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フェイクマイナス  作者: 海鮮メロン
72/77

アナザーストーリー 島崎智美

藤堂直人、竹下亜沙美が退社して半年後


「おはようございます!島崎さん」

「お、おはようございます」


直人にも話していた別部署の若い男性社員が相変わらず智美に挨拶をしていた。


「…直人の言うとおり、脈有りなのかな。その割には何も進展無いけど」

歳下の男性から毎日わざわざ挨拶を貰う。それは智美にとっても初めての経験で戸惑いを隠せなかった。


「何?まだ何も進んでないの?」

同僚の辻本 栞が話しかけてくる。


「まだ何も…」


栞は智美の歓迎会の事はほとんどが覚えていないらしく、急に直人の連絡先がスマホにあったため驚いたというほどだった。

智美も、まぁそれなら。と特に気にする事も無く同い年ということで円滑に仕事を進めるために交流をするようにしていた。


「…で?どうなのよ?」

「どうって?」


「有りか無しかに決まってるじゃない」

「まだわからないよ。それに私は離婚してるんだよ?」

「それが踏み込めない理由?」

「踏み込めない?」


「だって私から見たらもう確定だよ?」

「確定?」

「だからぁ!向こうは島崎さんの事好きなんだって!」


「……結局、離婚してる女って知ったら離れていくんじゃない?」

「それはわからないじゃない。…知ってるのかな」

「さぁ…」


「…ねぇ、もしかしてだけど。本当に藤堂君とは何とも無かったの?本当は……」

「そこはもう決着付いてるから大丈夫」

智美は食い気味に返答した。

「そ、そう…」

栞はそれで全てを察した。


「じゃあ、そういうことなら島崎さんから行かないと」

「私から?」

「そう!相手は歳下なんだからリードしないと」


「…難しいこと言うね」

「そう?でも完全に拒否する言葉が出てこないって事は潜在的に有りって事なんじゃないの?」

「うーん…。正直な所で言うとよくわからない」

「は?」

栞は眉間に皺を寄せた。


「…急に怖いよ」

「ごめん、イラッとした。五歳も歳下なんだよ?ものにしたら大勝利じゃない!!」


「…何に?」

「何ってそりゃ…」

「まぁ言いたいことはわかるけど」

「でしょ?待ってるだけじゃダメだよ。連絡先は?」

「知らない」


「じゃあ、まずはそこから!島崎さんから聞きなよ」

「どうやって?」

「今度食事行こう?でいいじゃん」

「それだと私から行ってる事になるじゃん」

「それでいいじゃん!!だって勝ち確だよ?」

「もしかしてギャンブル好き?」


「…す、好きじゃないよ?」

「好きなんだ…」

「わ、私の事より島崎さんの事!私もそうだけどこの歳になったら待ってちゃダメ!」

「…う、うん」

「ましてや相手は歳下!島崎さんからグイグイ行ってみたら?ダメでも次があるんだから!」


「次?」

「次!!あるから!!きっとあるから!!きっと!!」

栞は言葉に力が入っていた。

「う、うん…」


「ちなみに挨拶以外の会話は?」

「仕事の事だけかな」

「かぁー、つまらない!実につまらない」

「仕事以外の話題が無いもの」

「向こうから何か質問してきたりしないの?」


「…んー、雑談するときはあるけどそこまでじゃないかな」

「……うーん、勝ち確じゃないのかも」

栞は腕を組んで背もたれにおもいっきり寄っ掛かる。


「なんで?」

「いや、好きな食べ物とかそういうの聞かれてたら店をリサーチしてる可能性あるんだけど、本当に何も聞かれてないの?」

「…ああ、一回直人との事聞かれたな」

「勝ち確だね!」

今度は前のめりになり目がワクワクしている。


「どっちなのよ…」

「藤堂君との仲が気になったって事じゃないの?入社した時に付き合ってるって噂あったんだし」

「それの興味本位で聞いてきただけじゃない?」

「逆よ、興味無かったら聞かないから」

「…まっ、それもそうか」


「次一緒に仕事するのはいつ?」

「今は新卒採用に関しての仕事でちょくちょく打ち合わせはあるよ。説明会の会場設置とかあるし」

