#67 両家顔合わせ
三月二十二日
直人は家族と共に赤羽に来ていた。
駅から程近いところにある和食屋で両家顔合わせの食事をするためだった。
「…まだ時間ちょっと早いかな」
「十八時からって言ってたわよね?」
「うん、あと三十分ぐらいあるね」
「店はどこなんだ?」
「あっちのアーケードの商店街にあるよ」
「そうか、じゃあゆっくり歩いてれば良いんじゃないか?止まってても仕方ないし」
「そうだね、じゃあ行こう」
直人達はドラッグストアの横の広い道路の歩道を歩いた。
アーケード商店街に着くまでにコンビニや本屋があり、ちょうどいいからと本屋に寄ろうとすると横断歩道の向こう側に亜沙美達がいることに気が付いた。
「あれ?もう来てるね…」
「…どこ?」
「ほら、あの銀行の前。その向かい側が行くお店だよ」
「…待たせちゃ悪いから私達も行きましょう」
「そうだね」
直人はスマホで今横断歩道渡るからと亜沙美にメッセを送った。
亜沙美がそれに気付くと直人を見つけた。
「あっ、ナオ達も来たよ。今、本屋の前で信号待ちしてる」
「…あっ、本当だ。じゃああの二人がご両親か」
「二人ともいい人そうね」
「うん、いい人たちだよ」
信号が青に変わり直人達が向かってきた。
亜沙美が手を振ると直人も手を振り返した。
「早いね」
直人から話しかけた。
「うん、お父さんがね…」
亜沙美が茂樹を見たので直人は挨拶をした。
「今日はお忙しいところありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます」
二人とも同じようにペコペコと頭を下げた。
「父の博史に母の圭子です」
「よろしくお願いします」
博史は挨拶をし、圭子と共に頭を下げた。
「父の茂樹に母の裕子です」
「こちらこそよろしくお願いします」
同じように挨拶をしてから頭を下げた。
「…まだちょっと時間あるんだけど」
「うん、早かったね。お互い」
「亜沙美、ちょっと話をさせてくれ」
「えっ?」
茂樹が博史の前に行き
「この度は本当にありがとうございます!」
勢いよく頭を下げた。
「ちょっ!ちょっとちょっと!何ですかいきなり」
「息子さんにうちの店を継いでくれると言っていただいて本当に感謝しております」
「あぁ、その話ですか。うちは放任主義なので基本的には息子の判断には口は出しません。それで今まで息子が間違ってたこともないですし、何かあっても自分で何とかしてきた奴ですから」
「本当にありがとうございます」
「お父さん、そういう話はお店でしなくちゃ。こんな道のど真ん中でされても困らせるだけでしょ」
亜沙美は注意をした。
「あっ、失礼いたしました。気持ちが先走ってしまいまして…」
「いえいえ、うちの息子が役に立つかどうかはわかりませんがよろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくお願いいたします」
父親同士は頭を下げあった。
「十分前か。ちょっと早いけどお店入ってみようか」
「そうだね」
一行はもう入ってもいいか聞くのも兼ねて、店に向かった。
階段を上がり中に入り予約している旨を伝えてから少し早くて申し訳ない事を伝えると何て事はなく席に個室に案内してもらえた。
部屋は純和室という感じで、いやでも気が引き締まるような部屋だった。
部屋の入り口がちょうど真ん中にあったため直人は少し迷ったが
「位置はどっちでも構わないんじゃない?」
と亜沙美が言ったため直人は入り口から見て右側に竹下家、左側に藤堂家という形で座り、上座から父親、母親、自分達と座った。
紹介はすでに済ませていたので乾杯をしてからはすぐに父親同士で話になった。
運ばれてくる料理を食べながら
「…先程の直人が店を継ぐ話ですが」
「あっ、はい!」
「亜沙美さんもご一緒にとの話でしたが良いのですか?チーフの方だと聞いていますが」
「…娘が決めたことなので父親としては尊重したいと思っています」
「亜沙美さんは良いのですか?」
「はい!直人さん一人だけ辞めてという形は私としても望ましくありませんし、近い将来二人でやっていきたいと願っております」
「わかりました。そこまででしたらもう何も言うことはありません。直人…」
「うん?」
「お前は継いだお店をどうして行くつもりだ?」
直人は少し間を空けてから
