後悔し深々と頭を下げた。


「あぁ!!いえいえ!むしろありがたいです。確かにその通りだと納得していました」

「そう言っていただけると助かります」

「ではその営業していると分かりやすくするための物はありますか?」

「はい!こちらにございます」

さとみは役に立てたかな?とにこやかに洋介を案内した。



その様子を亜沙美と直人が裏から見ていた。

「…ね?」

亜沙美は自慢気に直人を見る。


「いや、何もわからないんだけど…。いきなり、ね?って言われても」

「…はぁー」

亜沙美はため息をつく。


「え?僕が悪いの?」

「保坂さんって結構色々と見てる人なのよ、多分自分でも自覚してないレベルで」

「…そういえばフェイクカップルの時に実は本当に好きなんじゃないんですか?とか聞いてきてたな」

「それはナオがわかりやすかったからでしょ」

「…亜沙美も言われて宣戦布告されたんじゃなかったっけ?」


「まぁその話は置いといて」

「…まぁ、いいや。進めよう」

これ以上言うと怒られるかもと直人は察した。


「保坂さんが見てる光景の中での気付く力ってのが私達より保坂さんの方が多分あるのよね」

「それをうちの力にしようと?」


「そう、経理だけで終わらせるにはもったいない人よ」

「でも飛び込み営業していくようなタイプじゃないぞ?」

「飛び込みなんてさせないわよ。今の時代そんなものは反感を買うだけ」

「じゃあ?」

「今ある取引先に行くときに保坂さんも同行させて」


「…あぁ、そういうことね。僕が気付けないところにも気付いて提案出来るんじゃないか?って事?」

「そういうこと。…それにしても本当にイケメンね。彼女いるのかしら」

亜沙美は洋介をジッと見ている。


「…亜沙美さん?」

「違うわよ」

亜沙美は素早く返答した。


「…何が?」

「……違うわよ」

「今の間は違くないね」

「保坂さんが狙えばいいのに、って事」

「僕を奪い合ったライバルとしての言葉?」

「自分でそれ言うの?調子に乗るなよ?」

「…すみません」



さとみは洋介に商品案内を始めた。

「この辺はどうですか?店の雰囲気にもあってると思いますが」

「…そうですね。これなんかいいですね」

洋介はさとみに薦めれた物の中から比較的自分の中にあるイメージに近いものを選んだ。


「すみません。大変厚かましいのですが他にも何かこうした方がいいとかそういうのはありますか?」

「他にもですか?……あっ、ランプなんかどうですか?」

「ランプですか?」


「はい、あそこは元々ラーメン屋ですよね?それを居抜きで借りている」

「そうです!よくお分かりで」


「…まぁ、ハハハ」

「あっ、それはそうですよね。お仕事で知ってますよね」

「それもありますけど、この辺のお店はほとんど知ってますよ。食べ歩きしてるもんで」

また後頭部をさすった。


「食事することが好きなんですね」

「は、はい」

さとみは少し恥ずかしそうにした。


「ランプというのは?」

「少し上品な雰囲気を出してもいいと思うんです」

「上品な…」

「あっ、今が下品ってわけではないですよ?」

さとみは慌てて訂正する。


「いや、確かに殺風景かもとは思ってたんですよね」

「壁に水銀灯のようなランプがあると、がらっと雰囲気は変わると思いますよ」

「…それはありますか?」

「えっと…、少々お待ちください」

さとみは店の裏に向かった。



「…あれ?何してるんですか?」

咄嗟の事だったので亜沙美も直人もその場を離れる余裕が無かった。

亜沙美がしどろもどろに話し始める。


「い、いや、えっと」

「私の事が心配で様子を見てました?」

「う、ううん!心配はしてないよ?もしかしてあのフレンチのシェフなのかな?本当にイケメン!って見てたの」


亜沙美からそう聞いたさとみは表情が明るくなり

「ですよね!そうですよね!」

「う、うん」

「亜沙美さん、お願いしたいことが」

「ん?」


さとみは今の時点で頭の中にあるプランを亜沙美に伝えた。

「そうね、それで行きましょう。今すぐに必要な物はある?用意してから行くから商談席にご案内してもらっていい?」

「カタログがあれば私の方で説明できるとは思うんですけどありますか?」

「あるよ!あるある!」

「じゃあそれをお願いします」

「うん!」


さとみは洋介の元に戻った。

「とりあえずこちらへどうぞ」

亜沙美に言われた通り、いつも直人が使用している商談席に洋介を座らせた。


少し経つと

「保坂さん、これを」

「ありがとうございます」


亜沙美は続けて洋介に挨拶をした。

「本日はご来店ありがとうございます。副社長の藤堂と申します」

「あっ、藤代と申します。駅前でフレンチ食堂という名の飲食店を営んでおります」

「ご丁寧にありがとうございます。藤代様のご要望は出来る限り、この保坂が責任を持ってご対応致しますのでこれからもよろしくお願いいたします」

「い!いえ!こちらこそよろしくお願いいたします」


洋介は挨拶を済ませた後に

「保坂さんとおっしゃられるんですね」

さとみはしまったと思った。名乗っていなかったと。


「あっはい!大変失礼いたしました。名乗らずに色々と申し上げてしまいまして」