「じゃあその時に食事行きなよ。その時は大体残業になるんでしょ?」

「なるけど、私から誘うの?」

「待ってちゃダメって言ったじゃん」

「何だかなぁ…」

智美は首を傾げる。


「何か不満でも?」

「不満は無いけど、私がそこまで想ってないのに誘うのもさ」

「別に好きだから付き合うって事が全てじゃないでしょ。まずは付き合ってから好きになるパターンもあるんだし」

「そんなことあるの?」


「あるよ。たまに聞かない?アプローチはあっちからだったのにいつの間にか自分の方がどんどん相手を好きになってたって」

「まぁ、あるかも…」


「というよりか藤堂君と竹下さんがレアケースなんです。あの二人を近くで見てたから自分から行くことに疑問を持ってるんでしょ?」

「そうかもしれない…」

「あんなに二人ともお互いに想い合いながらずっと上司と部下やってて、実際に付き合ってから超スピード婚じゃん。そりゃ憧れるは憧れるけどさ」


「本当に総務って全部の情報入ってくるんだね」

「そうだよ、皆は長いこと付き合ってるって思ってるみたいだけど実際は半年も経ってないでしょ?」

「怖いよ、その情報網」


「とにかく、別にその意図が無くても食事に行ったりはするでしょ。軽い感じでご飯食べていかない?でいいじゃん」

「そっか、別に男女で食事イコール恋愛ってわけじゃないもんね」

「そうそう、それで向こうが勘違いしたら儲けもんってね」

「…言い方がなぁ」



「ほらそこ!始業時間になるよ!」

「あっ、はい!」

総務チーフから注意を受けた二人は仕事に入った。




「また今日も挨拶しか出来なかった…。他にも話をしようと決めてたのにな」

「石川、何をへこんでるんだ。ほら会議行くぞ!」

「は、はい!」



人事部 石川 達哉 二十四歳

入社二年目で去年の下期から中途採用の仕事をしていたが今年から新卒採用チームで仕事をしている。

智美が入社してきたときに一目惚れしていた。



「せっかく一緒に仕事する機会も出来たのにな」

達哉は何にも行動を起こせない自分を情けなく思っていた。


会議室に向かう途中

「何だお前、まだ島崎さんにアプローチ出来てないのか」

「ちょっと!声が大きいですよ!」

「いいからさっさと食事に誘えっての」


「…実際にどうやって誘えばいいのかわからなくなってしまって」

「今まで付き合ってきた人はどうしてたんだよ」

「…今まで誰とも付き合ったことないです」

「えっ?マジで?」


「はい…。だから島崎さんを前にすると頭の中が真っ白になってしまって何も言えなくなっちゃうんですよ」

「そりゃ難儀だな」

「先輩は奥様と付き合う時はどうしたんですか?」

「俺?俺は合コンで知り合ったからな。次は二人で食事に行きませんか?って言っただけだ」

「そうですか…」


「…飲み会やるか?」

「飲み会ですか?」

少し考え事しているような表情の先輩に達哉は繰り返した。



「そう、人事と総務の交流をって目的で、他の会社では人事総務って一緒になってる会社も多いのにうちは別れてるだろ?だからコミュニケーションが足りないぐらいだと思ってるからな」

「僕はそれをきっかけにって事ですか?」

「そういうこと。まぁ、俺が見る限りは成功すると思うけどね」

「えっ?本当ですか?」


「毎日わざわざ挨拶行ってるだろ。そりゃそんなことされたら自然と意識するもんだ。嫌がられてたりはしてないんだろ?」

「微妙な表情はされてますけど…」

達哉は先程の智美の表情を思い出した。


「またこいつ挨拶だけかとか思われたんじゃないか?迷惑に思われてたら上司経由なり何かしらの形で注意が来るけど来てないだろ?」

「はい、それは無いです」

「じゃあ一度勇気出して誘ってみろよ。飲み会の時に色々話してさ」

「な、何を話せば…」

達哉はうろたえる。


「それはその場で咄嗟に考えるんだよ」

「その場で…」


「面接と一緒だよ。決められた質問はあるけどそれに入ってない事を聞いてその人がどういう人かを見極めなければならないのが俺達の仕事でもある。その場で惚れてる女に聞くことが、話すことがわからないってのは人事部としてもまずいぞ?」