「…幸いな事に土台は作ったからあとは任せると言っていただいてるから…」
直人は亜沙美と茂樹を見て
「…一つの計画としてお話いいですか?」
「何か考えてるの?」
亜沙美が初耳だという顔をしている。
「地元のお店との関係はこの前挨拶に伺ったときにわかったので、そこは今まで通り無作法の無いようにして、他の調理器具等をネット販売で一般のお客様に拡販していきたいと思っています」
「例えば?」
亜沙美は仕事モードの顔に変わっていた。
「その辺のお店には無くてあのお店だからこそ扱っている商品があると思うんだ。いわゆるニッチ商材って物が。それをネット通販で販売していきたい」
「具体的には?」
「詳しくは仕入先の扱っている商品を見てからになるけど今お店で扱ってないものでもそれをネット上ではラインナップする。もちろん在庫を抱えてしまうなんて事は無いように注文を受けてから発注してから出荷する形にする」
「…商品到着が遅いとそれだけ利用される機会が減ると思うけど、そこはどうするの?」
「そこは珍しい商品だからっていう理由をランページに載せて、なぜ到着まで時間がかかるかを正直に書いておく。でもカスタマーサティスファクションを上げるためにその商品に準ずる粗品を一緒に送る」
「…ニッチじゃないけど例えば燻製器だったらチップとか?」
「そう!まずはこれでお試しくださいって。でもそれに詳しい人でも喜ばれるような粗品を考える必要があるんだけど」
「その経費は粗利から計上するの?」
「そこからしかないだろうね。例えば鍋一つの今の粗利率ってどのぐらい?」
「大体四割ぐらいだよ」
「じゃあ一割で考えよう」
「簡単に言うけど具体的には?」
「それはこれから商品を見ないと」
「ちょっと!!ちょっと待った!!」
茂樹が止めに入った。
「今はそこまで話す席じゃないよ」
「あっ、すみません」
「ごめん、つい」
直人と亜沙美はしまった!と謝った。
「二人とも職場ではそんな感じなの?」
圭子が驚いた顔をしている。
「亜沙美、あなたは問い詰めすぎよ?」
裕子も仕事モードの亜沙美に驚いた。
「…いつもこんなんだよね?」
「はい」
「娘といて辛いとき無い?」
裕子は直人を心配した。
「実は…」
「ちょっと!?」
「そ、そんなことないですよ」
「その言い方がダメ!」
「たまに本当に怖いときあるよ?」
「…ほんと?」
「うん…」
「気を付けます…」
「…直人」
博史が直人を見て
「お前、ちゃんと仕事してたんだな」
「どういう意味だよ」
「…いや、俺はお前がのらりくらりやってる姿しか見てなかったからさ」
「うん、私もビックリした。ちゃんと考えること出来るんだって」
圭子も話す。
「息子に言うことではないよね…」
直人はうなだれた。
「失礼ながら私は息子さんを見て、私に似ているかなと思っていましたが違ったみたいです」
「…お父さん?」
「いや、すまん。俺は店を継ぐってなったときは言われたことをやっていただけだった。今の直人くんみたいに考えてはなかったよ」
「お義父さんの土台は作ったからというお話を受けた上で考えた事ですので、それが無かったら私もどうしていたかわかりません。こう考えられたのも全てお義父さんのおかげです」
「直人くん…」
茂樹は感動している。
「あと一つの計画としてという話ですので別の考えが浮かんだらまたお話します」
直人は話を終わらせようとし、亜沙美を見た。
「うん!じゃあまたその時に!」
亜沙美はそれを察して話を終わらせた。
その後はお互いに息子と娘の昔の話をしては二人に止められるという光景が続いた。
両家顔合わせの時間は終わりに近付いていた。
「今日はありがとうございました」
直人が立ち上がり言ったあと亜沙美も立ち上がり
「ありがとうございました」
と挨拶をしたあと、両親は店を出た。
直人は会計を済まし、後ろで待っていた亜沙美と後から店を出ることにした。
階段途中で
「…ごめん」
「ん?何が?」
「怖い時あったって」
「仕事なら当然だよ。僕も茶化すように言っちゃったからごめん」
「…本当は?」
「亜沙美から問い詰められるの好き」
「…それはそれで引くけど」
「…じゃあ今のは撤回」
「やっぱりナオって……」
「はい、そこまでにしておいてね」
二人は店を出た。
両家は今後ともよろしくお願いしますと何度も挨拶をしながら駅に向かい、それぞれ帰っていった。