「いえ!こちらこそお客様である保坂さんに名乗ってはいなかったので」

「これからは藤代様でよろしいですか?」


「…いや、様はちょっと。恥ずかしいというか」

洋介は髪の毛をわしゃわしゃとかいた。


「じゃあ藤代さんとお呼びしてもよろしいですか?」

「は、はい。僕は保坂さんとお呼びしても…?」

「はい!これからもよろしくお願い出来ればと思います」

「こちらこそよろしくお願いいたします」


その後さとみは様々な提案をし、洋介は自分でも必要と思うものはその場で決め、その他の物は考えたいという理由で保留した。


「すみませんそろそろ戻らないと…」

時間は午後四時を過ぎていた。

洋介はディナーの準備があるため、まだ聞きたいこと知りたいこともあったが帰ることにした。


「こちらこそ申し訳ありません。お気遣いが足りませんでした」

「いえいえ!色々と相談に乗っていただいて助かりました。また来てもよろしいですか?」

「それはもちろん!あっ、それでは」

さとみはポケットから名刺を取り出し、裏側に自分のメアドを書いてそれを洋介に渡した。


「昼間なら基本的にご対応できますので何かご要望がありましたらご連絡ください。用件によってはこちらからお店に伺いますので。こちらは個人的なアドレスですのでいつでもご連絡ください」


「…え?いいんですか?こんな事まで教えていただいて」

「はい、私はもうあのお店のファンですから!」

「ありがとうございます!」



洋介は清算を済ませ、すぐに持ち帰ることが出来る物だけをすぐに持って帰ることにした。

さとみは店の入り口まで見送ることにした。


「すみません、本当にありがとうございました」

洋介から挨拶を始めた。


「いえ!こちらこそありがとうございました。…あのー」

「はい?」

「…明日もお店に食べに行ってもいいですか?先程のうちの副社長の藤堂と行こうと思うのですが。さっき話してたんですよね。明日一緒に行こうって」


洋介はとても嬉しそうに笑顔で

「はい!!ぜひお待ちしております。来る前にお店にご連絡いただければ全て準備をしてお待ち出来ますので、お気軽にお店にご連絡ください」

「はい!ではまた明日。ところでメニューって同じですか?違うんですか?」


「その時の仕入れにもよりますけど、ランチは一日ごとに違うメニューのローテーションにしています」

「じゃあ、明日はまた違う料理が食べられるんですね!明日は千二百円のランチにします!」

「かしこまりました。それでは最高の料理を準備してお待ちしておりますので」

「よろしくお願いします」

二人はハハハと笑いあい、洋介は店をあとにした。


さとみはニヤけながら店内に戻る。

「フフフフフ、これ、来たんじゃない?来たよね?」

大きくガッツポーズをした。


「焦らないようにね」

直人がそれを見ていた。


「な!見てたんですか!?」

「見てたっていうか見えた」

「どう思います?」

「あの人?いい人じゃん」

「ですよね!」


「もう信頼関係も出来始めてる感じもしたし、相手もさとみに良い印象持ってるんじゃない?」

「あぁー、休みの日にパワースポット行き続けて良かったぁー」

「そ、そんなことしてたの?」

「そんなこと?私を捨てた男の言うことですか?」


「捨てた記憶は無いけど……」

「ひどい……。あなたに捨てられたせいでパワースポットばかり行き続ける事になったのに」

「記憶改竄するのはやめてね?」

「ですよねー」

さとみは上機嫌だ。


「なんか心配だな……」

直人はさとみが突っ走らないか不安になった。




翌日

さとみと亜沙美はフレンチ食堂の前に来ていた。

「あっ、オープンって札ついてますね」

「うん、早速やってくれてるね」

洋介は昨日のディナーの前に付けられるものは全て付けていた。


二人は店の中に入った。


「あっ!保坂さん。いらっしゃいませ!」

洋介がすぐに気付き声をかける。

「そちらのテーブルにどうぞ」

「はい」

二人は案内されたテーブルに座った。


そこに洋介と一人の女性が歩いてきた。

「保坂さん、こちら妻の直子です」

「昨日は主人が大変お世話になったと。ありがとうございます」

さとみは洋介が何を言っているのか理解出来なかった。


「…お、奥様ですか?」

さとみは大きく動揺している。

「はい、昨日妻はシフト休だったので今日ご紹介しようと」

「そ、そそそ、そうでしたか。よろしくお願いします」

「はい!よろしくお願いします」

直子は深々と頭を下げ、仕事に戻っていった。


「それでは料理の準備をしますので少々お待ち下さい」

洋介も厨房に戻っていった。


さとみは泣きそうな顔で亜沙美を見る。

「あ、あのー、その、元気出して?ね?」

亜沙美は何をどうしたらいいか迷った。


「亜沙美さん……」

「はい…」

「夜も付き合ってくれませんか?強いお酒が飲みたいです」

「う!うん!行こう!記憶無くなるまで飲もう!鈴木さんも誘って飲もう!…ね?」




その夜

三人で飲んでいると定期的に

「私の王子様はどこにいるのー!?」

とさとみは何度も泣きながら叫んでいたという。

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