「…確かにそうですね」

「そんじゃ総務側と話つけとくわ。当然お前は強制参加だからな?」

「来んなって言われなくても行きますよ!」

「おっ!いいねぇ。まぁその前に仕事な」

「はい!」



昼 社食

「辻本さん」

「あっ、安田さん。どうしました?」


人事部 安田 武 三十五歳

達哉の先輩で次期人事チーフ候補。後輩の面倒見の良さに定評がある。


「総務と人事で交流飲み会開こうと考えてるんだけど、どうかな?」

「飲み会ですか?」

「…裏の目的は」

「…ふふふ、了解しました」


「話が早くて助かるよ」

「こっちもやきもきしてますからね」

「あの二人どうにかならんかね?」

「私も今朝焚き付けたばかりですよ」

「こっちも女性と付き合ったことないから色々わからないって」

「…じゃあ」

「…俺達の」


『出番ですね』


「ハハハハハ」

二人は笑い合った。


「辻本さんは狙ってる男いないの?」

「…いないですねぇ。結婚して退職しちゃいましたから」

「あぁ、なるほどね」

「数年前からわかってはいたから大したダメージは無いんですけどね」

「今頃どうしてるかな」

「関係性は変わってないんじゃないですか?」

「だろうね」


「安田さんこそ奥さんに飲み会の事は文句言われませんか?」

「……大丈夫!!」

武はためらいながら強い言葉で返した。


「はははっ、ギリギリじゃないですか」

「でも俺としてはあの二人をくっ付けたいんだよ」

「わかります。私もそうですよ」

「じゃあ、店とか色々決めようか」

「はい、ヒヒヒ」

「魔女みたいな笑い方したな…」

「あ?」

「ごめんなさい」



二週間後 週末


「えー本日は皆さん全員ご参加頂きましてありがとうございます!!」

武が乾杯の挨拶をしていた。

「今後ともお互いに部署間のコミュニケーションが活発になるように!かんぱーーい!!」

『かんぱーい』


実は総務では栞が人事では武が皆に裏の目的を話して協力をこぎつけていた。

そのため必然的に智美と達哉は隣に座るように誘導され周りからのフォローも有りながらぎこちなく会話を進めていた。


飲み会も中盤に差し掛かってきた頃

「あ、あの…島崎さん」

「はい…」

「あっ、何か食べたいものありますか?取りますので」

「い、いえ、そんな大丈夫ですよ」

「そ、そうですか…」

二人は沈黙した。


「えーい!まどろっこしい!!」

栞はすでに出来上がっている。

「石川さん!!」

「は、はい!」

「島崎さん!!」

「は、はい!」


「今、連絡先を交換しなさい!」

「えっ!ええっ!?」

「ちょ!ちょっと辻本さん!」


「つべこべ言わない。はい!メッセでいいから交換する!」


二人は言われるがままに連絡先を交換した。


「はい、じゃあ次はデートの約束!!」

「ちょっと!辻本さん!!酔いすぎよ!!」


「私は酔ってません!」

「目の前にあるビール瓶は?」

「金色のジュースです!!」

「……目的はこれだな?」


「えっ?えっ?」

達哉は智美と栞を交互に見ている。


「石川さん、ごめんなさい。うちの辻本が何か企んでたようで」

「い、いえ!僕は挨拶以外で会話できた事がとても嬉しいです」

「えっ?」

「えっ?…すみません、ずっと迷惑でしたか?」

「いえ!そんなことはないですよ」

その時、智美は栞から言われた言葉を思い出した。

待ってるだけじゃダメ。


智美は達哉に聞くことにした。


「あの、石川さんは私の事どう思ってます?」

「え?…あ、あの。…好きです!」

「えっ?」


『えっ?』

智美の返答と同時に別の話をしていた他の同僚達も達哉を見た。


「あっ、いや、その、それは嬉しいんですけど」

「…やっぱり僕みたいな男はダメですよね」

