#69 結婚相手、私なんです
金曜日
直人が仕事をしていると受付から内線電話がかかってきた。
「はい、第二営業部藤堂です」
電話は千聖からだった。
「はい、今からそちらに向かいますね」
直人は席を立ち亜沙美に
「馬渕さん来たので迎えに行ってきます」
と伝えた。
「うん、よろしく」
直人は受付に向かった。
「お待たせしました」
受付に着くと千聖と店長がそこにいた。
「おう、久し振り」
「お久し振りです」
「お久し振りです、こちらにどうぞ」
二人を部署に案内した。
部署に着くとちょうど亜沙美が会議室から出てきたところだった。
部長が会議室で待っており少し話をしておきたいという事を伝えられていた。
「竹下さん!」
直人は亜沙美の元に二人を案内した。
「…はじめまして、チーフの竹下です」
「はじめまして、馬渕千聖です」
二人はお辞儀をした後、
「今、会議室で部長が待っていてお話をしたいとの事なので、どうぞ。藤堂くんも入って」
「はい」
四人は会議室に入った。
「失礼します。お連れしました」
「はい、ありがとう。はじめまして……。久し振りだな、海野」
部長は店長を見て少し嫌な顔をした。
「おう!元気だったか?」
「…相変わらずうるさいな」
「え?お知り合いなんですか?」
直人が海野に聞く。
「同期よ、同期。なっ!馬場ちゃん」
「…さぁ?」
「照れやがって!」
「今日はお前と話すための席ではない」
「おう!そうだったな!馬渕さん、座ろう座ろう!」
「は、はい…」
四人が椅子に座ると部長の馬場が話し始めた。
「早速の話で申し訳ないですが馬渕さんには藤堂の仕事をそのまま引き継いでいただきたいと考えています」
「はい…」
「藤堂、竹下から話は聞いてるよな?」
「はい、四月の一ヶ月で全て教えるようにと」
「そう、馬渕さんにも結構な負担がかかってしまうだろうがよろしく頼む。馬渕さん、よろしいですか?」
「はい!頑張ります!!」
「結構。…海野、藤堂の退職は聞いてるんだろ?」
「聞いてるよ、わざわざ店に来て話してくれたよ。馬渕さんの意思確認の時にな」
「…藤堂のそういうちょくちょく暗躍するところはうちには戦力だったんだがなぁ」
「部長?何か言葉が物騒な気が…」
「私がオーケーを出さざるをえない状況にしてから話を持ってきてたものな、いつもいつも」
「すみませんでした…」
「いや、怒ってるわけじゃないんだ。私からしてみてもすぐに決断できるって事で助かってたからね。でもよく暗躍してたなぁ」
「…少し怒ってますよね?」
「怒ってないって。時代が時代なら蹴飛ばしてたけどな」
「…少しどころじゃなく怒ってたんですね」
「馬場、相変わらずねちっこいな」
「…うるさい、お前もそういうこと無かったのか?」
「あったよ、こいつマジか!って驚いたな」
「すみませんでした」
「まっ、実績上げてたから俺は文句は無いがな!」
「まぁ、そうだな。で?退職理由は話したのか?藤堂」
「いえ、そこまでは」
「じゃあちょうどいいから話したらどうだ?」
「…はい」
「ん?何か気まずいのか?」
「あの、結婚することになりまして…」
「結婚!?お前がか!?」
「はい、それで相手の実家の家業を継ぐことに決めまして」
「…そうか!そうかそうか!なんだ、めでたいじゃないか!ついに一人の女性に決めたか!」
「…一人の女性に?」
亜沙美が引っ掛かった。
「あ、あの、店長?」
「店にいたときはモテてたもんなぁ。そりゃもう凄かったなぁ」
「て、店長、その辺で…」
直人は早く黙らせたかった。
「ん?何だ?急に焦って」
「結婚相手、私なんです」
亜沙美は少し怖い目をしている。
「…え?」
海野は亜沙美と直人の顔を交互に見た。
千聖も驚いた顔をしている。
馬場は椅子ごと少し後ろに下がり、海野に何かを訴えるような目をした。
「モテてたんですか?藤堂は。取っ替え引っ替えだったんですか?」
「い、いや!そんなことはなかった…かな?」
「店長!そこはしっかりとお願いします!」
「誰とも付き合ってはなかったし!やましいことはないよ!…きっと」
「店長ぉ!!」
「…今度、話しましょうね」
「……はい」
「と、というわけで退職という事だ」
馬場は位置を戻し話を始めた。
「そ、そうだったんだな。今日はお祝いだな!」
「今日は?」
「この後飲みに行こうって言ってたんだよ。退職前に最後にって」
「そうか!それは良いことだ!うん、良いことだ!」
「だ、だろ?馬場ちゃんも来るか?」
「すまんな、私は用事があってな」
「お前、汚いな」
「さて、私は外出する用事があるので失礼するよ。馬渕さん、あとは竹下と藤堂から話を聞いてください。それとすみません、あまりお話も出来ずに」
「い、いえ!来月からよろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
馬場は会議室から出ていった。
「仲良いんですね」
「そう見えるか?」
「言い合い出来る仲って事じゃないですか」
「…まぁ、そうだな」
「ハハハ」
直人はチラッと亜沙美を見た。
「今は大丈夫よ。今はね。馬渕さんに仕事のお話をしなくちゃね。馬渕さん、お時間はまだ大丈夫ですか?」
「は、はい…」
千聖は少し怯えている。
「じゃ、じゃあ俺も行くかな」
海野は立ち上がる。
「店長、どこ行くんですか!?」
「え?えーっと…。ん?」
「……」
千聖は海野の袖を持ち、困った顔で首を横に振っている。
「あっ、用事は無かったかな。もう少しいよう」
再度座った。
それから亜沙美は直人と共に千聖へ仕事の流れを説明し、今マニュアルも作っている事を話した。
事前に不明点があればいつでも連絡してもらって構わない事も説明して話の席は終わった。
「海野店長」
「うん?」
「私も飲みの席に参加していいですか?店にいた頃の藤堂の話を聞きたいなぁって」
「…うーん」
「いいですね、じゃあ行きますね」
強引に決めた。
「竹下さん、仕事が結構残ってるんじゃ?」
「大丈夫よ」
「ほ、ほら、あれはやりました?」
「あれが何かはわからないけど大丈夫よ。何?聞かれちゃまずいことでもあるの?」
「一切無いです」
「ならいいじゃない。ですよね?海野店長」
「お、おぅ…。じゃあ行くか。馬渕さんもどうだ?」
「えっ?あっ、はい…」
「じゃあこの四人で行きましょう!」
亜沙美の急な提案で四人で飲みに行くことになってしまった。
そう、地獄の飲み会の始まりである。