「い!いえ!そうではなく!」

「は、はい」


「私が離婚して今の仕事に就いてるのは御存じですか?」

「そうなんですか?」

「はい…。だから石川さんはガッカリするかと」

「え?何でですか?」

「え?」


「今、彼氏さんは?」

「い、いないです」

「僕がガッカリする理由はないですけど、むしろ彼氏がいないとわかったので」


「…私に彼氏がいないとどうなんですか?」

「僕にもチャンスあるんですよね?」

「チャンスと言うか、うん、まぁ…」

「なら!頑張ります!僕は島崎さんの事好きなので!!」

「あ、あぁ、はい…」



「安田さん、あれって天然?」

「…ああいう奴だとは俺も思ってなかったよ。ちゃんと自分で気持ち伝えられてるじゃないか」

栞と武は達哉の行動が不思議なものに思えた。そしてそれは智美も同じだった。

そしてその場にいる全員が頭を抱えた。


「あ、あの、石川さんは私の事が?」

「はい!大好きです!」

「私とどうなりたいですか?」

「お付き合いしたいです」

「…はい、よろしくお願いします」

智美は少し頭を下げながら言った。

「…えっ?えっ!?」

達哉は困惑している。自分が言った言葉の意味がわかっていなかった。



「あれもリードの一つの形か…」

栞が呟いた。

「ん?」

「いえ、リードしなきゃって言ってたんですよ」

「なるほど」

武は妙な納得の仕方をした。



「あ、あの、それってつまり…」

「恋人になりましょうって言ってるの!」

「は!はい!ありがとうございます!」

「……ふふっ、なにそれ」

智美は少し笑ったあとジッと達哉を見た。


「あ、あのお付き合いって具体的にどうすれば…」

「はぁ!?そこから!?」

「す、すみません!」

「じゃあ明日、私をディナーに連れていって」

「はい!じゃあお店探しますね」

達哉はスマホで検索を始めた。


「今、探さないの!私にわからないように探して明日わかるようにするの!!」

「あっ、はい!では後で連絡します」

「期待してるからね?」

「はっ、はい!」


「あと、敬語禁止」

「え?あっ、はい…うん!」

「…私でいいの?」

「…僕でいいんですか?」

「敬語!!」

「あっ……」

飲み会の席は笑いに包まれた。



「すみません、今だけ敬語で。今までは大好きでしたけど、これからは愛してもいいですか?」

「……一生ならいいよ?」

「一生愛します」

達哉は頭を下げた。

「よろしくお願いします」

智美も再度頭を下げ、顔を上げた後二人は小さく笑い合った。



三年後 智美の部屋


「達哉、話があるんだけど」

「ん?なに?」

「妊娠したみたい」

「…えっ?」

「に ん し ん!」

「…や、やったー!」

達哉は智美に抱き付いた。


「ちょっ!ちょっと!!」

「あっ、ごめん!」

「で?どうするの?」

「どうするって…。結婚しよう」


「…プロポーズがそれ?」

「あっ、ごめん。ウソ!」

「はぁっ!?ウソぉ?」

「ウソじゃない!いや!今のはウソ!…いやウソではない!」

「どっちよ!!」


「結婚しようはウソじゃないけど、今言ったのはウソ。ちゃんとします」

「なら、よろしい!」

「でもその前に」

達哉は今度は優しく智美を抱きしめた。


「…どうしたの?」

「ん?しばらくこうしてたいなって」

「…バカ」

智美も達哉の背中に優しく手を回した。



その後、直人に連絡をし

「あんたんとこで働くから」

と強引に仕事を決めるのはまた別の話。

登場人物の後日談を書いていきたいと思いましたのでまたよろしくお願いいたします。

不定期な更新になってしまいますがお読みいただけたら幸いです。

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